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ここはドコ?



「……おい、起きろ……おいお前、起きろ」


 誰かの声が聞こえた。


 起きろって、もしかして私、寝てた?


「……すっ、すいませんっ、えっと……」


 私は飛び起きて、起こしてくれた相手にお礼を言おうとした。しかし、お礼の言葉は驚きで飲み込まれた。


「やっと、起きたようだな」


 ……ここはドコ?


 私は紫音、記憶喪失ではないみたいだけど……。


 え、ちょっと待ってよ。ここはドコ? マジでドコ? 


 私は公園のベンチで寝てたはず。誰かの家の中、床の上で寝た覚えなんてない。桜並木やクレープ屋さんが近くに見えるはず……。


 それに、この人……。


 私を起こしてくれた人を見る。


 着物。どう見ても着物。頭の上には変な形の帽子を被り、髪をその中に入れているみたい。


 三十代半ばの男の人で、顔は普通。


 でも、着物。何度見ても着物。色は紅葉みたいな橙色。


 時代劇とか大河ドラマで見たことがある。


 というか、さっき教科書でこの着物と同じ様なのを着た人の絵を見た。


 平安時代の貴族……。


「何、じろじろと見ておる。無礼者め」


「あっ、ごめんなさい。えっと、その……」


 まだ上手く状況が飲み込めない。


 何で、私の目の前に平安時代の貴族風の格好をした人がいるのか、それにここはドコなのか。


「何だ、言いたい事があるなら早く言え」


「あっ、はい。えっと……。あなたは何者ですか?」


 その言葉を聞いた途端、男の人はかなり不機嫌そうな顔をした。


 あ、もしかして「何者」は失礼だったかも……。


「な、何者だと。お前、私の女房だろう。寝惚けて、仕えている主君の顔まで忘れたか」


 はい? この人、何言ってんの? 女房って妻って意味だよね。何で私がこの人の妻なのよ。


「何言ってるんですかっ! 私はあなたの女房じゃありませんっ! あなたと結婚した覚えなんかないですっ! 変な勘違いしないでくださいよっ!」


 私、こんなオジサン、恋愛対象外なんだから。お父さんと同い年くらいだし。


「私とて、お前みたいなのを妻にした覚えはない。既に妻も子どももいる身で、何故お前みたいな阿呆面の女を新たに妻として迎えるのだ」


「初対面の人に向かって、女房だのアホ面だの、あなた失礼過ぎっ! 一体どんな教育受けてきたのよっ? あなたの方がよっぽど、アホじゃないっ!」


 どう見たって年上の人だけど、敬語なんて使ってあげないんだから。


「……何だと。たかが女房風情が、この天才「三船の才」、四条大納言、藤原公任に説教とは。阿呆を通り越して、身の程知らずだな。もしや狂ったか?」


 その「キントー」とかいう人は、すっごく偉そうな態度で私をバカにしたように言った。


「キントーなんて、変な名前! それに自分のこと天才っていうなんて、超ナルシストッ!」


 私も負けずに言い返した。すると、キントーさんのこめかみ辺りにピクッと青筋が浮かんだ。


「なるし……。どうやらこの私を侮辱しているようだな。だったら、お前の名は何というのだ?」


「桜紫音よっ! どう、カワイイ名前でしょ?」


 キントーなんて変な名前に負けるはずがない。


「しおん……。ふんっ、お前の方が可笑しな名ではないか。桜という姓も聞いたことがない。どこぞの田舎者なのだ、お前は?」


 鼻に付くような嫌な話し方だな。絶対、この人に友達はいないと思う。


「私、都会生まれの都会育ちなの。あなたの方が田舎者じゃないの? 今時、着物ってどんなセンス? そんなコスプレ流行らないよ!」


「こ、こすぷ? それよりも私の方が田舎者だと……。笑わせるわ。まあ、摂関家の本流は逃したが。祖父は清慎公藤原実頼、父は廉義公藤原頼忠、申し分ない出自だろう。私の元服の儀なんて、同世代の誰よりも華やかだったのだぞ」


 一瞬、昔を懐かしむような切ない眼差しが見えた。でもこれだって自慢でしょ。親自慢。


「言ってること、訳わかんないんだけど。親や昔がスゴくても、今のあなたはどうなのよっ⁉」


 これはどうやら禁句だったらしい。


「なななな、何だとっ! い、今の私だってなあ……。と、とにかく天才なんだよ、私はっ!」


 えっ、いきなりの動揺。


「ほら来た、ナルシストッ!」


「何だと、阿呆女房っ!」


 しばらく、子どものケンカみたいに言い合っていた。

四条大納言・藤原公任の登場です。

紫音はまだタイムスリップしたことに気付いていません。

ここでいう女房とは偉い人の周りの支度を整えたり雑事を行ったりする召使のような人です。

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