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神遊び唄  作者: オピオイド
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学園都市で話を聞こう!!

「であるからして、この雨乞いの『儀式』はすでに現代科学によってシステムが解明され、最もポピュラーな儀式と言える。解明された時点で『儀式』とは言いづらいのだが、スタンダードな儀式で広く使われていたと言う事でテキストに載せてある」


扇状の講堂、教壇に立つスーツ姿の男性がテキスト片手にカツカツと黒板に音を立てながらチョークで文章を書いていく。

男の講義はよどみが無くスラスラと、最初から決められていた芝居のように進んでいく。


「と言う訳で今回は古くから伝わる『儀式』として『占』と『雨乞い』を確率論と話術、気象学の観点から説明した。今日のはテストに確実に出るから、要点を纏めて覚えるように。次回は精霊信仰とシャーマニックから始まる『儀式』の講義なので予習をするように」


男がパタンと勢いよくテキストを閉めた途端、見計らったかの様に授業終了のチャイムが鳴った。

それに合わせて教室に居る生徒達は、授業のノートを纏める者や話し始める者、教室を友達と連れ立って出て行く者と思い々々に動いていく。

そんな中、男が立つ教卓の一番前の席に座る濃紺のセーラー服の少女が頭を抱えていた。


「何で一つの話に確率統計学と気象学、語学が混じって出てくるの~」


どうやら講義について行けなくて、彼女の脳がオーバーヒートしだしているらしい。

その証拠に少女の頭の頂点からは白い湯気がうっすらと立ち上っている。

その少女を見ながら、講義を行っていた男性はヤレヤレと息を吐きながらテキストを纏め近づいた。


「観星、大丈夫か?」

「もー訳わかんない」

「フフ、もうちょっと勉強しろって事だ。さて授業が終わったので、本題といこうか? 私の研究室で話そう」


ポフポフと少女――観星――の頭を軽くと男、重金 浄は笑う。




清潔な印象を持たせるクリーム色の壁紙、その壁紙に汚れが少ない所を見ると部屋の住人が頻繁に掃除しているのだろうと予想される。

しかしながら、部屋の中は少し乱雑になっていた、デスクの上にはPCの大きなディスプレイにキーボードそれと所狭しと積み上げられた本の山。


「…なーんか、研究室って言ったら試験管やフラスコ、それに入った怪しい液体ってのが相場だと思ったんだけど…フツーのオフィスって感じよねー」

「お前の言っているのは一般的な化学系の研究室だな。お前の持ち込んできた物の性質を考えるとP4レベルの施設が必要だから此処とは別だ」

「いや、そう言う事を言いたいんじゃなくってさ…」


P4施設とは微生物や細菌・ウイルスを使い実験や培養を行うために、外界と隔離した特殊な研究施設である。

観星の持ち込んだ物の性質を考えると当然の話なのだが、少し場を和ませるための軽口をそういう風に返された彼女は苦笑いを返すだけだった。


「…相変わらず固いわ」

「何がだ。それより話を進めよう、座りたまえ」


浄に促されるまま備え付けの皮のソファーに座ると、観星は指を軽く鳴らす。

するとどうだろう、彼女のテーブルの前にティーセット一式が現れる。

カップの中にはすでに琥珀色の液体が注がれている。

それを見た書類を片手に来た浄は嘆息しながら言う。


「便利だが、少々感慨がなさすぎやしないか?」

「めんどくさい時は良いと思うけど。それって男性としての感性なんじゃない?」

「かもしれん。さて、一応の報告はこれに纏めてある。口頭での説明は?」

「頂戴」


雰囲気が変わる。

先程までの軽い空気とは違う、少し緊張感の漂う空気。


「では始めよう。お前の持ち込んできた『血液サンプル』から大量のウイルスが検出された。『この世界』にはいまだ確認されていないウイルスだが、PCRで増幅してシークエンサーでゲノム解析を行ったところ一番似ているのがこれ、リッサウイルス…狂犬病ウイルスだ」

「狂犬病?」

「98%一致したからほぼ間違いないだろう。動物実験でサルを使った場合、痒みや風邪の症状から始まり神経症状が出た事も確信の一部だ。違ったのは恐水症の症状や神経系に重大な麻痺が起こらなかった事」

「他には?」

「人間の最低限の本能が残るという事ぐらいか? ただ、これはウイルス自体が感染するための獲得した機構だと思う。マウスによる実験で共食いや性交による感染した事から、感染経路が飛沫感染から考えられると恐らくそうだ。予後としては発症後、ほぼ100%に近い確率で死亡。後これは蛇足だが…名前をつけるならばゾンビ化ウイルスとでもつけるか?」


苦笑しながら浄は答えた。

それを聞き終えると観星は一つ溜息を吐く。


「どこから持ってきたとか聞かないのね?」

「我々『八方塞』を散々異界に飛ばし厄介事を治めさせたお前が言うか?」

「それもそうか」


この主神は少々厄介な存在だと、当代の『八意思兼やごころおもいかね』たる浄は理解している。

いや知っていると言うか己が身に刻まれていると言っていいだろう。

目の前の主神はこの世界の神の特性上、異世界に行っても圧倒的な力を振るえることを知っている。

それ故、他世界の神に頼まれ色々な世界のトラブルを解決するべく、この世界の神を派遣している事があるのだ。

浄はそれに何度も巻き込まれているが故だったりする。

さもありなんと頷く観星を恨みがましく見ると浄は話を継いだ。


「前々回に依頼してきた奴と絡めたかったから誰かを派遣して持ってきてもらったんだろう? おそらく三剣あたりか?」

「はは、教授鋭い!! 正解!!」


楽しそうに笑う観星に浄は、『三剣の奴もご苦労な事だ』と呟き再び溜息を吐いた。

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