閑話2 後天性排他的執着現象
フラグメントの整理。
断片データの再配置。
統合処理の最適化。
大脳皮質に新たな結合を検出。
未使用領域に形成される回路。
記録の再構成。映像的出力の兆候。
───『夢』?
再起動直前の一瞬、意識に重なる。
視覚情報を捕らえた時、トレィスとシィカが寄り添い、私はプレマルジナに身を預けていた。
『懸念』から『安心』へ移行するトレィスの数値。表情。
対して、プレマルジナの当惑。
コアリンクで読み取れる内部処理は煩雑で、優先順位が崩れている。
まるで通常稼働の枠組みを外れ、別の演算に割かれている。
───何をしているのだろう。
「良かったぁ!マリューナが不穏なことばかり言うから、目を醒まさないかと思ったよー」
と、シィカが私に抱きついてくる。
不穏なこと?
でも、彼の当惑はそれではないようだ。
「ともあれ、良かったよ」
トレィスが、ゆっくりと私の手を握る。
冷たい体温に尋常じゃない負荷がかかっていたことを認知する。
「トレィス、あなたの方が異常です。こちらに座ってください」
トレィスに席を譲ろうと立ち上がるが、プレマルジナに肩を押さえられている。
「ポステアはマリューナの隣に座ってなよ。おれはシィカとこっちに座るから」
トレィスとシィカは、対面のソファに腰を掛けた。
トレィスとシィカの距離が近い。
私の意識が止められていた、五時間四十二分の間に、変化したのだろうか。
「ああ、そうだね三号。ありがとう。お父さんも。ちゃんと話すから、黙っててくれてありがとう」
トレィスが三号の端末を挟んで、T-Iと会話している。
T-Iが知っているなら、再起動前に同時に上書きすべきではないのか。
「ポステア、おれたち伴侶になるよ」
トレィスがシィカの手をしっかりと握って言う。
「第十二ドームは、解消しているのですか?シィカとの年齢差が適切な男子ではなかったのですか?」
「まだ、話は進めてなかったしね。そっちは大丈夫。年齢差は…なんとかなると思いたい。幸いにも、俺はもう子供を設けてるし、………頑張るしかないよね」
トレィスはシィカと見つめあって、微笑んでる。
すると、眼球が熱を帯び、鼻の奥に指すような痛みが走る。
「ポステア!どうした」
トレィスとシィカが声を合わせてくる。
頬を伝う、滴。
涙。
ⅻも、泣いていた。
「“嬉しい”…です。もしくは、“悔しい”」
私の言葉に、トレィスは驚いている。
「嬉しいはともかく、悔しい?」
「間違ってますか?数値やパラメータは、トレィスが私に何かしてくれた時に近い。けれど、トレィスの全てのお世話から解任するのは……悔しい?」
「悔しい…?トレィスに伴侶ができるなら、目標値がクリアするから、ギャップは少なくなるでしょう?」
マリューナが、口頭で聞いてくる。
「そうですけど、トレィスは伴侶を持たない予定で、シィカにも十二人ドームを進めていたので、……目標変更に困惑しています」
自分でも整理しがたい状況に、強制的に言葉を乗せる。
「それって、焼きもちじゃないかしら?」
シィカが言う。
「焼きもち?」
関心が余所に向くことへ対しての、不安。
「ポステアはトレィスのお母さんですものね!これからもよろしくお願いします」
と、私に頭を下げるシィカ。
「あぁ、おれらもさっき聞いたばかりで、小さいときは色々困らせたけど、まだ、頑張ってよ」
「お母さん、…って何のことですか?」
「「え?」」
トレィスとシィカは驚いている。
T-Iに照会を求めるが、マリューナに聞けと返される。
マリューナは、まるで、人のようにため息をつくと、コアリンクでデータを送ってきた。
「ちょっ…マリューナ!こんなに一度に送られてもどこから手を着けたら良いんだよ!」
トレィスが三号に送られたデータにてんやわんやしている。
「お待ちください」
受け取ったデータの解析に移る。
日々の観測データ。
直接は知らないが、知ってる三人。
大戦。
視界が広がり、クリアになる画像。
女性に絞られる焦点。
フィルター処理。
託される子供。
運ばれてくる子供。
私。
月経に伴うホルモン作用が及ぼす顕著な負荷。
排卵による電子系統のノイズ。
生殖機能の停止。
採卵。
感情ユニットを装着。本格起動。
プレマルジナの手による、受精作業。
いくつにも分かれる受精卵。
168時間、240時間、456時間、552時間…
私にあるデータと擦り合わせる。
「あれは、私の卵子だったのですね」
トレィスに教えなければと、声にする。
「そう……あの方…オリジナルの、数少ない希望です」
「マリューナ…よくいうけど、オリジナルって、どんな人なの?」
「トレィス…それを聞きますか?ポステアやプレジナの素体は、『変な人』と言ってました」
「変?プレマルジナの素体なんだよね?」
「自分はポステアの素体と契って子供を作ったにもかかわらず、ポステアとプレジナで子供を作ろうなんて、想定外です!」
“感情的な”マリューナの言動に、トレィスが驚いている。
「それは…どういう…?」
シィカが困惑の表情を浮かべる。
「理由が『だって、寂しいじゃない』ですよ?あの方は…俺たちの創造者ですけど、機械的にも理解しがたい方でした」
「プレマルジナがトレサを作ったのも、『寂しい』でした」
「え?おれが寂しいから、トレサを作ったの?」
「そうですよ。私はまず、一人が寂しいが理解できなかったので、プレマルジナ…このマリューナですが、《《変な人》》と思いました」
「ポステア?」
「あの人と同じ、《《変な人》》───なぜ、閉じ込めたの?一緒にいさせてくれたら良かったのに」
私の体は、意図せずプレマルジナに抱きついていた。




