ウノスとトレサ 後編
ウノスとトレサ編。終わりです。
長く伸びた髪を結い、私は自分の肉体使用期間を反芻する。
本部にウノスと共に来て1241日。
対攻撃処置に出撃することは無くなっていた。
ユニット型式ポステア・プロダクタムver.Ⅰとして、稼働開始して99864時間経過している。
123の筐体を経て、ここに居る私は26280時間の一体の筐体で過ごして、僅かな肉体の経年劣化を、許容している。
「ポステア!来たよ!」
ウノスとトレサ。
いずれ番いとなるであろう二人。
二人の交流は至って正常に行われている。
「では、今からサツマイモを収穫します」
「わーい!焼き芋!蒸かし芋!大学芋にスィートポテト!」
「トレサはよく、そうもポンポン料理名が浮かぶのな?」
「芋羊羹…」
「それにはまず、サツマイモを土から出しましょう」
「はあーい」
トレサの知識は、ウノスを軽く上回る。
見たこともない料理名を即座に並べ立てる記憶力もそうだが、それ以上に彼女は興味を持ったことを徹底的に追及する。
身体の発育に対して突出しているが、本来の才能がうまく折り合っているのだろう。
ウノスにも良い刺激を与えていて、ドームにいた時よりも、俄然学習意欲が向上している。
トレサに追い付こうと勤勉な様は以前では予想だに出来ない姿だ。
…私のしたことは、ウノスを生命の危機に陥らせた事だけだと思い知る。
「ねえ!ポステア!このお芋さんはどうする予定?」
と、至ってイノセントに語りかけてくるトレサ。
「そうですね。餅米も収穫出来たことですし、少し手間をかけて“かんころもち”はいかがでしょう」
「それはどんなものなの?」
「まず、干芋を作りますから、食せるのは半月は先になりますけど、面白いと思いますよ?」
「食べるまでに半月?凄い!楽しそう!」
「トレサには気になるとお勧めしました。ウノスは直ぐ食べたいですか?」
「なんだよ、人を食いしん坊みたいに!トレサと一緒にやりたいに決まってるだろ?!」
「そうなんですか?」と言えず、私は言葉を飲み込んだ。
ウノスはトレサを選んだ。
それでいいじゃないか。
「汚れてしまいましたね」
私はトレサにそういうと
「お芋を土から出せば、汚れるのは当然。汚れは洗えば取れる!取れるものは取れば良い」
「なんだよ、それ。汚れるのは嫌じゃないのか?なんか、ちっさい時、汚れると怒られた気がするから、おれ、ちょっと怖くて嫌だな」
「怒ったのはポステア?違うでしょ?ママが、手間が増えるから怒ったんでしょ?汚したことに怒ったんじゃなくて、自分の手間が増えるから八つ当たりしたんでしょ?」
「何か…違うのか?」
「トレィスがママって、よく泣いてたのよ。だから“ママ”って何なのか調べたことがあるの」
「それで分かったのか?」
「分かんない!でも、汚れは洗えば取れるのよ」
ウノスはまだ合点がいって無いようなので、助け船を出すことにする。
「汚れたら洗いましょう!」
と、思い切り大きな蔓を引っ張ったら、見事な芋が土を飛ばしながら現れて、ウノスを泥まみれにした。
「ポステア!」
ウノスが泣きそうになっていて、トレサが、大きな声で笑っている。
私も、トレサにつられて笑ってみた。
「これ、何?」
ウノスが、泥の中から見つけ出した小さな翅。
「エフェメラの欠片だね」
トレサは当然の事のように宣う。
「エフェメラって、天井の、あれ?」
おや?ウノスはやはり勉強していたようです。
私が教えていないドームのことも、ご存じです。
「これが、寿命を終えたエフェメラの欠片…」
「命懸けで私たちを外界から守ってくれている…まったく、誰が生き物のバリアなんか、考え付いたのかしら!」
「それでも、おれたちが生きるには最善の方法だとしたんだろう。訳のわからない装置の力を借りないために」
そう言われたトレサは何かを考え込んでいる、と。
「……すごい!ウノス!そうなのね!思い付かなかった!やっぱウノスは面白い!」
と、トレサは思い切りウノスに抱き付いた、はいいが、お互い泥を擦り付けあっている。
まだ、このまま。
子供のお二人を眺めていたくもなる。
その日の夜。
「わたし、お嫁にいきます」
と、トレサが居間で宣言した。
適応型汎用知性制御中枢の端末が、カタカタと態とらしく音を立てている。
寝耳に水のウノスには周囲の音が届いてないようだ。
プレマルジナは……夕食の準備に余念がない。
「「何処にいくんだ!!」」
と、見事なハーモニーを聞かせたのは、端末とウノスだ。
ウノスの声に、トレサはキョトンとしている。
「ウノス以外の誰がいるのよ」
「な、なんでわざわざ出ていくんだ?ここでも良かろう?」
…人工頭脳がどもっているのを、初めて聞いた。
「だって、誰もいないドームは動かしてないのでしょう?それはマズイから、ウノスと新婚生活をします!」
至って、全うに答えるトレサ。
「こ、ここは?」
人工頭脳…
「お父さん達がいる限り安泰でしょ?プレマルジナはどうする?」
「コピーを置いときますよ。第7ドームのお陰て、コピーでの運用も可能とわかりましたから」
第7ドームで一体何があったのだろう。私には知るよしもないが。
「ん。じゃあ、お父さん、おじさま、大おじさま。子供が生まれたら見せに来てあげるから、それまでプレマルジナコピーと大人しく待っててね!」
てきぱきと用件を割り振っていくトレサは、見事としか言いようがない。
状態が飲み込めていないウノスはほっとくようで、トレサは私に話しかけてきた。
「ポステアは…また戦闘に出ることになるけど、若くなると思って勘弁して頂戴」
「トレサ…」
私にまで、気を配ってくれると言うのか。
まだ、十一歳だと言うのに、全く『舌を巻く』とはこの事なのだろう。
「それに今すぐって、訳でもないわよ。早くても二週間後よ。かんころもちが完成しないもの。そうでしょう?ポステア。あ、さるはつれてっても良い?良いよね?わたしのだもん」
昼間のかんころもち、そんなに楽しみだったのですね。
「我は~」
「さる通すか、お父さんだったら何処にでもアクセスできるでしょう?大丈夫。お父さんは強い子」
トレサは、皆を信頼しているのだ、と感じさせる軽口。
さて、わがウノスにもちょっとは花を持たせなければ。
「ウノス、挨拶を」
と、ウノスを適応型汎用知性制御中枢のモニターの前へ出す。
「う、ウノスれすっ!」
と、三度目の正直な様子にトレサもプレマルジナも私も、大笑いした。
かんころもちをご存じでしょうか?
ご存じのかたは、是非感想をお聞かせくださいまし。
そして、活動報告の名を借りた、茶番劇へと続きます。




