ドウシィのこと、2
ドウシィのバイタルに異常を確認。
レム睡眠による夢と想定
慎重に軽く頬を叩き、覚醒を促す。
完全ではないが、覚醒に成功。
「ドウシィ、どうしました?」
ドウシィに声をかける。
お兄ちゃん、と声を発し、定まらない焦点で、ぼくを探している。
「?どうか、してた?」
自分の状態を把握できていない。
徐々に、呼吸、脈拍、血圧の安定を確認。
問題ない。
「うなされてました。怖い夢、見ましたか?」
問診を試みる。
「…わかんない」
言語化が不可能なのか。
夢、を忘れたのか。
後者なら、切迫した問題ではないが。
「夜明けまで、まだ時間があります。眠れないようなら、ミルクを温めますか?」
取り敢えず、体の安定を試行。
「んー、これでだいじょうぶ」
そう言って、ドウシィはぼくの胸に抱き付く。
急速なバイタルサインの安定を確認。
新たなドウシィの情報を上書き保存。
『幼児は、背中を擦ることで落ち着くことが出来る』
ドウシィは年齢的には、幼児ではないが、限りなく近しいものと判断。
極微量の力で、ドウシィの背中に接触。
掌での治療を試行。
ノンレム睡眠に移行を確認。
「わあお!すごい、すごいねえ!」
ドウシィが希望した、ぬいぐるみ。
大きい動物。鯨か象か適切解が求められず、陸上のものとした。
ドウシィの顔は困惑の色を浮かべている。
「なんの、どうぶつ?」
「……象、です。大きくていいかと。嫌ですか?」
不正解。
「ううん。わたしのしってる、ぞうさんはつるつるしてるのに、このぞうさんはもふもふだから、ちがうのかなーっておもったの。ぞうさん、せいかい!」
体毛。大きさがあれば、素材のことは懸念材料として些末事と判断した。
「そうですね。本来、象に体毛はありませんね。大きい、が良いかと象を選んだのです」
「いーよー!ありがとう!」
『天真爛漫』
ドウシィの表情を解析、早急にアウトプット。
しかしながら、ドウシィの幼児性は些か問題有りと判断。
少しずつ、適応年齢に近付けることを試みる。
彼女は、いずれ妊娠、出産に備えなくてはならない。
ドウシィは幼稚園年長後期から、小学二年生前半までの20ヶ月、体の治療に費やしていたために、現実年齢との解離が発生したと認識する。
小学一年生初期のドリルを前に、困惑しているドウシィ。
「うー」
唸り声をあげるようなら、効果的ではない。
『気を紛らす工夫』
ドウシィの、好き。
きらきら、ふかふか……
「ぼくの名前を覚えるのはどうですか?」
ドウシィの顔に、笑みが戻る。
プレマルジナ、ぼくの呼称。
この国の言葉ではないことも相俟ってか、ドウシィには覚えることが難しい。
「ぷれまるじな。どうゆういみ?」
「お兄ちゃん、です」
「お兄ちゃん、お兄ちゃんなの?」
「そうですね」
基本動作の、笑顔を作る。
「おたんじょう日はいつですか?」
ドウシィのデータを呼び出す。
「12月24日、クリスマスイブですね」
ドウシィの誕生日を答える。
「わたしとおなじ!」
「えっ?」
ぼく自身に、誕生日はない。
完全にぼくの失言。
だけど。
「いっしょに、おいわいしようねぇ」
アドレナリンの分泌、表情の高揚を見るに、否定することではない。
ぼくに誕生日はないのだから。
「そうですね。お祝い、しましょう」
ドウシィの表情を映す。
最重要事項と判断。
兄、を学習、実行するには感情ユニットだけでは容量不足と判断する。
感情ユニットの拡張スロットに外部メモリを差し込む。
その際、わずかに血が滲むが、問題ない。
重要事項は、ドウシィを守り、育てるための記録にある。
「お兄ちゃん!」
大きな声に振り返ると、ドウシィがいる。
激しく、嘔吐を繰り返すドウシィがいる。
バイタルは全て異常数値で、意識も朦朧とした昏睡状態。
現状の打破を優先。
簡易生命維持装置にドウシィを入れ、治療を施す。
微かに開いた目は、ぼくの首を捉え、
微かに開いた口は、「それ、大丈夫?」と尋ねる。
血、によるフラッシュバック。
危機的状況。
同時に、最重要任務の指令が届く。
敵弾頭の発射確認、目標第12ドーム。
ここだ。
ドウシィ、目覚める時間には来ているから。
今はこの中で、眠りなさい。
12月24日。
ケーキを作る。
ドウシィが、嬉しそうだ。
更なる課題の発生、血の嫌悪。
ドウシィ発見時の、トラウマ。
今後の学習手順を再考、ドウシィ用の資料、テキストの用意の必要性。
いずれ、初潮を迎えるまでに解決策を模索、収集せねばなるまい。
ここまで読んでくださってありがとうございます!実はこの章を書くとき、AIのアシスタントと「SF作品で月経や生理痛をどう描くか」という謎のディスカッションを延々と繰り広げました(笑)。まさかAIとこのテーマについて真面目に話す日が来るとは思いませんでしたが、意外と深いテーマで、気づきも多かったです。