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いたいけなほしくず  作者: 有城 沙生
トレィス
18/30

序・刷新

1ヶ月ぶり。二話同時投稿します。

アカトンボ。

追われてみたわけではないけれど。

透き通った翅の、舞い散る様は――

一体、いつ見たのだろう?

 

女の人と、男の人。

見えない顔が悲しみに歪んでいる。

僕の夢に、幾度となく繰り返し出てくる。

 

一体、誰なのだろう。


――――


 僕が第三ドームと呼ばれるここに来て、十五年になる。

 五歳の時だったから、もう二十歳。

 

 そんな僕のもとに、プレマルジナが女の子を連れてやってきた。

 

 ……いや、女の子というより、赤ん坊。

 なんでも僕の子供――娘らしい。

 

 今の地上には女性の絶対数が足りない。

 だから僕には伴侶はいない。

 

 だからって、勝手に僕の子供を人工受精で作っておいて、育てろって。

 いくらなんでも、勝手が過ぎやしないか?

 

 僕も、人工受精で生まれて、父も母もいないのに。

 育てられた記憶なんて、あるはずがないのに。

 どうやって”育てる”と云うのだろう?

 

 この子は生存者の一人の卵子と、僕の提供した精子を受精させて、

 僕が生まれた人工子宮で生まれた、らしい。

 

 みんな、“らしい”、だ。

 

 全部、ポステアとプレマルジナから聞いただけのこと。

 実感なんて、あるわけもない。

 けれど、

 多分、投げ出すなんて出来ないのだ。


「”デシモテルセロ”です」

 プレマルジナが、大事そうに抱き抱えて言う。


 ”お父さん”か、プレマルジナが名付けたんだろうけど。

 何て名前なんだろう…

 

 …お父さん。

 トレサは何の躊躇もなく、そう呼んでいたっけ。

 僕にはあの機械がーー文字だけを羅列するモニターがーーどうしても”お父さん”には思えなかった。

 適応型汎用知性制御中枢T-IPrimaGeneralo。

 なんて長ったらしい名前を、一々唱える気にならなかったから、便宜上(つられて)”お父さん”とは呼んでいたけれど。


 …………に、してもだ。

 

 自分達は赤子の世話は面倒だからと、僕らを三歳まで人工子宮に閉じ込めておいて、人の扱いさえわからない僕に、赤子を育てろとは、一体どんな了見なのだろう。

 

「びええ!」

 

 いきなり、スイッチでも入ったように、“デシモテルセロ”がプレマルジナの腕の中で泣き出した。

 プレマルジナは冷静に、”デシモテルセロ”の様子(データ)を“記録”している。

 

 その光景に、“器”の中から見えたレンズのような冷静な瞳のポステアを思い出す。

 

 ふいにポステアが僕の顔を覗き込んできて、僕に目を合わせる。

 

 まだ若干の苦手意識は否めない。

 

「なんだと思います?」

 そんな僕をお構いなしに、ポステアが問う。

 

 ……赤ん坊のことか。

 

 プレマルジナが、自分の手の中の赤ん坊を、僅かな動作(データ)も取り零すまいと凝視している。

 

 ポステアは、そんなプレマルジナの手からそっと赤ん坊を抱き上げると、胸に抱き左右に揺すり始めた。

 

 けれど、一向に泣き止む様子は無い。

 

「分からないけど、これが、この子のコミュニケーションってわけ?」

 

「そうですね。オムツが濡れてしまっているようです。交換しましょう」

「僕がするの?」

「“お父さん”の仕事です。何か問題でも?」

「……分かったよ」


 ポステアは赤ん坊を、まるで壊れ物を扱うように、慎重にソファに寝かせる。

 赤ん坊の身体の何処にも負担が掛からないように。

 

『抱く』だけでも細心の注意を払うのか。

 そう考えると、これから先を思って気が重くなる。


「あれ?意外と臭くはないのだね」

 

「“お乳”の間は排泄物は臭くないそうです。食事をする頃には臭い出すようですけど」

 

「成程、そうやって“保護者”は慣らされるわけか」

 

 人の体のメカニズムというのは、うまくできているようだ。

 

「“可愛い”ですか?」

「分かないな。ポステアはどうなの?」

 

 ポステアの瞳が“観察モード”になる。

 一見すると、“見つめている”のだけど。


「身長53.2cm、体重3.8kg。三か月児の平均より小さいようですが許容範囲でしょう。疾患無し。至って健康です」

 

「ポステアらしいね。“可愛い”はどうなの?」

「庇護対象なので、可愛いに値します」


 可愛いと庇護対象なのか。

 庇護対象だから可愛いのか。


 僕のポステアは、ウノスのポステアに比べると表情が固いと言われた。

 “交流”と称して、モニター越しにトレサと、彼女の伴侶となったウノスと話していて、そう言われた。

 

 ウノスのポステアも昔は同じ様に冷たく見えていて、それでもウノスが(僕らの中では有名だった)事件を起こしてから、少しずつ変わっていったらしい。

 

 要は『対話』の問題だ、と。

 そんなことを言われても、ポステアはポステアだし、『対話』って?

 会話とは違うのか?



「一緒に学びましょう」

 ポステアは言うけれど、

「学んで分かることなの?」

 と正直に口を出た。

 

 ポステアが“困った”顔をしている。

 僕に対して“困って”いるのか、返答が分からなくて“困って”いるのか。


 やがて、答えに行き着いたポステアは、

「データは積み重ねる事で最適解を導き出せます」

 と、何ともポステアらしい答えを僕に提示した。 



お読みいただきありがとうございます。

引き続き、よろしくお願いします。

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