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神遊び唄  作者: オピオイド
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学園都市に行こう!!

カッカッカッカッと規則正しい靴音が板張りの床を鈍く鳴らしていた。

淡いクリーム色のスーツを着た肩幅の広い男が、扉が立ち並ぶ廊下を歩いている。

ガッシリとした顎周りと黒縁メガネの奥のぎょろりとした眼が特徴的だが、その振る舞いは何となく知的な雰囲気を醸し出す男。


「信じん私は信じなーい!! そんな物理法則を根本的に覆す様な現象はミトメナーイ!!!!!」


唐突に歩く男のすぐ前にある扉が勢いよく開いたかと思えば、同じスーツ姿の初老の男性が錯乱した言動で飛び出してくる。

何があったのかと男が部屋を見れば、講義を受けるための緩やかな傾斜になっている机達の一番前そこにはセーラー服姿の少女が机に座っているのが目に入る。

ハアッと男が半ばあきらめたように息を吐くと、再び規則正しい靴音をたてながら少女に近づいた。

その音に気が付いたのか少女は首だけを回しと振り返る。


重金おもがね教授おひさー」

「妙な気配を感じたと思ったが、やはりお前か」


振り返った少女は奇妙ないでたちだった。

濃紺のセーラー服と少々短めのミニスカート、そこから伸びる細く白い足に黒いニーソックス…どこら見ても普通の女子高生だった。

問題は顔だった。

長く艶のある黒髪から伸びている不可思議な文字をプリントした包帯が顔の上半分を覆っていたのだ。

言わずと知れた、この世界の主神『天中 観星』だ。


「妙な気配って酷いな、こうやって会いにきたのにその言い方って無いと思うなー」

「そう思うなら今さっき何があったのか言ってみろ。物理学の基山教授が錯乱していたんだが?」


重金と呼ばれた男が呆れたように言えば、観星は顔を明後日の方に向ける。


「いや~…此処に来る時に空間繋いだら、丁度今さっきのおじさんに会っちゃって」

「…何となく予想が付いた、お前…二空間跳躍接合の理論喋ったな?」

「あははー正解、今の時代で空間操作技術理論は受け入れられなかったー。流石に熱力学理論を無視するような話は駄目だったか」

「当たり前だ、まったく…ところで会いに着たと言ってたが何の用だ?」


観星はニッコリと見えている桜色の小さな唇を笑顔にすると、おもむろに顔に手を当てた。

スッと擬音語を当てればそんな感じに聞こえそうなほど簡単に手を動かすと、観星の顔から包帯が消えていた。


「ふむ、相変わらず凄いな」

「べっつに凄くないわよ。リミッター代わりの包帯は外せないから、その上からそう見せかけているだけよ」

「それでもだ。専門の儀式装具ではタイムラグがかなり起きる、幻影系の能力者であれば別だろうがな」


フーンと観星はわりとどうでもよさそうに鼻を鳴らす。


「来た理由は色々あるけど、重要な用件はこの間の解析結果聞きたいなーと」

「ああ、この間持ってきた妙な体液か…解析は終わっているが、何だあの物騒なレトロウイルスは? 何処から持ってきたんだ?」

「そんなに?」

「人間の神経に入り込み逆転写酵素により神経を支配、挙句の果てに元から居る細菌にもプラスミドを使い爆発的増殖をす…どうした観星」


ふと重金教授が気付けば観星は頭を抱えている。

やれやれと教授が頭をポンポンと叩けば、観星は軽く眉間を寄せた顔を向ける。


「少し難しいか?」

「物理系以外の専門的な話はちょっと…『知識の海』の方からダウンロードすれば理解できるんだけど、エルフェルトが『積み重ねの無い知識なぞ、ただのデータだ』って怒るから緊急時以外してないの」

「ふむ一理ある…まともな神が教育役をやっているようで何よりだ…丁度いい、毎回の講義のついでだ補講としてやるから今日の講義に出ろ」


重金がそう言うと観星はエーと表情を作りまたもや落ち込み項垂れる。







「さて。」


扇状に広がる巨大な講堂。

その扇の頂点でもあり、最下層にある教壇の前に立つスーツ姿の男が咳払いして話が始まる。


「君達、日本各地の教育機関から選抜され更に篩い(ふるい)をかけられ、アジア最高学府『辰学院』のサイファ学園都市分校に学びに来た君たちに『オメデトウ』と言って置こう」


やや芝居がかった滑らかな動きを交えつつ男は朗々と喋る。


「では早速授業に入りたいのだが、今日は入ったばかりの君達がこの学院の意義を知る為に先ずは辰学院の歴史を語り、それから授業に入りたいと思う」






辰学院の歴史は古い。

その時代の文献は残されていない為に正確な年代は解らないが、その歴史は世界の『アレキサンドリア ライブラリー』『ブリテッシュカレッジ』『黄学府』にも負けない程だ。

だが、解らない事もある開校の時期だ。

辰学院内の歴史研究者でさえ正確な時期を特定出来ない程に古い。

その原因は遺跡研究の教科書の方に書かれているから、そちらを参照する様に。


話が逸れたな。


しかし、正確な時期が特定出来ないだけではあるが大まかな時期は解ってはいる。

諸君、『古事記』は知っているな?

我が国に於いて天皇の勅命により太安万侶がそれまで口伝により暗誦されていた『帝紀』『旧辞』を編纂して作成した日本最古の歴史書だ。

その歴史書『古事記』の上巻、『天岩戸開き』の一説。


スサノオの乱行に頭にきたアマテラスは天岩戸に隠れる。

天を照らす日の神が岩戸に隠れた為に世界は闇に包まれ、悪い神々が騒ぎ出した。

それに困った神々はヤゴコロオモイカネに知恵を出してもらった。


さて、ここまで言えば解る者は居ると思う。

そこで何かに気付いたような顔をした君、解るかな?




・・・・そうだ、諸君らも知っての通り『辰学院』の学長の名前は『重金 慈心』だ。

重金とは古くから金属を扱い鋳造する一族と言われているが事実は違う。

正確には重い金と書く、隠し名の事だ。

金属に関わらずあらゆる知識を網羅する『知恵と知識』の一族。

これは近年では隠し名はポピュラーになっているので、こうやって言えると言う事を前提に考えて頂きたい。

この辰学院の歴史は、『天岩戸開き』の時期の前後、神代の時期から始まったと言われる。

古事記のその一説が実際あったと考えれば当時、問題ごとがあれば神々は『ヤゴコロオモイカネを訪ねる』と言う図式があったと思われる。

でなければ、アマテラスが天岩戸に隠れた時ヤゴコロオモイカネに知恵を出してもらうと言う事が、スムーズに起こる事は無いと思われるのだ。

この確定していない仮の事実は、ある推論をがでる。

その当時からヤゴコロオモイカネを中心とした何らかのコミュニティが形成されていると思われているのだ。



ああ、そう言えば私の自己紹介がまだだったな。

私の名前は『重金 淨』、この辰学院分校において儀式理論を担当する。

と、歴史の話もそこそこにして儀式の話をして行こうと思う。

それでは…儀式と言うものは…。


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