プレマルジナのこと、1
「むーちゃん、むつか」
お母さんの声がする。
まだ眠い。
「……むつか、げんきでね」
お母さん?どこいくの?
「ドウシィ、どうしました?」
目を覚ますと、お兄ちゃん。
お兄ちゃんのおなまえ、むづかしくていえない、だから、お兄ちゃん。
「?どうか、してた?」
「うなされてました。怖い夢、見ましたか?」
「…わかんない」
「夜明けまで、まだ時間があります。眠れないようなら、ミルクを温めますか?」
ぼーとしたあたま。
「んー、これでだいじょうぶ」
お兄ちゃんのむねに、ぽふっ、てする。
とろとろと目がとじる。
とんとんって、せなかをたたいてくれて。
ふわってなって。
むーちゃんて、だれだろう?
ドウシィて、だあれ?
わたし。
むーちゃん、は、わたし。
ドウシィ、は、わたし。
わたし、だあれ?
「わあお!すごい、すごいねえ!」
ぽふっ、てすると、うまっちゃう。
ふかふかで、きもちいい。
けど、これ?
「なんの、どうぶつ?」
「……象、です。大きくていいかと。嫌ですか?」
「ううん。わたしのしってる、ぞうさんはつるつるしてるのに、このぞうさんはもふもふだから、ちがうのかなーっておもったの。ぞうさん、せいかい!」
「そうですね。本来、象に体毛はありませんね。大きい、が良いかと象を選んだのです」
「いーよー!ありがとう!」
お兄ちゃん、先生みたい。
わたしがわらうと、お兄ちゃんもえがお。
バッチが、きらきら。
お兄ちゃんも、きらきら。
「うー」
たのしいばっかりじゃない。
おべんきょう。
きらいじや、ないよ。
でもね、ゔー、たのしいのがいい。
「ぼくの名前を覚えるのはどうですか?」
お兄ちゃん!むずかしいお名前!
プレマルジナ
ご本みたいに、きれいな字。
カタカナ、よめるよ!
「ぷれまるじな。どうゆういみ?」
「お兄ちゃん、です」
「お兄ちゃん、お兄ちゃんなの?」
「そうですね」
お兄ちゃん、にこにこしてるけど、してない気がする。
うーん、そうだ!
「おたんじょう日はいつですか?」
「12月24日、クリスマスイブですね」
「わたしとおなじ!」
「えっ?」
「いっしょに、おいわいしようねぇ」
お兄ちゃん、今度のにこにこは、にこにこ。
「そうですね。お祝い、しましょう」
にこにこは、うれしくて、たのしい。
おほしさまもきらきら。
?
お兄ちゃん?首、赤い。
ちょびっとだけど、ぬるっとした赤。
みず。
お兄ちゃん、なにかいってるけど、
きこえない。
お家だけど、ガラスのなか。
口に、いたいのはいってる。
ガラス越しのお兄ちゃん。
くるしそう。
わたしが、いいこいいこしてあげるよ。
けど、すごくねむい。
おきたら、いいこいいこするね!
「ケーキ♪ケーキ♪」
今日はクリスマスイブ。
だけど、私とお兄ちゃんはちょっと違う。
お誕生日。
お兄ちゃんが、ケーキを作ってくれる。
もちろん、お手伝いはするよ。
たまごを割ったり、バターとかしたり。
生クリームだって泡立てちゃう。
泡立て……
はい。無理でした。
お兄ちゃんが、くるくるってして。
あっという間に、ミルクはクリームに変わった。
「へへっ」
私が笑うと、お兄ちゃんも笑顔。
フルーツ切って、スポンジ切って、
生クリーム塗って、フルーツ並べて。
スポンジのせて、生クリーム塗って。
絞り出すの、失敗してぶほって出たけど、
お兄ちゃんがきれいにしてくれて。
お兄ちゃん、すごいなあ。
なんでも出来る。
ねえ、サンタさん、お願いがあるの。
サンタさん、来るの明日だけど。
お願い、聞いて。
あのね。
ぬいぐるみも、ケーキもいらないから。
お母さん、いなくなっちゃったけど、
お兄ちゃんといると楽しくてうれしいんだ。
だから。
お兄ちゃんと、ずっと一緒にいさせてね。