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神遊び唄  作者: オピオイド
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ガチン。


巨大な時計と一体化している屋根にある長針が、12を表わす神代文字を指し示す。

時計の針を動かすギミックの大きく開いた隙間から見える空に、高く白く神々しいまでの月が煌々と独り寂しく光を放っていた。

月の光に照らされて時計の大広間が蒼く染まる。

そんな中、日本に伝わる古い寝着を纏った女性が、広間の蒼さと対照的に空を見上げる姿で白く浮かび上がった。

その姿を見た者は色々な意味で息を飲んだだろう。

着物の端々から覗き出る白い肌に。

硝子細工の様に簡単に壊れそうな身体の細さに。

そして、あどけなさを残した口元より上に巻き付けた数多の神代文字を書き込んだ包帯に。

包帯で隠れた目で何を見ようとしているのかは解らない。

ただ、その姿は月と同じ様に神々しさを醸し出していた。


「何を考え込む?」


深い重低音の声が響く。深みのあるバリトンの声を聞けば卓越した精悍な老人を思い描くだろうが、優雅に振り返った女性の先には熱気を纏っていると勘違いしそうな熱い笑みを湛えた若い男がいた。

男の服は広間や女とは対照的に紅に包まれている。

短く切り揃えた髪の下にあるギラギラと輝く黒い双眸が、独り立つ女を見ていた。


「ん~? 何を考えてるって言ってもね~ただ単に月見てるだけ。」


その姿とはギャップを感じさせる程の脳天気な声。

そんな事はいつもの如く、動揺も無いままに男は言葉を継いだ。


「月か・・・こっちでも月はあると初めて来た時は漠然と考えて、思わず笑ったな。」

「ふふ、あるわよ。それと貴方の世界じゃどうか知らないけど、こっちじゃ神様。」

「ほう、神か。」


唇を不敵、且つ挑戦的な笑みに変えながら女を見る。


「ええ、神様。孤高に輝く寒々しい蒼い光、その光が罪を持つ神を殺すと言われる月の神様。」

「それはまた物騒な神だな。」


言葉とは裏腹に男は愉しそうに空を見上げた。


「そうね、とっても物騒。」


女も愉しそうに見上げた。


「だか、俺とそっくりだ。」

「え!?」


自嘲混じりの声にあからさまに反応する女性。


「何だ、その反応は。」

「だって、月を見て月の神様って言うとなんか、ナヨナヨってして繊細な顔立ちで美形って感じでしょ? それと比べれば。筋骨隆々、人の嫌味も笑い飛ばす、殺しても死なない人が似ているってねぇ。」


包帯の上からでも解る『一目瞭然』と言わんがばかりの笑顔。


「はっ確かにな。似てるのは神殺しだけか。」

「いいえ・・・エル、全然似てないわ。月の神様は裁きで殺しても、貴方は止める為だったでしょ。異界の炎神エルフェルト・シュレッドメイヤーは、狂神へと堕ちた友達を救う為に殺し『喰った』。」

「・・・・。」


炎神と呼ばれた男、エルフェルトは喋らない、ただ沈痛の面持ちで空を見上げていた。

そんな男に女が躊躇いもなく話を継ぐ。


「・・・私ね、貴方みたいな人知っているの。」

「俺みたいな奴?」

「ええ、貴方みたいな人。大切な人を止める為に殺して、大切な人の為に戦った人のお話。・・・聞く?」

「・・・差し支えなければな。」

「ええ。」


エルフェルトが女を見ると女は柔らかく微笑をたたえていた。

不意に空気がかわる。


「でも、少し待ってて。門が開く。」

「ほう、新しい奴が来るか。」

「ええ、ほら。」


コウ。


月の光とは違った光が時計の大広間に溢れる。

広間の床一面に描かれた神代の文字が輝く。「さて、お客様が来た。どうやってもてなそうかしら?」

女は呟くと楽しみに笑った。


強い光りが満ちる。

柔らかい月の光ではなく、強くそして何かを顕現させる様な光。

館自体が輝く。いや、光は館を包む森や大地からも発せられている。

赤、青、黄、白、漆、灰、紫、瑠璃、茶、様々な色が大時計の広間に奔流の如く渦巻いていた。


「門が開くか。」

「ええ。」


光が粒子となり何かを形作る為に、その何かに粒子が殺到していた、その光の奔流の近くにいる二人は、その幻想的とも言える状況を当たり前の如く受け止めている。


「前回の連中もそうだったが、この顕現方法はどうかならんのか?鬱陶しくてかなわん。」

「私に言わないで・・・それに、先代の『星読み』から聞いたら昔からこう見たいよ、この顕現方法は。」

「どうにもならんと言う事か。」

「そう言う事。」


エルフェルトは光から目を守るように手を翳す。

女は包帯が瞳を守っているので問題がないと言わんがばかりに、その光景と相対していた。


「まあ、もう少しで終わるから辛抱してね。」

「ああ。」


それきりで興味を無くしエルフェルトは自分で沸かしたお湯を使ったお茶を飲む。


ゴウ。


音が聞こえた気がした。光が粒子が固定化し、人の形として顕現する。


うぁん。


途端に光の奔流が止まる。

そこには横たわる二人の人影。


「ようこそ、天浮橋へ。」

はじめまして!!

『変わる世界』と世界設定と投稿担当オピオイドと言います~


以前からいろいろと書いていましたが、某SSを途中で打ち切ってしまってからの久しぶりの投稿です。

変わる世界やいつもの日々に戻るまでなどの根幹の部分を根ざすため、他の二編の設定ネタばれを嫌う方は回れ右推奨な話です。


ではご意見ご感想お待ちします!!

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