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神遊び唄  作者: オピオイド
2/43

とばっちり

「要するに愚痴なのよ・・・天文学的数字を突破して偶然来た君には訳解らないとは思うけど、もう一寸付き合ってもらえる? ほら、食べ物も用意するからさ?」






目覚めたら此処に居た。

何時もと違うベットの感触で起きたら、周りは何処までも続きそうなぐらい広く、そこに敷き詰められているのは淡い白一色のタイル、天井は総ガラス造りの上に冗談かと思うぐらいの巨大な時計が付いている。

更に言えば周りはまだ夜で、天井の時計の隙間から月と星が見える。

寝ぼけ眼で起き上がるとタイル張りの上で寝てた割には身体が痛く無く此処に連れて来られてまだ間もないと言う事だろうと考えた。

視線を感じ横を見ると驚いた。


だって、そこには顔があった。


「うっわっ!!!」


人身をバネにして立ち上がると、そこにはしゃがみ込んだ和装の少女がこちらを見ていた。

その姿に身体が退け、絶句してしまう。

艶のある黒髪に小柄な身体、透き通るような白い肌・・・そこまでだったら良かった。

問題は顔半分を覆った物だった。

鼻の上半分から目を覆った白い包帯、その包帯には奇妙な文字が毒々しい赤色でプリントされていた。

それが花を描いた美しい和服とのギャップでハッキリ言って怖い。

腰が引けるのはきっと可愛い桜色の唇が邪悪──ゲフンゲフン──妖しく歪んでいる所為ではないと思いたい。

とそんな事を思っている内に、その少女は立ち上がってこちらを見ていた。


「ようこそ、天の浮橋へ!! 何億何兆何京以上分の一の確率で此処に来た貴女を歓迎するわ。」


何処かしら妖しげな少女は、何故か歓迎している言葉なのに口元が引き攣っていた。


「貴女、顔に出てるわよ。」


顔の包帯が無かったら物凄い笑顔で睨まれているんだろうと思った。

何故かと言えば包帯があるにも拘らず異常な程の視線を感じる。

視線で人を殺せるなら即死だろう。

だが、そんな視線がふと消える。


「さて、今回来た貴女には・・・さっさと帰って貰うわ何もせずに!! もう面倒なのよ今日は特に!!」

「ええええええ、もう!?」

「元の場所に帰るのが嫌なの?って・・・何か、いやにノリが良いわね・・・。」

「いやはは、こう言う状況に慣れてまして。何も体験しない内に帰るのはどうかとー。」


正直、私はこう言う状況には慣れていたのだ。

普通の人間──一般の人──が聞けば不可解になる言葉に目の前の包帯少女は疑問を口にせずに顔を近づけてきた。


「リード。」


包帯の文字がハッキリ見えるほど近づいて来た少女は、指を私の頭につけて呟く。


「ふーん。色々な所に飛ばされてはその世界の摂理や確定された物語を掻き乱す・・・ある意味停滞する世界を救う役割ね・・・ご大層な事。」


何かを揶揄するような口調、何か気に触ることがあったらしい。

彼女は鼻を鳴らすと、これ幸いと言わんがばかりの不安感を掻き立てるように笑う。


「うわわっ。」

「なるほどなるほど、そんな貴女なら良いわね・・・これはもう色々と聞いてもらおうかしら?丁度貴女すぐには戻りたくなかったんでしょう?これは好都合だわ!! 偶然にもマリアもエルも外に出てるし、守護役の陰険風文と泣き虫フレイヤも外回り出たばかりだから一・二時間は帰ってこない!!」


包帯少女は強引に私の手を掴むと、広大な空間の中心に引っ張っていった。

そこには三脚の椅子と楕円形の大きなテーブルが一つ。

テーブルの上には据え置きしてあるんだろうなぁと思ってしまう程の年季の入った茶筒とポット。


「何か所帯じみてる? 此処の雰囲気と比べて何かおかしくない?」

「生活する上で所帯じみてしまうのはしょうがない事よ?そんな事より、座って座って。お茶は何が良い? リクエストには何でも答えるわよ?」


思っていた事を率直に口に出してしまった事に冷静に返してくる包帯少女は、どこか楽しそうに椅子を勧めて来る。

私は警戒心も抱かずに椅子に座る。

警戒心が無いわけではない、ハッキリ言って目の前の人物が解らない上に色々な場所に飛ばされたと言う経験上で解ってしまったからだ。

目の前でにこやかに笑っている少女は見た目通りの人間じゃあない。

人間である事すら怪しい。


「どうしたの?」

「いえ、なんでもないです。」


不審げに聞いてきているが多分、全て解っているのだろう。

ついさっきの発言が良い例だ。

一瞬のうちに私の経歴を言い当てる。

彼女が言っていた神の存在は信じるかどうかは解らない。

だけど正確には14歳からだった私の人生は波乱万丈だった。

気が付いたら色んな世界、平行世界に飛ばされていてその世界を色々探検する毎日。

一週間の時もあったし、十年に渡る冒険かと思えば一瞬の夢だった時もある。

ある人間の話し相手の事だけもあったし、レジスタンスとして長年活躍した時もある。

魔法だって普通に使えるし、SFチックな技や技術も使えるし解る。

そんな私の経歴を簡潔ながらも正確に言い当てたのだ。

ハッキリ言って、目の前の人物は今まで私が会って来た存在の何よりも不可解な人物。

そんな私の心境を知ってか知らいでか、いや確実に解っているんだろうな彼女は笑顔を向けながら聞いてきた。


「フフ、理解しようとして理解できない?」

「ええ、貴女は何者かと考えている所です。・・・ああ、答えないで下さい。私のモットーは『出来るだけ自分の知りたい事は自力で知る』ですから自力で理解します!!あと、お茶はダージリンがいいかな?」

「はいはい。」


不可解な人物は目の前で何処から取り出したか解らない紅茶の缶を開けお茶を作り出した。

正直、怖くて堪らない。

気が付いたら知らない所なんて掃いて捨てるほどあるが、こんな掴みどころの無い不可解な人物と突然のお茶会なんて怖くて仕方が無い。

だけど、私は動く事が出来なかった。

理由の一つは相手のことを知るため。

どんな事よりも相手を知る事は今後の対処に大きく関係するから当たり前の事で、自分の命を救ってくれるのを良く知っている。

長年の経験から得た勘。

二つ目は不可解な人物だが今の時点で一つ解った事がある。

目の前で楽しそうにお茶を入れている人物は、格が違う。

次元が違うといっても良いだろう。

理由は簡単、私が今までの旅で習得した技術や魔法をいくら起動しても発動しない事だ。

私の今いる世界には魔力もマナも色んな力が溢れているのにも関わらず発動しない、最初から解っていた事だがこの世界は異様なほど力が溢れた世界。

・・・正直に言おう、発動する媒体が豊富にあるにも拘らず発動前に止められている、しかもノーアクションで。

感じる事が出来ない上に、それを知ってて包帯の下にある唇を笑顔で湛えていながら毛穴の一つ一つまでかかる抵抗を許さない柔らかなプレッシャー。

目の前の人物はとんでもない程の化け物だ。

自分の力を過大評価をしていないつもりだが、それでも差は大きいと思う。

最後に三つ目、そんな相手の前でジタバタしても何も始まらない。

此処まで差があるのならば、殺される時は何時だって殺される。

むしろ、帰してくれると言っているならば、この話は乗らない手は無いのだ。


「はい。ダージリンおまちどー。味は保障しないけどね。」

「保障って、あっえと・・・一つ聞いて良いですか?」

「なに?」

「予想なんですが、貴女ほどの人ならば一瞬で紅茶を出す事が出来るんじゃないですか?」


私は疑問を素直に口に出した。

今まで会って来た力ある人々の殆どは自分の力を誇示するように、己の力を行使していた。

それこそ、自分の力を見せ付けるように無駄な事にまで力を使って。

だが目の前の人物は力は、私の思考を読み取る以外は使っていない。


「いや・・・これは一寸理由があってさ。・・・うちにいる口煩い小舅が、言うのよ『力ある者が力を使うのは一向に構わん、当たり前だからだ。人が手があるから手を使うそれぐらい当たり前の事だ。だがな、それが致命的になる事がある。解るか?世界が閉じてしまうのだよ。』ってさ。」

「よく意味が解るよーな解らないよーな?」

「解る解る。解りやすく言えば小さく纏まる者になるなって事。・・・そう考えると・・・あいつら・・・。」


突如機嫌が悪くなる彼女。

殺気こそ出ていないが、あまりの力の強さに肌が粟立つ。


「えーと、何か気に障ることを言いましたでしょうか?」

「ううん、言って無いわ。一寸思い出しただけよ・・・。」


彼女はふっと息を吐くと喋り始める。


「最近、技術的に発達した世界が増えてきた事は良いと思うのよ。でもね、ある程度文明が育つと次元を超えるとかそんな技術を持った連中が出てきてさ面倒なのよ。何が面倒なのって平和と安定を求めるって事。争ってくれている方が楽なぐらい。いや別に争いを肯定するわけじゃないのよ? ただね、平和を願うことが余計な争いを生むのよ。」


話す次元が違いすぎる、最初なのにも関わらず私は付いて行けていない。

そんなこちらの事を構い無しに彼女はカップを両手で包み込むように持ちながら話し続ける。


「国の話で行けば、例えばある国が二つあるとするじゃない? 一つの国は例えば・・・そうねえ、この此処にある国が砂糖しか食べれない種族だとして、もう一つの国が砂糖だけ食べれない種族とするじゃない?」


喋りながらテーブルにおいてあった砂糖壺を二つ適当に置きながら彼女は話を続ける。


「ま、当然ながら二つの国は仲が良くならない訳よ。理由は簡単価値観が違うから・・・解る? お互いの信条に関する事が相反してるのよ。こっちの国は砂糖しか食べれないから砂糖至上主義、こっちの国は砂糖食べれないから砂糖蔑視。そんな状態で仲良くなれるわけ無いじゃない?」


さも当然の様に言う彼女に私は反感を覚えた。

それは、私が行ってきた事を否定された気がしたから。


「でも、人は分かり合えると思います。私はそれだけの経験をしてきたから解ります!!殺したり殺されるから殺し合う、そんなのって悲しい事だと思います!!」

「あなた自身とそう言う考えを持ちうる人間だけだったら正解、全体的な意見だったらどうだろう? 限りなく少ないんじゃないかな? 考えて見なさい、全ての人間は同じように考えられない上に貴女の考え自体は甘いわ。人は争わずにいられない、群れで行動する以上支配しなければならないのよ。」

「そんな事無い!! 言葉を話せるならいつか分かり合えるはずです!!」

「それこそ無駄、支配し続ける限り争いは無くならない。世界には異なるパラダイムが存在するから余計そうなるわよ?」

「パラダイム?」

「そうパラダイム、世界の方針、世界の意思、世界の基準。それを総称してパラダイムと言う。解る? 今さっきの例えで言う所の砂糖の在り方を意味するの、その国においての砂糖のパラダイムは国によって変わる。世界だってそうよ。そして其れはね、元々その世界のみで行われねばならないの。他の世界の人間が率先して関わって変えていくなんて・・・それって侵略よ。」

「ぐっ。」


思わず言葉が詰まる。

私自身がやってきた事をそのまま言われた気がした。



「・・・。」

「先日も何たら管理局とかのが偶然来たけど、記憶消して追い返したわ、くだらないと思わない? 勝手に異世界に来て、自分の理念を通し、相手のことを考えず反抗すれば武力に行使を止む終えない・・・どっちが蛮族なんだか・・・ん? 落ち込んだ?」

「・・・世界・・・力を持つ者、世界を憂う、個ではなく全を見る・・・あなたはまさか!!」


彼女は包帯に隠されて無い唇を薄く綻ばせる。

背筋に再び怖気が走り肌が粟立った。

目の前の相手の本当の姿に思い当たる、世界について憂い考える傲慢なまでの意思を持つ存在、色んな世界を旅していた際に出会ったある人種に良く似ていたからだ。

様々な世界において最高種と言われる存在。


「神。・・・なんで、こんな、私に話すんですかそんな事!! 私が数々の世界に関わっていたからですか!?」



「いや貴女だからって事じゃない、別に貴女がやってきた事は否定するつもりは無いわ。良い方向に世界が変わっている所もあったからさ。今回はね要するに愚痴なのよ愚痴・・・天文学的数字を突破して偶然来た君には訳解らないとは思うけど、もう一寸付き合ってもらえる? ほら、食べ物も用意するからさ?」



次に目を覚ました時は自分の家のベットの上だった。

問題は体重が異常に増えていた・・・あの神様絶対八つ当たりしていたに違いない。



こんちきしょう。


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