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神遊び唄  作者: オピオイド
12/43

マリアージュ その4

ザッザッザッ。  ズルズルズル。


規則正しく大地を踏み締める音が、川の流れる音に混じって聞こえる。

それと同じく何かを引き摺る音が聞こえるが男は気にしない。

黒装束と言ってもいい位の真っ黒なスーツを着た男は、靴音の聞こえる川の上流へと目をやる。


ザッザッザッ。  ズルズルズル。


そこには暗い闇の中に浮かび上がる白い陰、黒いスーツを着た男は目を凝らし、その陰の主が誰なのかを悟ると満面の笑みへと変えた。

その姿を傍から見ていれば、男の白さと闇に溶けたスーツの加減で宙に浮かぶピエロのようでもある。


ザッザッザッ。  ズルズルズル。


白い陰はそんな黒いスーツの男の不気味さにも怯まずに、規則正しく歩いてくる。

いや、足音は規則正しくと言うより舞い上がった様なフワフワと言う擬音が当て嵌まる様な歩き方。


ザッザッザッ。  ズルズルズル。


そしてピエロと白い陰が出会った。

唐突に・・・陰が・・・声を上げる。


「え…あの、こんばんわ、今日はお誘い頂きましっ!! あたたたた!!」

「マリアージュ?大丈夫かい?」



舌が上手く回らずに、あまつさえ噛んでしまったマリアージュであった。






仄暗い峡谷の出口で、立ったまま固まっている二人。

マリアージュはマリアージュで緊張のあまりに今でも倒れそうな位に固まっており、男の方は優しげに微笑んでいた。


「済まないねマリアージュ。私から誘ったと言うのに遅れた上に、能力を全力で使用した反動で身体が動けないなんて…しまらないな」

「えっええ。いえっいえいえ大丈夫です!! 私待つのには慣れてますから!! えと、えと私支えます支えますよぉ!!」


支離滅裂と言えば良いのか?錯乱しているのか?それとも願望なのか、浅黒い肌を真っ赤に染めて必死に意味不明に近いフォローをするマリアージュ。

それを見る男の目はとても穏やかで優しげだった。

そして、そんな二人を半眼で見つめる瞳が一対がボソリと言うには大きな声で呟いた。


「あんたら、いちゃつくなら他所でやってよ」


やや呆れ気味のソプラノの声。

二人が声のする方へ目をやれば、軽トラックに向かい黒装束の男達を片手で引きずる小柄な少女がいた。

その体躯は150cm程の肩は細く薄い、例えるならば中学生位の小さな身体。

それを支える小さな足には、薄い茶色を基調としたスニーカーと刺繍の入ったジーンズ。

オレンジのキャミソールに、肩にはベージュの薄いカーディガンを羽織っている。その上に乗るのは童顔の可愛らしい顔だが…眉間に皺が寄り口元が歪んでいた。


「しっ栞さん!?いつの間に!?」

「いつの間じゃないわよ…んしょっと。ずっと、あんた達が無差別に暴れまわった上に倒して気絶した連中を積み込む作業してたわよ、ずっとね。…うん、これで終わりかな?」


浅黒い肌を真っ赤に染めたまま狼狽するマリアージュをよそに、栞と呼ばれた少女は気絶している黒装束の男を軽々と片手で持ち上げ軽トラックに積み込んで整理している。

小柄な身体からは到底信じられない力、二人には見慣れているのか特に気にせずに話はすすむ。


「取りあえず『念願のデート』にさっさと行った方が良いわよマリア。あんたはともかく、砕破は飛ぶ鳥落とす勢いで成長している『サイファグループ』の長、新進気鋭の若き龍と言われる新会長様なんだから」

「デッデート…ってサイファさん、栞さんどうしたんですか?凄く機嫌が悪いみたいですけど…」

「この間、『守部』の仕事でブッキングした『霧島』と争ったらしいんだが…よく解らない…報告もそれ以外上がってない」


慌て取り繕おうとしたが栞の様子がおかしい事に気付いたマリアージュは、そっと砕破に寄り添い小声で会話を始める。

マリアージュが聞いた話の内容はこうだった。

とある非合法研究所に『仕事』で乗り込んだ栞は、同じく乗り込んだ男に阻まれ惨敗したらしい。

しかし、ただ惨敗しただけではなく、手加減された上に手玉に取られると言う彼女にとっては屈辱的な負け方だった。

それゆえの不機嫌、更にその不機嫌さ助長するのは冬なのに妙に暑い砕破とマリアージュの距離。

二人の距離はおおよそ20センチ、離れたくないのと心のむず痒さで離れたい気持ちが拮抗しているそんな距離。

その甘酢っばく微妙な距離に栞は降り払う様に言う。


「あーもう、うっさい!! あんた達は見てて暑苦しい!! 二人はどっか行け!!」

「暑苦しいって何ですか、私はともかくサイファさんに何て事言うんですか!?」

「自覚してないてのは見苦しいわよ」

「自覚しています私は!!」

「アーハイハイ、二人とも止め、止め」


仲睦まじく寄り添って話す二人に腹が立ったのか、怒号を上げる栞。

それを受けて立つが如く、いつもの優しげな面が崩れるようにマリアージュがまくし立てる。

ようやく砕破が動ける様になったらしく、二人の間に入り込み仲裁した。


「もう、良い?砕破。一言言わせてもらうけど古から続く盟約に従って今持ち回りで私はここに居る、けれど立場上あんたとは敵側…解る?」

「解ってますよ、栞さん。それでも我々は…」

「それじゃあ、観星さんの事お願いしますね」

「ホントにわかってる?…それじゃあ、交代は明日後に」


機嫌が悪い栞には余り関わらない方が良いと判断したのか砕破は、目で『妹を頼む』と合図するとマリアージュの手を引いて闇へと消えて行った。


「まったく世話が焼ける・・・。」


気を使ったのか、はたまた本当に腹が立ったのか不機嫌そうに言うと栞は傍らの草むらから巨大なリュックサックを取り出し担ぎ峡谷の闇へと消えていく。



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