ドウシィのこと、1
異常人工現象発生。
国民保存プログラム起動。
計画変更バックアップ開始。
最優先事項:生存者保護、及び外的脅威よりの生命保護。
プレマルジナ・プレイトゥ、現場へ移動。
目標地点、到達。
生体反応発生源、特定。
五体発見、何れも生体反応、皆無。
極めて微弱な生体反応、検知。
生体反応喪失の肉体内部に微小な心拍数、感知。
反応喪失の肉体を除し、内部に女児発見。
反応喪失の肉体が、緩衝材として機能した模様。
女児は全身骨折と、飢餓による衰弱が顕著。
市民データと照合。
『春待六花、5歳』
一刻も早い救命活動が要必須。
微かな生体反応。
お母さんと発声。
母親に守られたか。
腕の中で、女児の重さが増す。
脈拍、心拍数、血圧、いずれも微弱。
生命維持の危機、察知。
「頑張れ」
災害救出時に生命維持に効果的とインプットされていた言葉を、女児にかける。
一先ず女児を救命装置に収容完了。
保持アームにて身体を安定。
装置内の安定化プロセス起動。
応急簡易延命措置を開始。
新たなプログラムをインストール:
『救出女児の警護および育成』
任務遂行の優先順位を更新確認。
少女育成の為の、詳細な情報がインプットされていく。
今回の未曾有の爆撃で、生存確認された九人の内で一番年嵩で、やっと五歳の少女。
母親の遺体と共に発見。
発見から三ヶ月、未だ生命維持装置の中で治療されている、依然危険状態の継続。
少女は身体の損傷に加え、精神的な損傷も顕著であり、特に女性であることから、この国における人類の存続において、保護すべき貴重かつ重要な存在である。
彼女と自然に触れ合い、やがて伴侶と結び付ける為に育成と、外的攻撃から身を呈して警護する、重要任務。
彼女はドウシィと名付けられた。
被爆から発見以前の記憶は、計画に支障をきたす恐れの為、極力消去される。
我々と違い完全な消去は不可能の為、フラッシュバックによる精神混濁の危険性大。
その為にも、より大切にお守りせねばならない。
ようやく、彼女と対面できた。
発見から八ヶ月後。
「お母さんは?」
と、訊ねられたが、彼女の母親については秘匿義務が発令されている。
状況判断の検索をかける。
『弱った子供には、抱き締めるのが効果的』
彼女は肉体的損傷こそ緩和しているものの、ぼくの腕の力に堪えられるとは考えにくい。
別の行為を検索。
『親愛を示すためには、唇以外に唇の接触をするのも効果的』
彼女の額に唇の接触。
ぼくのドッグタグが気になったらしく、彼女の興味はそちらに動いた。
「あのときのは、おにいちゃん?」
発見時の記憶が、消去されていないのか?
「あの時とは、いつだろうか」
確認すべく、質問する。
「んーと、わかんない。キラキラのバッチ、知ってるよ。だっこしてくれたよね」
曖昧な記憶。
状況の記録とは異なる、これが、感情というものなのだろうと判断する。
データの収集を要する。
「でもね、たすけてもらったんだよね。ありがとう!」
血圧、心拍数の上昇。
致死には至らない。
気分の高揚、喜びの表情。
速やかにインプットする。
問題ない。
速やかにアウトプットする。
『喜色満面』が返ってくる。
重要事項のロックをかける。
それから、彼女が自力で動くようになるまで、十一ヶ月の月日を要した。彼女が病院施設にいる間、対外敵行動が免除され、女児向けの汎用プログラムが、彼女固有のプログラムにオーバーライドされる。
個別ドームに移動した日、ぼくはドウシィを発見時以来、初めて抱えた。
十九ヶ月経過したにも拘らず、あの日より体重は軽い。
六歳女児の平均にはまるで足らない。
体重増進は、優先事項と学習する。
「ここ、どおこ?」
辺りを見回しながら、ドウシィが訊ねる。
「これから、ぼくたちが暮らす所です」
「ふたりで?」
「はい、宜しくお願いします」
「よろしくおねがいします!」
ドウシィはぼくに、一礼して笑う。
『破顔一笑』
あらゆる生理データは安静時のものと一致。
警戒は無いとする。
共に生活する家屋に入る。
「うわぁ、……何もないね」
用意した物資は最小限。
食料、寝具、洗浄及びキッチン設備。
装飾や娯楽に関する物品は一切排除。
女児の好むものは個々で異なる。
故に彼女の意見を取り入れるべきと判断した。
「ドウシィと一緒に揃えようと考えたんだ」
「好きなものにしていいの?」
「もちろん」
「へへっ、あのねっ!おっきなぬいぐるみほしい!ぽふって、できるの!」
『ぽふっ』を検索。
柔らかくて、大きいもの。
「ぽふっ、だね。構わないよ。ドウシィの好きで埋めよう」
「……ホントに?わあーい」
ほんの僅か、寂しいの感情が入った。
喜んでいるのも確か。
混在する『感情』
解析を難解にする。