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いたいけなほしくず  作者: 有城 沙生
トレィス
19/30

トレィスのこと

同時投稿、二話目です。

器の中に、突然できた“ヒト”

 卵子が受精して、起こる現象とは理解している。

 けれど、本当に突然、それはできた。

 これがヒトとなる。


――――――

「見ていても面白いものではないよ」

 そういって、プレマルジナはクリーンルームへと入っていった。

 ―――「面白い?」この場面で、そうした感情的評価を持つ意味があるのだろうか?

 同じ機能を有するはずのプレマルジナの言動には、時折、私のシナプスでは処理しきれない要素が含まれる。

 意味は分かる。

 けれど、この場面に適応してる言葉とは同意しかねる。

 この違いは、どこから生じているのだろう。


 淡々と準備するプレマルジナを中央中枢からのデータ越しに見る。

 アシストを申し出たが、「気が散る」と拒絶された。

 ……プレマルジナは私とは違うようだ。


 中央中枢のモニターは“人”が見るように出来ていない。

 中央中枢からケーブルを繋いでの、直接見学の許諾を受け、じっとその場にとどまる。


 中央中枢が、画像解析をして顕微授精の穿刺位置を特定する。

 卵子に置かれる精子。

 無駄の無い、最適化された手技で三つの卵子に受精を施す。


 二十三分後、二つの卵子に融合が確認され受精卵となった。

 細胞分裂が始まる。

 殆んど変わらない細胞を凝視していたら、プレマルジナはいつの間にかクリーンルームから出てきていた。

「しばらく変わらないよ。後は僕たちには何も出来ない。手を出せるのはここまでだ」

 後は、細胞の選択も分裂の速度も、ただ見守るだけだ。

 早くても五千五百分後。

 

「それまで、見てるとか言わないでよ。ポステア、君が壊れたら元も子もない。後はこいつに任せな」

 と、プレマルジナは私からケーブルを抜き、中央中枢を叩いた。

「あ~もー!いいから!任せたぞ!」

 プレマルジナは中央中枢と会話でもするようにそう言うと、部屋から出ていった。


 ――――

ふたつ、よっつ、やっつ…分かれていく細胞。

 受精していた二つのうちの一つが活動が止まった。

 プレマルジナに伝えると、その情報は既に中央中枢より有り、

「こればっかりは、仕方の無いことだから」

 と、言われた。

 受精したからといって、必ずしも“ヒト”とはなり得ない。


 168時間経過。

 人工子宮に移す作業を始める。

 用意された人工子宮は二つ。

「こっちは受精した胚で冷凍されたのがあったから、それ使うの。一人より、二人で育つ方がきっと寂しくないでしょ?」

 寂しい?一人だと寂しいのか?

 プレマルジナは目を細めている。

 認識、笑顔…

「追々、覚えていくといいよ。なんだったら、このNo.3と一緒に覚えればいい」

 人工子宮内にはまだ何も見てとれない。

 見えない何かと、共に学習を重ねる?

「そんなに難しいことではないよ。感情はデータの蓄積と解析だ」


 ――

 240時間経過。

 胚盤葉形成が始まり、原始心筒の確認。

 「心拍」を感知。

 生きている。


 ――

 456時間経過。

 原始線条が出現し、細胞の分化が加速。

 神経管が形成開始。

 “レンズ”を通さなくても、形が認識できる。

 生きている。


 ――

 552時間経過。

 それは、突然に見えた。

 僅か、五ミリ程度の、それ。

 “心臓”が動きだし、やがて手足になるだろう突起の出現。

 そして、目。

 目がぎろっとできた物体に、何故だろう。

 頭の奥が締め付けられ、目の奥が熱くなる。

 

 ユニット型式ポステア・プロダクタムverⅢ。

 私が始めて、トレィスと呼ばれる個体と対面した日。

 プログラムされた知識で、知っていたはずの記憶は、なんと絵空事なことか。

 私の、お守りし、慈しむべき存在。


 人工子宮の外側から観察する日々。

 

 脳が形成され始めると、『教育』が始まった。

 私に情報データをインプットするかのような単調な作業。

 

『教育』は中央中枢が直接行っていて、私はそれと同じ内容のデータをいただくだけ。

 何度も同じデータが繰り返されることで、『定着』が進む。

 もうひとつの器、トレサも同様だったが、3300時間を越えた頃から、『差』が現れ始めた。

 トレィスには顕著なP波の活動が見られる。

 トレサと比べると、明らかに多い。

 視力のないはずの目が動く。


「夢を見ているようだねぇ…」

 呟くようにプレマルジナがいう。

 

『夢』?

 何を『夢』見ているというのだろう。


 6720時間経過。

 本来なら人口子宮から出すべき時だか、適応型汎用知性制御中枢の判断で、自立歩行が出来るようになるまでこのまま様子を見ることになった。

 まだ、私はトレィスを(いだ)くことは出来ない。

『教育』は順調に進んでいる。

 同様に『教育』されているトレサと何の遜色もない。

 P波は相変わらず頻繁に発生しているが、プレマルジナに言わせれば、トレサに反応が無さすぎるくらいで、トレィスはすこぶる健康体であるとの事。

 そのように記録する。


 そうして、迎えた3月9日。

 トレィスと、トレサは人口子宮から出された。

 人、で云うところの三歳程度。

 今までアムニオンに浸っていたから、直ぐ様歩くことは出来ないが、時期可能となる。

『歩く』が、私が最初にトレィスに教えることになる。

お読みいただきありがとうございます。

御意見、御感想お待ちしております。

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