実力行使!!
「でさー仕事は失敗。一族の誇りに傷がって上役には怒られるは、一族最強も質が落ちたと長老衆には嫌味を言われるわ…もう、散々よ」
「それは大変だったねぇ」
ブチブチ文句を言いながらアップルパイを崩していく栞。
どうやら落ち込んでいたのは、負けた事よりもその後の出来事だったらしい。
「まあ、それだけ栞ちゃんには力があるって事じゃない」
「力があるのも考えようよ? 純粋無垢な小さい時には強くなることだけしか考えなかったけど、いざ強くなって認められて組織に入ってみるとウザクて堪んない」
守部栞16歳・・・この年にして世の中の世知辛さを知る。
そして同じく似たような苦しみを知る人間がここにも一人。
「解る!! 解るわ、栞ちゃん!! 私もこの任に着いてから早六年、色んな事があったもの。」
拳を握りながら、観星もぼやく。
その脳裏には色々な事柄が浮かんでは消え浮かんでは消えとしているのだろう、唯一見えている口元が固く結ばれていた。
「普通ありえないわよ、何でうちの世界にこんなもんばっかり来るかと…。そりゃあね、母さんから聞いてはいたわよ。この地は、あらゆる外世界からはじき出された『何か』が潮の澱みの様に溜まり噴き出す場所だって。でもね、巨大ロボットの残骸とか、怪しげな秘宝とか、訳の解んない無限再生を繰り返す化け物とか、意思を持った本とか…ハハハ。そう言えば宇宙戦艦や異次元の遺跡てのもあったわねえ…もう、うんざりエルが居なかったら辞めてるって」
「なんか、私とは方向性が違う気がするんだけど?」
「あのね、あいつらって時間とか関係なしに来るのよ!? 私だってある程度プライベートってのがあってさ、まあ大抵未来予測出来るから良いけど…たまに予測不能なヤツが来て授業中とか友達との約束が潰れたりとか!! あーもう!!」
「ちょっと観星、聞いてる?」
完全に栞どころか普通の人間とは違う次元の悩みに入り込んだ天中観星17歳、意外と苦労が多い17歳。
突っ込んでも最早聞く耳が無い、更にヒートアップが続く。
そんな観星にそっとアップルパイを一かけら出された。
「まあ、これでも食べて落ち着こうね?」
宥める様に食べ物とお茶の追加を出す、だが剣幕は収まらない。
当然である、今の時点で既にはち切れんばかりにお腹に入っているからだ。
食べれる訳無い。
栞は宥めるのを諦めて話を聞いてやるかと腰を落ち着けようとした、その時。
二人は凍りつくような旋律の声を聞いた。
「ほほう」
力強い感嘆の言葉。
栞と観星は恐る恐る声の主を見て、顔を引き攣らせた。
「やばっ」
「マズッ」
その視線の先では腕と脚を組み獰猛な不適な笑みを湛えるエルフェルトが居た。
やや俯き加減で目元がよく見えず口しか見えないが、はっきり言って怖い。
呟く様に笑っている。
「クックック、お前がそこまで手酷くやられるとはな・・・面白い、それは面白いな」
獰猛なトラが唸る様な笑い声。
何が楽しいのか常人には解らない、それは仕方が無い彼は神なのだから。
好戦的な笑顔を張り付かせ、エルフェルトはまだ見ぬ男を想い拳を握り立ち上がった。
「ちょっエルフェルト!! 何戦う気になってるのよ!? どっどこに行くの!?」
「そうそう」
慌てて止める観星、その声色は盛大に焦っていた。
エルフェルトは完全に戦闘モードに入っている為だ。
彼の身体からは薄っすらと湯気のような物が立ち上り、陽炎のように揺らめいている。
ここまで来ると、次の行動は炎の神ゆえ火を見るより明らか。
「で?そいつはどこだ?」
「一寸待って、エル兄さん? ホントどこに行くの?」
「それは当然お前の仇をとりに?」
「真顔で嘘を言うなーーー!!」
余りの暴走に、何時ものボケとツッコミが完全に逆転しているエルフェルトと観星。
たまにこう言う事は年に何度かある、そういう時はマリアージュが凍るような笑顔で押さえてくれるのだが今回は居ない。
観星自身が使える最終手段もあるが、ハッキリ言って使いたくないと考えている。
だから取れる手段は限られていて、観星は諦めた様に栞にやれと合図する。
その途端、頷く栞の隣に──柄の長さ三メートル鎚の大きさは約一メートルの円柱──巨大な金槌が現れる。
金槌の側面、そこには細かくビッチリと古代北欧の魔術文字で雷と書かれていた。
「やっちゃって、栞」
「オッケー」
重さは一トン以上あるだろうその巨大な鎚を、栞は片手で振り上げる。
「エル兄さん?」
「ん? こら栞、一寸待て!! なんだそれは、オイ!!」
「問答無用!!」
栞は思いっきり振り下ろした。
次の瞬間、大広間に閃光が溢れる。
それは皮肉にも轟雷、『霧島』が司る大雷の光だった。