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神遊び唄  作者: オピオイド
23/43

儀式宝具

ドラゴン。

龍。

ナーガ。

リンドブリム。


西洋や東洋に限らず人と言う存在に対し、恐怖や崇める対象になるモノの総称。

ドラゴンと言う名前は悪魔を意味する場合もあり、西洋に於いては忌みすべき対象。

人間に対して相対することは絶対の死を意味する、それがドラゴンなのだ。

だからこそ、フレイヤに似せた人形が目の前にいるドラゴンを恐れ風文を盾にして隠れるのは悪くはないはず。

むしろ正常な反応と言える。

だが、グワシッと風文は自分の背中に隠れるフレイヤ人形を容赦なく目の前に掴み出した。


「ヒャー!!!」


甲高い声を上げるフレイヤ人形に頭痛を覚えつつ風文は言う。


「何がヒィーだ。たかが若年ドラゴンが何だ。ファーブニルじゃない分ましだろう?」

「だっだだだだって、ドラゴンですよー!! 火をボォーって噴いたり、あのトゲトゲした尻尾でドカンときますよ!! それで私は抵抗してもきっと堅牢かつ強固な鱗に阻まれて頭からガリガリッてかじられてマズイって、私捨てられてスクラップー!!!」


何か考え事をする仕種をする風文は、一つ思い付いた様に頷くとフレイヤ人形の首根っこん掴む。


「へっ? マスター、何で私を掴んでいるんです?」

「いいか人形。一つ間違いを正してやる。お前の持つ『儀式装具』サンダージャベリンとフレイムソードは今でも昔でも裏の神話で語り継がれる一級の強力な武器だ。サンダージャベリンは最大出力で放てば一撃で城壁に大穴を穿つ、一降りで数多の敵を灰も残さず焼き尽くしたフレイムソードもしかり。そんな強力な武器がドラゴンに効かん訳が無い」

「へっでもでも」

「御託は聞かん!!行ってこい!! いいな!?」


そこまで言うと風文は、掴んだ手を背中に回しフレイヤ人形と背中合わせになりながら自身を回転させて。


「ひえっ!!」

「三剣神道流 颶投げ!!」


緩い放物線を描く様に、おもいっきり投げた。

その線の先は恐ろしい竜の顎の真下。


「ひっひえええええぇぇぇ!!!」

「がんばれよー」


投げ出されたフレイヤが、アイタタタと頭を押さえながら立ち上がると目の前には恐ろしげに立ち並ぶ巨大な牙の群れ。

此処までの急激な話の流れ、突然の戦闘に目を回してしまうフレイヤ人形。

その時だった。


カチンッ。


歯車が一つ噛み合った音が響く。

間隙に落ちたような音と共にフレイヤ人形がフラリと起き上がり、淡く輝いた槍を象った紋様が描かれた手袋をした腕を、ユラリとドラゴンを指差すように目前に持ち上げた。


バチ。


爆ぜる音。


バチバチバチ。


最初は焚火で枝が爆ぜ程の小さな音が、次第に激しさを増していく。

呼応するようにフレイヤ人形の回り、踊るように顕れる数十の光り輝く球。

それを見て風文は唸り呟いた。


「球電か」

『その通り。雷が落ちる時に現れる大気イオンで出来た雷の渦。最大1億ワットのプラズマ球!! 喰らったら一瞬にして灰になるわよ!!』


風文の呟きに応えるどこか楽しそうな姿を見せない観星の声。

観星の声に触発されたか、その威力を見せ付ける様にフレイヤ人形は前に挙げた手を水平に振り払う。

と同時にフレイヤ人形の周囲に浮かんでいた光り輝く球『雷球』が、紡錘状――槍の様――に伸びドラゴンに雨霰と降り注いだ。

雷の槍がドラゴンの鱗に触れるや否や、雷は着弾して爆煙が立ち込める。


「ふむ、少なからずとも効果はあるようだが?」

『当然、無いはずは無い!!』

「しかし観星。お前はドラゴンについて思い違いをしてる。多分エルフェルトの所為だろうがな」

『へ?』

「普通ドラゴンと言うものは倒す事が困難だ。ドラゴンの最大の特徴を知っているか? それは苛酷な環境にも適応できる生態だ。世界の事象の基礎、法則と共に息づく生物といっても過言じゃあないドラゴンが、あれで傷つけられると思うか?」

『『五法』ね。世界の根幹を司る事象たる五法。水法、凝集 垂下 螺旋を司る。 光法、空間 粒子 虚空を司る。 火法、放射 炎上 化合を司る。 土法、引力 結晶 固定を司る。風法、伝播 分解 振動を司る。五法をもって摂理と為さん』

「だったら解るだろう?今あいつが使っている雷はどんなに強かろうと『風法』に属する。そして、あのドラゴンは」

『アースドラゴン…『風法』に属する雷に対する『土法』を根源的に持つ……あはは、忘れてたー』


虚空に響く声はどこかしらごまかしを含む、それを聞き風文は馬鹿が…と呟きながらフレイヤ人形を見る。

そこには完全に人格が変わり、冷ややかな瞳を持ったフレイヤ人形が晴れていく土煙を眺めていた。

晴れた土煙から唸る声。


「こっちの口伝ではない生態の竜か。見るからに異界からつれてきた竜だな? 竜族の魔法…この世界で使えるのか?」

『大丈夫、そこら辺は何とかしてるわよ。だから風文?』

「解っている…吹け、風よ。」


何かの気配を察知したのか風文は振り祓うように腕を振る。

唸り声が止まり土煙から飛び出す巨大な水晶で出来た無数の槍。

それに合わせる様に、風文の手から吹き荒れる暴風が槍を吹き飛ばす。

冷ややかに水晶の槍を見ながら、槍と共に吹き飛ばした土煙の先を見る、そこには所狭しと駆け回るフレイヤ人形。

その動きは猫の様に飛び回り、ドラゴンの目の前の大地から発射される水晶の槍を機敏に躱し続けていた。


「すげーすげー、強力な俊敏さを持ち主に与える…あれが『猫の戦車』か。てーかありゃ猫と言うか豹だな」

『そして残るは大地すらも焼き尽くすフレイムソード!!』

「お前ノリノリだな」


ダンと一段大きく跳ぶフレイヤ人形、空中に躍らせた人形と思わせないような豊満でしなやかな肢体、その右手は大きく掲げられていた。

人形の口元には大輪の花を咲かせたような笑みが一つ浮かび、そこで人格が代わってからフレイヤ人形は初めて口を開く。


「フレイムソード!!」


風文はその光景に目を剥いた。

フレイム、炎とは程遠い程の黄色い光の弧が描きドラゴンを薙ぎ、その軌跡が一瞬にして斜線上を焼き尽くしたのだ。

残ったのは焼き切られた竜のみ。


「観星…あれはフレイムとは言わん、黄色の炎は6000度…一瞬だったから良いが…範囲内だったら余剰エネルギーでも人が死ぬレベルになるぞ、俺まで焼き尽くすきか?」


そして前話の冒頭に戻る。

戦闘モードから通常のモードに切り替わったフレイヤ人形の泣き声と、その主たる三剣風文の苦悩を含んだ長い長い溜息が地下迷宮に響く。

フレイヤ人形にとってはいきなりドラゴンの目の前に投げ出されたと言う理由であり、風文においては人形の武装が洒落にならない程の威力の為に運用出来る状況が少ないのが原因だった。

難しい顔をしながら風文は、誰もいない虚空に尋ねる。


「クーリング・オフは効くのか?」


やや呆れ気味の風文の声に、泣き声が止まりビクリと身を縮こませるフレイヤ人形。

自分の進退を決めるような一言なのだ、気にもなるのだろう。

ただし、評価はかなり低いが。


『共鳴器を介した契約だから綺麗に契約を切るのは無理だよ。まあ力技で出来ないこともないけど、その場合は人形がスクラップになって再び御蔵入りだけど、いいの?』


壊れると言われると押し黙る風文は、内心軽く諦めた。

このまま契約をしたまま観星に預けて去ると言う選択肢もあるのだが、このフレイヤ人形の仔犬の様な性格から考えるに多分ついて来て自分の指揮する計画にイレギュラーを発生させるに違いないと風文は考えた。

チラリとフレイヤ人形の方を見ると涙を湛え『スクラップにして捨てるの?』と言う表情をして上目遣い気味に風文を見ていた。

大人の肉体で捨てられる仔犬の様な目をされれば、スクラップ同然にして倉庫送りにするのは気が引けた風文は、人に決められて後悔しないように口を開く。


「解ったよ。この危険物は引き取る。共鳴器の出力が高すぎて使い勝手悪いみたいだけど、何とかするさ。この『風天』の三剣がな」

「マスター!!」


感極まって風文に抱き着くフレイヤ人形。

その姿は飼い主にじゃれつく犬のようだが、フレイヤ人形の身長が風文より高いために獲物に襲い掛かる女豹にしか見えないのは御愛嬌だ。


『よかったね………ちなみに人形に戦闘を慣れさせる為に地上に戻るまでに10匹程ドラゴンを放してるから。コレって親切心だよね?』

「ちょっと待て、配置って何考えてるんだ!!?? こいつは情報戦用に鍛え上げるつもりなんだぞ!! 戦闘力だけ上げるって現実意味無いにもほどが、ゲーム感覚でやってないか!! おいこら、観星!!」


最後の最後まで観星に振り回される風文だった。

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