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いたいけなほしくず  作者: 有城 沙生
トレィス
20/30

閑話 エルフ

 幼馴染みの彼女とは、恋愛ってわけではなかった。

 けど、親同士が仲良く、俺らも憎からず思っていた。

 ので、年頃になったら結婚するんだろうな、なんて呑気に思っていた。


 あの、先輩に出会うまでは。


 先輩――とは言え、やつは美大で、彼女は獣医学、俺は情報工学とまるで接点はなかった。

 恥ずかしげもなく言えば運命のように引寄せられていた。

 ――――やっぱ、恥ずかしいな。


 まず、彼女が何だかの縁で先輩と知り合ったらしい。

 そこはプライベートだ。

 聞くまでもない。

 で、プログラムを組めるやつを探しているとかで、彼女から俺に声がかかった。


 やつがやってたのは

 ――昆虫の長寿化技術を用いた、自己修復型の生態防御システムの研究――とかで。

 おい?なんだって美大生がそんなことやってるんだ?

 で、そのどこにプログラムが必要なんだ?という奇っ怪な誘いだった。


 ひどく綺麗な男だと思った。

 その綺麗な顔に不似合いな、短く刈った後ろ頭に前髪だけ顔を隠すように伸ばしていて。

 奇っ怪な髪型を払拭するかのような、整った顔立ち。

 変なやつ、それ以外に当てはまる言葉が見つからない。


「で?俺が何をするの」

 彼女の前だけど、不服さを全面に出すと、先輩は不敵に笑った。

 これ、と手渡されたのは、一枚の硝子片。

 

 ?

 

 トンボの羽のような翅脈の張った小さな硝子。

 

 君、胡桃割れる?と聞かれたから、

「ええ、まあ」

 と答える。

 これ力一杯握ってみてと、怖いことを平気で宣う。

「割れないか?」

 いいから、と。

 怪我は嫌だなと、当たり前の事を思いつつ手の中の硝子を握りしめる。

 

 …割れない。

 

 すごいでしょ?それ、ホントに昆虫の翅なんだよ、と嬉しそうにする先輩。

 握りしめた手を拡げると、渡された時のままの硝子が、そのままの姿をしている。

 

 ガゲロウに、ちょっといたずらしただけなのに、そんなになっちゃった。

折角だから使えないかなって、といたずら小僧…というよりは、お菓子のパッケージの子供のように舌を出す。


「これでなにするんだ?」

 んーと、文化財でも保護しようかな?と。

綺麗なのに、このままじゃ勿体無いじゃない?と、言う建前だと、善意的でお金が引き出せるかな?と、悪人顔で微笑む。

 

「平和利用とかは?そっちのが儲かるんじゃない?」

 平和?なんのための?ヒト?自業自得なのに?そんなのやりたいやつがやればいいさ。おれは情報は秘匿しないから、いつでも公開するさ、教えないけどね、めんどくさいから。

 ……ホントに変な人だ。


 先輩が幼馴染みの拵えた弁当に舌鼓を打ちながら、昆虫をスケッチしている。

「へぇーやっぱ上手いのな」

 と言うと、時間をかければ、それっぽく描けるよと簡単に言う。

 その時間も掛かっているようには見えないのだけど。

 

 こんな変なやつに、幼馴染みが惹かれていってるのは、手に取るように分かった。

 少し寂しいな、と思うが差別されているわけではないらしい。

 彼女自身も忙しいだろうに俺の分の弁当も拵えてくれている。

 

 いっか…


 当たり前に三人で過ごすことが多くなっていた。


 9人かな?

俺の大学の課題を覗き込んで奴が言う。

 

「なんで?」

 と聞くと、その辺にあった紙につらつらと関数を書いていく。

 几帳面に書き連ねられていく文字は、いつものお茶らけた様子からは想像出来ない。

 

「ああ…成る程」

 理路整然と組み立てられた解答。

 今まで悩んでいたのが、嘘のように頭に入る。

 でもね。最適解はこう。そしたら“知識の継承”が出来る。

 

「……ったく!なんでおまえは美大なんだよ!」

 と吐き捨てると、数字ばっかり見てても飽きるじゃん、とさらっと言う。


 あーもー!

 なんとかギャフンと言わせたくて、俺は立ち上がって先輩を抱える。

 え?え?まさか、と困惑するような喜んでいるような声を発している。

 

 先輩の洗濯?ならこの間の着てたもの洗濯しておいたから着替えさせて、と幼馴染みが言う。

 こいつ、飯の世話だけじゃ飽き足らず、洗濯までさせてやがる。

「おう。腕によりをかけて磨いてやる」

 からからと笑う彼女は幸せそうだ。


 三人で無作為に選んだ場所にエルフを埋める。

 そんなのでいいの?と、さすがに彼女は困惑の色を隠せない。

 おれが勝手にやることだし、好きなものを守るだけだよ、と相変わらずやることとは裏腹な軽い言動。

 

「ちゃんと、発動するのかな?」

 するさ。そんなことより心配なのは、見てくれだけを気にする莫迦に駆除される事だよ。

 

「確かに…な」

 ま、そうされたらヒトは又、大事なものを失うだけだ。大したことじゃない。

「そうだな…」

 

 エルフ――蜻蛉の幼虫。

 小さく、単体では美しいとは言いがたいこいつは、先輩の理論だと世の中を覆すだろう。


 なら、俺に出来ることは?


 ころころと笑う幼馴染み。

 飄々と笑う先輩。


 守ってやるさ。

 護ってやろう。

 そのくらいしか、俺には出来ないだろう。


 赤蜻蛉が空を切る。

 この空を覚えておこう。

 俺の、揺るぎ無い決意のために。

正確には、蜻蛉の幼虫期をエルフ期と言うらしい。

先輩の解いた問題を活動報告にのせてますので、ご覧ください。

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