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第7話 アボガドとキラーラビット

明久をこうも夢中にさせる葦原とは何者なのか。キンポウゲでひと悶着あったものの何とか無事に葦原に接触した比奈達。そこで明久も知らない葦原の素性が明らかになる。

急に訪ねて来たので茶菓子もないと言っていた葦原だったが、おやつに買っていた和菓子が残っていたのでお客人に小豆最中と緑茶を出した。葦原が用意をするまでの間、特に比奈は周囲を確認して怪しい物がないかなどを確認する。危険があればすぐにここを脱出しなければならない。本来の計画では坂本は外で待っていなければならなかったが今回は彼まで一緒に同室してしまっている。これでは万が一の事があれば通報するなんて事ができない。


しかし比奈の予想に反して室内は私物が少なく見渡す範囲でおかしな物は見当たらない。変な匂いがしたりおかしな薬が置いてあるなんて事もない。ひとまずは安心した。やがて明久と葦原が席に座って3人と向かい合う。


「それで、私に用事って何かな」


「率直に言って、葦原さんと明久ってどんな関係なんですか?」


中田が少し困惑した。それは事前に説明していたからだ。もちろん比奈も内容を忘れている訳ではない。『設定』であれば回答にズレが生じる可能性があると考えたためだ。葦原は顎に手をやる。


「そうだなぁ。友達かな。だよね?」


「まあそんな所」


比奈は首を傾げる。


「あやふやですね」


「私は明久君を心から親しんでるけど、明久君が私をどう思ってるか分からないし」


「毎朝お散歩しても毎晩夕ご飯を作りに行っても友達としか認識してくれないし」


今度は比奈が困惑した。中田から聞いた話と違うがこれではまるで明久がほぼ一方的に好意を寄せているだけのようではないか。今回、比奈達が家を訪問したのは葦原達にとっても想定外の事だったはず。これは一体どういう事なのだろう?頭を捻って考える。


いや、そうか。中田の時がそうだった様にあらかじめこういう回答をすると言うマニュアルがあるのかもしれない。いくつか質問すればボロを出すはず。そう考えた比奈は引き続き質問を重ねる。


「明久とはどこで知り合ったんですか?」


「バーチャルワールドって言うネトゲがあってね。数年前そこで知り合ったんだ。つい最近サ終したんだけど、その時にボイスチャットをしたんだよ。その時にうっかり私がビデオ通話機能をオンにしちゃって。それで意外に近くに棲んでる事に気付いた明久君が私の家に来ちゃったんだ」


葦原はリビングルームの隅にある机とパソコンを見せた。スマホを固定して操作するスタンドがある。ビデオ通話をオンにするとベランダが見えてしまう。慣れたアプリだったのでまさか誤操作するとは思っておらず、またワンボタンで警告もなくビデオ通話に切り替わるなど知らなかったのだ。


「え、バーチャルワールドがサ終したのってつい最近なんですか?数年前からオワコンオワコン言われてたんでもうとっくにサ終したものかと思ってました」


坂本が食いついた。ネットでも散々言われてた事だったので葦原も思い出して苦笑する。


「サ終が決まったのは去年ぐらいだったかなぁ。もう2年近く大したイベントもなく何となく続いてたからそう思われるのは無理ないかも。一応、最近の人気作とのコラボは時々やってたんだけどね」


葦原は話をしながら手元に置いてた小さな紙の箱を開けた。中には小さな紅葉や貝殻や花など様々な形をした小さな落雁の様な物があり取り出して明久に食べさせようとする。比奈はハッとした。錠菓とはとても思えない。明久が口を開けて受け取ろうとするのを遮る様に言う。


「そ、それなんですか!」


「これ?和三盆って言うんだ。知らない?」


行きつけの茶屋で買ってるらしい。比奈は確認のためにメーカーを確認するが間違いなく実在している。葦原は何を疑われているのか分からず明久の1つ食べさせてから自分の分も食べる。比奈達もどうぞと渡された。おそるおそる食べてみるが大変美味な砂糖菓子だった。


比奈はお茶と一緒にお菓子をいただきながら内心戸惑う。彼女は新しい情報を結論に基づいて解釈し続けているがどうも納得がいくストーリーが浮かんでこない。葦原は想像に反してどう見ても無害な人物である。しかしまだ納得はしていなかった。


「えっと…お仕事は何を?」


「そう言えば聞いた事なかった。何やってるの葦原さん」


明久が席を葦原の隣に付けてもたれかかりながら尋ねる。親しんでいると言うよりは懐いていると言う印象だ。こんな様子の明久は友達の彼らでも見た事がない。葦原も慣れてる様子で特に気にする様子もなく和三盆を一つつまんで明久に食べさせる。


「言ってなかったっけ。システムエンジニアをやってるよ」


葦原さんは職場を指差した。すぐ近くである。以前勤めていた会社より給料は安くなったが前よりも時間に余裕ができて、長らく勤めている知り合いのバックアップもあってうまくやっている様だ。守秘義務のせいで以前の職場にせよ今の職場にせよ仕事については殆ど語れないのだそうだ。


「年を取ると過去を思い出補正で美化しがちでさ。若さを神格化する人も出て来るんだよ。若さを理由に平気で他人を使い潰そうとしてくる人もいるから皆も社会に出たら気を付けてね」


過去を思い出してげんなりした様子で言う。中田はいわゆるスパルタ教育で無理をさせて何人も怪我人を出して懲戒処分になった運動部の顧問を思い出してた。半ば馴れ合いの場と化した運動部を立て直しかつての強豪校としての栄誉を取り戻すべく必死だった。


それから比奈は諦めずに食い下がって様々な質問をするがどう探りを入れても葦原はくたびれた社会人と言うぐらいの事しか分からず、ボロと言ったボロも出さなかった。坂本が比奈を小突く。そろそろ潮時だと言いたいのだろう。


葦原は時計を見た。


「…そろそろ日が暮れる。あまり遅くならないうちに帰った方がいい」


結局中田から聞いた話と多少のズレはあったが話が設定として矛盾する事はなかった。叩いても叩いてもボロはでなかった。比奈はまだ納得いかない様子だったがこれ以上粘っても成果はでないと判断して引き上げる事にした。


席を立って出口に向かう途中で比奈はふと振り返る。


「葦原さんとの出会いを通して感じた違和感、やっと分かりました。学生時代の付き合い、職員との付き合い、転職、体調を崩した話。色々と聞きましたが、その話にはどこにも家族がでてきませんでした。また、家に帰ってる様子もありません」


「巴、あまり無遠慮に人のプライベートに踏み入るもんじゃないよ」


葦原が言葉を発する前に明久が割って入る。葦原は明久の肩を軽く叩く。


「いや、いいんだ。…うちの家族は全員お互いが好きじゃないんだ。私が大人になってからは父も母も兄も別居してる。家族の繋がりらしい繋がりと言えば戸籍ぐらい。長らく会ってないけど、生きてるのか死んでるのかも分からない」


「そう…ですか…。 不躾な事を聞いてすみません」


「ううん。大丈夫。それより気を付けて帰ってね」


そうして葦原や明久と別れて帰路へ向かう3人。キンポウゲを離れてから中田が口を開いた。


「な?少なくとも悪い感じの人じゃなかっただろ?」


「正直言って葦原さんより明久の豹変ぶりの方に驚いた」


坂本が肩を竦めて言う。日頃の彼は誰とでも一定の距離を開けている。ぼーっとしてる様で周りをよく見ていて警戒心も強い。葦原に対してはそんな様子がなくお菓子を口に入れてもらっていたり、寄りかかって眠そうにしていたり、話しの途中でソファで寝たり、学校にいるよりもずっとのびのびとしていた。


話しは聞いていたが頭の中であれこれと考えている比奈は何も言わずに黙っている。


「比奈はどうだった?」


「え?うん…。葦原さんは悪い人じゃないと思うよ」


最後まで懐疑的な姿勢を崩さなかったのでこの回答は2人にとっても意外だった。てっきり後日再調査するなど言い出すのではないかと思っていたほどだ。比奈は顎のあたりに手をやって目を俯きがちに考える。


「ただ、明久が少し心配」


そう言いかけた所でバスが隣を通ったので彼女が何を言おうとしたのか2人は聞きそびれた。中田が聞き返す。


「ごめん、よく聞こえなかった。何だって?」


「ううん、何でもない。帰ろうよ」


そうして3人はそれぞれの家に帰って行った。





3人を見送ると葦原と明久はリビングルームに戻った。葦原は晩御飯の支度をしようとしたが明久に厨房を追い出されて仕方なくソファに座って寛いだ。電話帳を確認すると今でも通じるのか分からない家族の電話番号を眺める。しかしすぐに閉じて机にスマホを置いて寝転がる。


瞼の裏に映ったのは幼少期の頃の思い出。彼が家族に対して考え方がドライになったのは中学生になってからだったが、それまではどうして家族は自分を愛してくれないのかとずっと悩んで生きていた。あの頃の自分の傍に自分がついていてあげられたなら、今でもこうして昔の事を思い出して嫌な気持ちにならずに済むんだろうか。なんて考えて馬鹿馬鹿しくなって笑ってしまう。


PRRRRRR…。


電話が鳴った。スマホには樋口の名前が表示される。葦原は首を傾げて電話に出る。


『ああ、葦原さん。ちゃっす。樋口です。お時間大丈夫ですか?』


「うん。大丈夫だよ。どうかしたの?」


『葦原さん、スリーフィーズってゲーム持ってませんでしたっけ』


「実況で見た事があるぐらいでプレイした事はないよ」


『ヴェッ!??マママ、マジですかぁ』


「どうかしたの?」


『いや、それが実はですね…』


スリーフィーズは3Dパズルアクションゲームであり樋口がここ最近ライブ配信しているゲームのタイトルだ。発売そのものは去年だったがつい最近の樋口の投稿した切り抜き動画で再び注目を浴びだした。それで競うように配信者たちが動き出しているのだがこのゲームは1つ難点がある。それは3人揃わなければゲームが開始できないと言う事である。


一応野良プレイヤーとマッチングもできるのだが通話しながらでなければタイミングを見計らうのが難しいステージも多々あり、特定の有名配信者の動画に載るチャンスと見て無自覚に迷惑行為をしたりアンチが湧いたり目立ちたがり屋のチーターが湧いたりと混沌を極めている。そうした理由からリア友や信頼できるネッ友とフレンドになってプレイする事が公式から推奨されており、そういう企画でもない限り配信者は寄り付かず一般的なプレイヤーでさえ野良とはプレイしたがらない。


樋口は多くのフォロワーのいる現在勢いある配信者であり、付き合いのある配信者もいる事にはいるのだが…。ゲームの性質上の問題でコラボ相手の取り合いになったり、1人欠員が出るとゲームが進められなくなったり、ゲームの進行が遅れている相手がメンバーにいれば遅れてる分を一緒にプレイして進めなければならないなどの制約が大きい。


全体のステージ数そのものは8つほどだが問題なのは1ステージのプレイ時間の長さだ。チェックポイントは点在しているがゲームを終了させれば最初から。パズルアクションとあって頭を使うのみならず操作の精度も求められる。幸いチェックポイントからチェックポイントまでは長くないが繰り返し失敗する事で徐々に集中力は落ちて行く。既プレイの3人が揃えば1ステージの攻略に1時間もかからないが3人共初見であれば2時間以上は悠に超える。操作性とカメラの悪さが難易度に拍車をかけていた。


視聴者は目新しさを求めている。既に他のグループ配信者に先のステージを越され話題をさらわれそうになっている。本来ソロ配信者である樋口はこれが中々辛い。これ以上遅れる訳にはいかない。そんな状況だった。


葦原はマイナーなゲームをプレイしている配信者の動画を見ていたのでそのゲームを知っていたが樋口はその話を聞いて葦原がそのゲームを持っていてプレイしているものだと誤解したのだ。


『ぐぬぬ…。致し方なし、今晩の配信も中止にするしか…』


「何かあった?」


明久が晩御飯を持ってリビングルームに現れた。今日のご飯はけんちん汁と煮っころがしだ。


『んお?その声はアッキー!』


「?」


葦原は樋口の状況について話した。彼は料理を机に置いて電話をかわる。


「僕そのゲーム持ってますしクリア済みですよ」


『マジか!助けて!!』


もちろん数十分後に始まる配信に参加してくれと言う意味である。明久は葦原の方を向くと彼は首を縦に振って彼女の応援を頼んだ。


「樋口さん…いや、アボガドさんの頼みとあれば」


『やったー!アッキーマジ天使!』


樋口のHNはファンにはアボガドさん、アボガド姉貴と呼ばれている。配信中の言い間違いをきっかけにそう呼ばれる事になった。元々こんなに長らく配信者をやる予定ではなかったのであまり深く考えず付けたHNなのでどう呼ばれるかなど気にせず適当に決めたため今ではそれで通っている。


明久はテレビを操作してゲームサイトを開くと自分のアカウントにログインした。それから検索機能で埋もれていたスリーフィーズを掘り起こし、チャットで送ってもらったコードを検索してアボガドとフレンドになる。


「すみません、感覚を取り戻すのにちょっと野良で潜って来ます」


『あー、いや、コラボ相手の子と顔合わせ紹介したいのと前回のチェックポイントに戻る作業があるから配信前のプレイに付き合ってくれる?ブランクは何とかカバーする!』


「了解です」


そうして樋口のグループのロビーに向かう明久。配信前の準備と確認のために棒立ちになっているアボガドのアバター。少し待っているとコラボ相手の配信者がやって来た。既にゲーム用のボイスチャットに切り替えてあるので相手の方から声をかけて来た。


『おばんです~。アボガドさん?』


透き通る様なクリアなアニメ声が印象的な炬燵ムリと言う配信者である。


『ちゃ~』


『今日もよろしくお願いします~。この子は?バミウダさんじゃないよね?』


樋口は改めて明久を紹介する。配信者ではない事、そこそこ付き合いの長いネッ友である事、男性である事など。今回明久の呼称はアカウントにそうつけている通りキラーラビットで呼ぶ事になる。


「お二方の事情もあると思うので僕はタイピング入力で返事します」


『んえ?今の声ががキラーラビット君?声の低めの女性って言えば普通に信じる』


炬燵ムリが驚いて言う。明久は初見だと喋る事で辛うじて男性だと分かるが、電話越しだと声の低い女性の声に聞こえる。


『いや、私達だけ盛り上がってもアレだからキラーラビット君もめちゃめちゃ声出していいよ。一緒に配信を盛り上げよう!』


『細かい事は抜き!楽しんじゃおー!』


いきなり配信者でも野良でもない謎の人物が紛れ込めば視聴者やファンもあれやこれやと邪推するのではないかと考えたが2人は気にしなくていいと言う。それから前回の地点まで一緒にプレイする。


配信に向けてテンションの高さを上げるためのウォーミングアップも兼ねてややオーバーなリアクションも入れて行く。確かに明久だけ黙っていると少し雰囲気が悪いかもしれない。ブランクもあって明久が度々チームの足を引っ張る。


「ぐあー。すまねえ2人共、わっちの骨は拾ってくれい」


自分がミスした際にリアクションをする明久。


「「「!?」」」


樋口や炬燵ムリや葦原が驚いた。元の声からは想像もできないけだるそうな女の子のアニメ声が明久から飛び出して来たのだ。その声の特徴はかなり有名な声優のソレにとてもよく似ていた。


『え、今のアボガドさん?』


『いやぁ、私じゃないよ。マジ?今のキラーラビット君?』


「変でした?」


『いや、知ってる声優さんに似た声だったからびっくりした!どうやってんのそれ~』


「なんだお前コラーッ!やんのかコラーッー!」


今度は甲高いロリ声大御所配信者の声だ。やはりとても明久の喉から出てるとは思えない声だ。隣にいる葦原から見れば明久はいつもと変わらない表情で言うので感情の籠ったセリフって無表情で言える物なの?と驚いていた。


『やばーっ!声帯模写できるの!?そんな特技聞いてないよ私』


樋口はおろか葦原も聞いていない。明久は頼まれるままにアボカドの声真似や炬燵ムリの声真似もする。炬燵ムリは知らない配信者だったので抑揚をつけた言葉の真似までは難しいが概ね特徴をとらえた声真似までは可能だった。アニメ声ばかりかテレビの男性アナウンサーの声真似から記者会見時の官房長官の声真似までやって見せる。クオリティにムラはあるが精度は高い。


どうやら声帯模写は暇な時にやっている趣味らしく日頃から多くのレパートリーを揃えているのだそうだ。何でも父や母の声真似をしたら褒められたのがきっかけで時々暇つぶしに練習をしているらしい。


ゲストを誤解されるとまずい事とあまり大きな声を出すと近所からクレームが入る事もあり最初のテンション低めの女の子っぽい声で配信に参加する事になった。結局戻し作業は半ばの所からスタート。アーカイブが残るので葦原は配信が始まる前に食器を片付けて明久の隣に座って配信の行く末を見守る。全員それぞれ異なる緊張感を持ちながら始まった配信だったが滑り出しは好調。最初はバミウダの代わりに素性のしれない参加者に難色を示すユーザーもいたが、次第にそのキャラクター性は受け入れられて行った。


このゲームはパズルそのものはシンプルで大抵は誰でも解ける様に設定されているが誰がミスをしているのか、誰が足を引っ張っているのかがはっきりと可視化されやすい意地悪なレベルデザインになっている。炬燵ムリはパズルを解くのは得意だったが精度の求められる素早い操作が不得意だった。


元々PS高めだった樋口とアボガドで彼女をカバーするスタイルを取っていたが、今回参加している明久はゲームの全ステージを把握しているので視聴者のヘイトが集中しない様にわざとらしくない範囲で失敗を演じたり、勘を取り戻してからは通常プレイでは見られないようなアクロバットな操作で補助したりした。


葦原はゲストがホストより目立ってそれはそれでヘイトが集中しないかと心配していた。実際明久も悪目立ちしない様にすると言う観点は抜け落ちていた。その辺りは樋口もファインプレーを見せてヘイトが集まらない様に立ち回ったりしながらやっとの思いで前々回から続いていたステージをクリアした。


次のステージはアクション性を求めないパズルがメインのギミックが多かったため炬燵ムリも大いに活躍した。明久の知っている本来のパズルの解き方とは違う抜け道を見つけ出し配信終了時間までに次のステージに辿り着くなど快進撃の活躍を見せた。


炬燵ムリが労いの挨拶を済ませてからボイスチャットから抜けると樋口は明久にお礼を言う。


『マージで助かった!ありがとう、アッキー』


「いえいえ」


『葦原さんも夜遅くまでごめん!』


「ううん。いいんだ。面白かったよ」


『ほいじゃ、お疲れ様でした~』


「「お疲れ様でした~」」


そうしてボイスチャットを切った。既に時間も深夜を回っている。葦原も明久も眠かったのでお互いに言葉少なく別れを告げると葦原はベッドに、明久はベランダから自分の部屋に帰って行った。


葦原は掛布団を被りながら今晩の配信を思い出していると寝室をノックする音が聞こえた。玄関は締めているので明久しか考えられない。入室を許可すると明久がしょんぼりした顔で入って来る。


「おじいちゃんに締め出されちゃった」


マンションに引っ越す前の明久の祖父は寝る前に戸締りを確認する習慣があり、マンションに引っ越してからもクセで行う事があった。昔ながらの習慣なので今でも抜けきれず今日はたまたまその日だったようだ。


「それじゃあここを使うといいよ。私はソファで寝るから…」


そう言って起き上がろうとすると明久は素早く駆け寄ってベッドの中に入る。こうなると明久がベッドから出てくれないと葦原も出られない。お互いにベッドで見つめ合う。


「分かった分かった。君は強引だな…」


葦原はそう言って明久と一緒に掛布団を被る。明久は「んふふ」と得意そうに笑って葦原にくっつく。葦原は明久の頭を撫でるとそのまま眠りに落ちた。明久も後を追うように眠る。


1話大体6000文字前後で終わる様に書いてます…書いてるんです…

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