異世界移動するとチートになるのはなぜだろう?
「以前、『世界の壁』の話をしたのを覚えてる?(同作品『説明してみよう』参照)世界の規模に対して約20マイクロのほとんど無い程の薄い壁が世界を隔てているのを。そして全ての世界に共通するのが時間とも言ったわね?」
確かにと少女はコクリと頷く。
「では問題です。共通するのは時間ですが、しないものは何でしょう?」
「しないもの……ですか………………解らない、歴史とか?」
「ブブー、地球と同じ条件で同じ人物で同じ歴史を辿るのは世界を跨がなくても、10を10の118乗掛け合わせたm先に存在するわ」
「えっマジで?」
「マジで、『この世界』ではないけど貴女のいる世界ではあったわ」
間違ったがトンデモない事実にオリ子は顔を強張らせながら、正解を考える。
数多くの世界を周り、時に世界を救い、魔を打ち倒してきたオリ子。
その経験を生かして考えると……。
「理?」
「おー正解ー‼︎」
パチパチと拍手する観星、手の音に合わせるようにオリ子の周りに花火の様な光のエフェクトが走る。
無駄に力を使ってるなーと溜め息を吐きながら、彼女は観星の説明を待つ。
観星はパチンと指を弾くと、二人の間に小さな銀河系の映像を浮かび上がらせる。
「世界は広いわ。光の速さで動いたとしても、人の人生じゃこの銀河系の端から端まで行くには無理なほど。ちなみにこの『世界』の地球はこの端っこの粒ね」
銀河系の端に赤の矢印が指す。
「まあ、実際には見られてはないけどこんな銀河系はイッパイあるのよ。さて再び問題、貴女の言う世界って、概念としてはどこからどこまででしょうか?」
「えっ⁉︎」
世界。
今まで生きて来て、世界を色々渡って来た。
そんな中で世界と言う意味は漠然し過ぎていて、明確なモノはよく解っていない。
だから彼女は答えられない。
「うーん、良くわからない。今まで、そんな事考えたことないし。あえて言うなら、全部……かな?」
「ンフフー残念。イジワルしちゃったかな? 実は、これだけじゃわからないのよっと」
銀河系の映像が小指程になり、同じ大きさの様々な形の銀河が広間全体に広がる。
「うわー、綺麗」
「ふふー、これだけじゃないわ。それっ」
小さな銀河系の集まりをまとめる様に様々な色の泡が包む。
まるで星屑を詰めた風船の様に。
「この泡が世界よ。実際にはこんな風には見えないんだけど、分かり易くしたのがこれね。で、これが貴女じゃいけない理由」
「えっええええっ何ソレっ⁉︎」
あまりの理由に声のトーンが跳ね上がる。
自分じゃないといけない理由が宇宙規模だった。
普通、じゃない。
「ちょっどゆこと?」
「なんかキャラ崩れてない? まあ、良いけど。以前もエルが言ったけど、高エネルギーを持つ………分かり難いわね。存在力? うーん、まあ神みたいな強い力を持つ存在が気軽に力が弱い人の名前を相手を支配してしまうって説明覚える?」
「うん」
「実はエネルギーの大小は、この世界によって変わるのよ。ココとココの世界を見てくれる?」
そう言われて世界の泡は、一方は色濃くもう一方は薄い色になっていた。
「こっちの濃いのがエネルギーレベルが高いので薄いのがエネルギーレベルが低いやつ」
「まさか私の世界ってこのエネルギーレベルが高くって、その世界に住む私が呼ばれた?」
「違うよ? 高い低いで言えばコッチの低い方だよ?」
「えっ? 違うの? 魔法とか使えるから高いんじゃ?」
「違うんだなこれが。分かり易く見せるとこう」
瞬間、世界と世界の泡が小さな穴で繋がり、泡の中に漂っていた色が濃い方から薄い方へと流れる。
「もし貴女がエネルギーが高い世界から低い世界へと移動するとこうなるわ。貴女に分かり易く言えば内蔵魔力が一気に流れ出すってとこかな?」
オリ子は成る程と頷く。以前言われた、川が上から低い場所に流れるという事はこの事かと。
だとしたら余計に解らなくなる。
「その顔は納得してないわね? まあそりゃそうよ、もう一つの要因を言ってないからね」
「要因?」
「そう、要因。エネルギーのほとんどは安定を求める。これは熱力学しかり、エントロピーしかり、エンタルピーしかり。安定する為にエネルギーのほとんどは粒子の形をとる。その粒子には色んなモノがあるわ、アップクオーク、ダウンクオーク、ボソン、グルーオン、ニュートリノ、ミューオン、ヒッグスなどなど。この粒子の種類を持てるポテンシャル、これが要因にして原因」
「ぽ、ポテンシャル?」
「その世界の人間が持つ理の量とも言うわ。魔法とかがある世界に行った時、自分が前にいた世界と比べて知らない力があるなーとか、物理法則無視してない⁉︎ とか、高次元の存在ってなにっ? とか、スキルっ便利すぎない? とかならなかった?」
「あっうん。あったあった」
以前あった冒険の数々を思い出し、良くあるなんてレベルを大きく上回る驚愕の日々にため息しか出ない。
「もしかして、異世界移動すると強くなるってそれ?」
「まあ概ねそうかな? 異世界移動する時のパワーアップの理由はそれよ。まあ、資質に依るところが大きいからパワーアップもピンからキリまでだけど。ちなみに、パワーアップしない時はその世界の神あるいは管理者によって手を加えられる事があるわ」
この素質とエネルギーの関係は、コップと水の関係に似ている。
我々の生きるファンタジーの無い世界はエネルギー水が少ない、よって人間一人あたりが扱える量は微々たるモノだ。しかし、世界を渡るとその世界は水で構成された世界、水のない世界で生きた人間にとって『水を効率よく集めるためにコップをバケツに変えて生きていた』世界と違い水は扱い放題なのだ。
「て事は………、もしかして資質が高いから?」
「イエース、その通り。異世界から召喚するときは資質が強い人間を選ぶから尚更その傾向は高いわ。ちなみに貴女はバケツじゃなくて、放水車ってところね。ご愁傷様ー」
何故に放水車と呆れながら、オリ子は自分の資質の高さを恨み、まだまだ世界に良いように使われる未来を嘆く。
目の前の存在に助けて貰えれば、逃げられる運命だと知らずに。