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いたいけなほしくず  作者: 有城 沙生
トレィス
24/30

トレィス 3

「あ、トレィス。これ、付けといて」

 今、目の前にいるプレマルジナは、この軽い言動を見るに、マリューナなんだろう。


「なにこれ?」

 んー、とちょっと悩んだあと、そっかあ、と呟くとプレマルジナはそれをおれの耳に付けた。


「これはイヤーカフっていうんだけどね、俺らはさ、頭ん中にコアシステムって通信機みたいの入ってるけど、生身のトレィスに入れるわけにはいかないじゃん。だから、これ」

 耳に付けた――イヤーカフを、プレマルジナが弄るとブワッと騒音が聴こえる。


「…っな!」

「ボリュームとか、座標とか、触って覚えて。そこふれると、ん、そう。慣れたら、誰と繋がってるかも分かると思うけど。んー?これも使う?」

 と、差し出してきたのは…眼鏡?

 それを、おれにかけると、細いシャラシャラとしたコードを眼鏡とイヤーカフに繋げた。

 つるに触れると…何だか数字やら文字やらが眼鏡に浮かび出る。

「取りあえず、ここ」


 右目に41.3025° N:141.1161° E と映る。

 ?

 プレマルジナの瞳が一瞬だけ虚ろになり、光を持つ。

「話してごらん」


 左目にデシィが映っている。

『トレィス?』

「え?え?」

『聴こえています。デシィが見えますか?』

「あ、ああ」

『また泣き出すと大変なので、外部スピーカーには繋げませんが。申し訳ありません』


 プレマルジナに抱かれているのだろう。

 画面いっぱいに映るデシィの笑顔。

「元気そうで何よりだ」

『夜な夜なトレィスを探して泣きますけどね』

「そこを何とかするのが、君の力の見せ所だからね」

 と、こちらのプレマルジナが茶々を入れる。

『……あなたが乗っ取った時ほどじゃないですよ』

「なるほど…」


 イヤーカフを通して、プレマルジナ同士の会話は聴こえるが、こちらのプレマルジナは声を発していない。

 これが、コアシステムというものなのだろう。

 おれは…どうするんだ?

「喋ればいいよ?」

 イヤーカフから聴こえる…こいつには読心機能も有るのか?

「トレィスのは無理だよ。顔色を見てるだけ」

 あちらのプレマルジナにも聴こえているらしく、圧し殺した笑い声が聴こえる。

 とぉいす?とデシィの声が入り、あちらのプレマルジナが通信を切った。


「ま、こんな感じで使えるわけだ」

 と、目の前のプレマルジナが声を出す。

「便利なのか、そうでないのか…よくわからないな」

「シィカが泣いたときに、俺に繋げばトレサのさるにでも繋ぐさ。ま、T-Iでも同じことは出来るけど」

「ふうん…」

「じゃ、俺は夕飯の準備に帰るから、あとは、三号に聞くんだな!」



 プレマルジナになる…とはいったいなんなんだろう…それこそ、初めのうちは機械でも埋め込まれるのかと思っていたがそうではないらしい。

 全く、コイツらは説明をするってことが出来ないのか?


「申し訳ありません」

 丁寧な話し方をしているプレマルジナは三号なんだろう。

「あの人っていつもこうなの?」

「あの人……マリューナは、“気儘”です…」


 まあ、そうだろう。

 トレサが、ウノスの第一ドームに移る時にコピーを置いてついていくくらいなんだから。……?

「じゃあ、三号にはトレサのデータがあるの?」

「外部参照可能な記録だけです。内面処理のログは見えません。あのとき私に移されたのは、設備管理と技術的支援に関する機能群です」

「……つまり、トレサやおれたちの“外から見える部分”だけってこと?」

「はい」


「トレィス!」

 不意に後ろからの衝撃。

「シィカ」

「お勉強は終わりましたか?一緒にお夕飯を作りましょう!」


 さっきまで左目で見ていたデシィとは、同じ年のはずなのにえらく違って見える。

「へえ?シィカは料理ができるんだ。どんな料理が得意なの?」

「お野菜を洗ったり、おにぎりは作れます」

 得意気なシィカだが…

「…………ポステアにも手伝ってもらおうな」

「仕方ありませんわね」

 ん。シィカ。五歳だよな?


「…………」

 おれの前に置かれた、ちぎった野菜と、小さなご飯の崩れた塊の皿。

 シィカと三号、ポステアの前にはちゃんとお椀に盛られたご飯と、大根おろしの乗ったハンバーグとサラダが並んでいる。


「……ポステア?」

「私はシィカを手伝って、お皿を並べました」

 と、淡々と言うポステア。 

「さあ!召し上がれ!」

 シィカはおれの目の前で、得意気だ。


「ハンバーグは?」

「わたし、まだ火は扱えませんもの。どうぞ。召し上がれ」

「おれはシィカが火を扱えるようになるまでに、飢えるのかな?」

 と、言うとシィカはやっと気付いたのか自分の分のハンバーグをおれに差し出してきた。


「ごめんなさい!気が回りませんでした!わたしの手料理だけではお腹を満たせませんものね!」

 あ……はい……手料理……ね。

「手伝いの身分で差し出がましいとは思いますが、準備してありますのでどうぞ」

 ……ポステア?

「冗談ですよ……て、マリューナが言ってます」

 アイツはぁ!


 がさっと、食堂のドアが開く。

 ドアに視線をやると、プレマルジナがいた。

 まだ、おれが見たことのない、プレマルジナ。

 耳に入る雑音。

 三号が、耳を触れと仕草を見せる。

 カフスに触れる。

 雑音が徐々に消え、鮮明な音を拾う。

『プレマルジナ型式ⅻ。No.12のプレマルジナです』

 ポステアの声がした。


 とことこと、シィカがそのプレマルジナに近寄る。

「あなたは、だれのプレマルジナですか?」

 ストレートな、疑問をぶつける。


 プレマルジナは、ゆっくりと腰を下ろしシィカと目線を合わせる。


「ぼくは、ドウシィのプレマルジナです」


 

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