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いたいけなほしくず  作者: 有城 沙生
ドウシィとプレマルジナ
5/27

ドウシィのこと、1

異常人工現象発生。

国民保存プログラム起動。

計画変更バックアップ開始。

最優先事項:生存者保護、及び外的脅威よりの生命保護。

 

プレマルジナ・プレイトゥ、現場へ移動。


 目標地点、到達。

 生体反応発生源、特定。


 五体発見、何れも生体反応、皆無。

 極めて微弱な生体反応、検知。

 生体反応喪失の肉体内部に微小な心拍数、感知。

 反応喪失の肉体を除し、内部に女児発見。

 反応喪失の肉体が、緩衝材として機能した模様。

 女児は全身骨折と、飢餓による衰弱が顕著。

 市民データと照合。

春待六花(ハルマチムツカ)、5歳』

 一刻も早い救命活動が要必須。


 微かな生体反応。

 お母さんと発声。

 母親に守られたか。


 腕の中で、女児の重さが増す。

 脈拍、心拍数、血圧、いずれも微弱。

 生命維持の危機、察知。

 

「頑張れ」

 災害救出時に生命維持に効果的とインプットされていた言葉を、女児にかける。

 一先ず女児を救命装置に収容完了。

 

保持アームにて身体を安定。

装置内の安定化プロセス起動。

応急簡易延命措置を開始。


 新たなプログラムをインストール:

 『救出女児の警護および育成』

 任務遂行の優先順位を更新確認。


 少女育成の為の、詳細な情報がインプットされていく。

 今回の未曾有の爆撃で、生存確認された九人の内で一番年嵩で、やっと五歳の少女。

 母親の遺体と共に発見。

 発見から三ヶ月、未だ生命維持装置の中で治療されている、依然危険状態の継続。


 少女は身体の損傷に加え、精神的な損傷も顕著であり、特に女性であることから、この国における人類の存続において、保護すべき貴重かつ重要な存在である。


 彼女と自然に触れ合い、やがて伴侶と結び付ける為に育成と、外的攻撃から身を呈して警護する、重要任務。


 彼女はドウシィと名付けられた。

 被爆から発見以前の記憶は、計画に支障をきたす恐れの為、極力消去される。

 我々と違い完全な消去は不可能の為、フラッシュバックによる精神混濁の危険性大。

 その為にも、より大切にお守りせねばならない。


 ようやく、彼女と対面できた。

 発見から八ヶ月後。


「お母さんは?」

 と、訊ねられたが、彼女の母親については秘匿義務が発令されている。

 状況判断の検索をかける。

 

『弱った子供には、抱き締めるのが効果的』

 彼女は肉体的損傷こそ緩和しているものの、ぼくの腕の力に堪えられるとは考えにくい。

 別の行為を検索。


『親愛を示すためには、唇以外に唇の接触をするのも効果的』

 彼女の額に唇の接触。

 

 ぼくのドッグタグが気になったらしく、彼女の興味はそちらに動いた。

「あのときのは、おにいちゃん?」


 発見時の記憶が、消去されていないのか?

「あの時とは、いつだろうか」

 確認すべく、質問する。


「んーと、わかんない。キラキラのバッチ、知ってるよ。だっこしてくれたよね」

 曖昧な記憶。

 

 状況の記録とは異なる、これが、感情というものなのだろうと判断する。

 データの収集を要する。


「でもね、たすけてもらったんだよね。ありがとう!」

 血圧、心拍数の上昇。

 致死には至らない。

 気分の高揚、喜びの表情。

 速やかにインプットする。

 

 問題ない。

 速やかにアウトプットする。

『喜色満面』が返ってくる。

 重要事項のロックをかける。


 それから、彼女が自力で動くようになるまで、十一ヶ月の月日を要した。彼女が病院施設にいる間、対外敵行動が免除され、女児向けの汎用プログラムが、彼女固有のプログラムにオーバーライドされる。


 個別ドームに移動した日、ぼくはドウシィを発見時以来、初めて抱えた。

 十九ヶ月経過したにも拘らず、あの日より体重は軽い。

 六歳女児の平均にはまるで足らない。

 体重増進は、優先事項と学習する。


「ここ、どおこ?」

 辺りを見回しながら、ドウシィが訊ねる。

「これから、ぼくたちが暮らす所です」

「ふたりで?」

「はい、宜しくお願いします」

「よろしくおねがいします!」

 ドウシィはぼくに、一礼して笑う。

『破顔一笑』

 あらゆる生理データは安静時のものと一致。

 警戒は無いとする。


 共に生活する家屋に入る。

「うわぁ、……何もないね」

 用意した物資は最小限。

 食料、寝具、洗浄及びキッチン設備。

 装飾や娯楽に関する物品は一切排除。

 

 女児の好むものは個々で異なる。

 故に彼女の意見を取り入れるべきと判断した。

 

「ドウシィと一緒に揃えようと考えたんだ」

「好きなものにしていいの?」

「もちろん」

「へへっ、あのねっ!おっきなぬいぐるみほしい!ぽふって、できるの!」

 『ぽふっ』を検索。

 柔らかくて、大きいもの。

「ぽふっ、だね。構わないよ。ドウシィの好きで埋めよう」

「……ホントに?わあーい」

 ほんの僅か、寂しいの感情が入った。

 喜んでいるのも確か。

 混在する『感情』

 解析を難解にする。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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