行成と道長
内裏にて。
「近頃、公任殿が奇怪な行動を取っておられるようですが……」
「ほう。奇怪な行動とは?」
中納言藤原行成が左大臣藤原道長に、最近の宮中の出来事について報告をしています。
「はい。女房達の話ですと、公任殿は何もない空間に向かって、一人で楽しそうにしているそうです。まるで、公任殿だけには何かが見えているように……」
行成は自分も見た、公任の奇妙な言動を思い出します。
ちなみに、女房というのは召使いの女性のことです。
「物の怪にでも憑かれたか?」
「いえ。先日、陰陽師に公任殿を見させました所、何も異常はない、と申しておりました」
「では一体、公任はどうしたのだ?」
「さあ……。私には分かりかねます」
内心は「気が狂ったんじゃないか」とか思ってますが、公任への侮辱と捉えられ色々と面倒なことになるのが嫌な行成は黙っています。
「そういえば、公任殿が旅に出たいと呟いていた、とも聞いております」
これも内心「旅ついでに地方に左遷されちまえ」とか思ってますが、やっぱり黙っておきます。
「旅か……。良いのではないか。公任も疲れているのだろう、たまには休息も必要だ。行成、公任に伝えておいてくれ」
「承知致しました」
やっぱり内心は「チッ、面倒臭ぇな」とか思ってますが、道長に逆らうのはめちゃくちゃ恐ろしいので、行成は顔色一つ変えずに了承します。
「天才と狂人は紙一重というからな……」
誰もいない所で、行成は小さな声で呟きました。
行成さんは公任さんへの連絡係になってます。