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神遊び唄  作者: オピオイド
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甘い空気

そんなこんなで天の浮橋に今日も日が昇り、山の端が白く染まり、天照らす。


「ふぁ~あ、あうあうあう」


天高く輝く日の光を司る神の先祖たる主神『天御中星神』の直系、天中観星は太陽を見て盛大に欠伸を噛み殺していた。

顔の上半分に包帯を巻いたパジャマ姿だが、疲れ切った猫背と跳ね回った髪の毛は今の身体状態を如実に表している。

所謂一つの寝不足である。


「うー眠いー」


昨晩、とある世界で哺乳類をはじめとした動植物すべてに罹るウイルスが突如蔓延した。

ウイルスの性質は極めておかしく、人間であれば神経組織に寄生し意識が消し本能が前面に押し出され、身体全てを『死ぬまで』活性させる。

解りやすく言えば『ゾンビ』になるウイルスだ。


「面倒くさいものを作って…何考えてるんだろう。バイオテロ? それともウイルスの特性を考えて人間の進化? どちらにせよ迷惑だわ」


彼女の見た世界はウイルスの蔓延により滅亡寸前だった。

それに慌てたのが『その』世界の神だった。

神と人間の時間軸は大きく違う場合が多い、一番解り易い例が竜宮城だ。

知っている人間も多い昔話の結末は、助けた亀のお礼に歓迎された『海神の住む』竜宮城から帰った浦島太郎は自分の居た時間軸と違う場所に帰ったのだ。

これは『海神の住む』場所と『人間の生きる場所』の時間軸が違うことを如実に示唆している。

それが今回の件に繋がった。

要するに、その世界の神が気付いたときには遅かったと言う事だ。


「しかし、助力を頼みたいって来た時はどんなのと思ったけど…丸投げとは思わなかったなー」


もううんざりとした様に肩を落とす観星だった。

他世界の神に助けを求められて行ったのは、これから起こる因果律の改変とその世界に生きる人間を助ける事だった。

大勢の人間や動物の命が失われおかしくなった世界の流れを因果律の大幅な改変し、それをスムーズに行う為にそれに関わる人間を助け人類を救済すると言う内容だった。

それをその世界の神がやれれば問題ないのだが、それが出来ないと言う物だから…観星は朝方まで手伝ったのだ。

寝たのは朝方、起きたのは先程だ。

自分の立場上、文句言ってもしょうがないかと声もなく呟きながら何時もの大広間への扉を開き…口を引き攣らせた。


ムァッと言う擬音が聞こえてきそうな甘い臭気が観星を襲う。


「うわっ何っこの甘ったるい臭いは!!」


寝不足の上に起きぬけにこの臭気はきついらしく、鼻をつまみながら臭いの元を探る。

臭いの元はすぐに解った、大広間中央に置いてある何時ものテーブルの上。

山の如く積み上げられたカップケーキ、紅茶を使ったてあろう淡く赤いシホォンケーキ、食べかけのクッキーにフルーツマフィンにスコーンにパンケーキ。

ところ狭しと並べられたお菓子の山、山、山。


「なっ何よこれ!?」


よく見れば何時もの席にはエルフェルトが、うんざりした顔で座っていた。

真っ黒いコーヒーの入ったカップを片手に、朝ごはん代わりのだろうか、切り分けられたフルーツマフィンを口にほうり込みながら視線である方向を指し示す。

そこには何時ものマリアージュの位置に、エプロン姿の小柄な少女がボールの中身を泡立て器で掻き回していた。


「栞ちゃん!! いつ此処に!?」

「ん~今朝方?」


来るのは知ってはいたが余りの状態に驚いて聞く観星に、栞は掻き混ぜたボールの中身を搾り袋に詰める。

そして傍らにある巨大なリュックサックからクッキングシートを取り出し、搾り袋から一つ一つ間隔を空け搾っていく。


「何してるの?」

「メレンゲ菓子作ってる」


平淡かつ簡潔な返答に観星は以前あった経験則からある事に思い立つ。


「何かあった?」


搾り袋を握る手が一瞬止まり、スピードアップ。

まさに図星を指されたかの様な態度。

観星はため息を吐きながら自分の定位置へと腰を下ろし、隣の席で足を組んでふんぞり返ってるエルフェルトに尋ねた。


「何があったの?」

「知るか。私も起きたらいきなり手伝わされた。」


顔を見合わせた二人が栞を見れば、微妙に涙目になりながら自棄になったかの様に搾り袋を握っていた。


「重症だな、前回来た時は付き合い始めた男にフラれた時だったか?」

「そうそう、確か『自分より強く男前な君と僕とはつりあわない』とか言われて振られた時だったかな? 前回はたしかドンブリ地獄できつかったけど、今回のお菓子地獄もある意味強烈だわ。」


バンッ!!と唐突に立ち上がる栞。

内緒話が聞こえたかと振り返る二人にヌッとクッキングシートが出てくる。


「エル兄さん…焼いて。」

「お前なぁ…何度も言うが私を便利な調理機と…解った、解ったから涙目で睨むな。」


そう言うとエルフェルトは苦笑いをしながらクッキングシートに手をかざすと、一瞬にしてメレンゲが焼き菓子へと変わった。

と同時に広がる甘い匂い。

観星は慌てて自分の能力を使い空気の入れ替えを敢行する。

いい加減甘い匂いにうんざりと思いながら、先ほどのエルフェルトの表情はそういうわけだったのかと納得した観星だった。

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