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いたいけなほしくず  作者: 有城 沙生
ドウシィとプレマルジナ
12/30

ドウシイとプレマルジナ

緯度:北緯36度45分29秒

経度:東経139度35分56秒

本部位置確認。

現在地より所要徒歩一時間。

ブースト。

十五分で到着予定。


ドウシイのバイタルが異常数値を叩き出す。

体温が四十度を越える。

感情ユニットを外せば最速は可能だか、後々を鑑みると適切ではない。

感情ユニットを外した状態て、本部に立ち入れば、ドウシイはぼくと居られなくなる。

それは、ダメだ。

脳に鳴り響く警告音を、解析もせずただ本部に向けて、走る。

ドウシイを一刻も早く助けねば!


「幸せ」てなんだろう?

 熱に冒された頭はそんなことばかり考えている。

 ぐるぐるぐるぐる。

 あのまま、第7ドームにいた方が良かったのかな?とも思う。

 こんなにも、私の体はポンコツなんだ。

 “外”を甘くみてた。

 プレマルジナの背中。

 ゆさゆさ揺れて。

 このまま、何処か行きたいねって、行ってるのか。

 どこにも向かってるんだろう。

 ゆさ、ゆさ、ゆさ。

 心地よいリズム。

 ごめんね、プレマルジナ。

 目蓋が重くて、開けてらんない。

 ごめんね、プレマルジナ。

 私の、愚かな我が儘に付き合わせて。


目的地、到着。

真っ直ぐに、生命維持装置のある部屋へ向かう。

警告音がいくつも鳴り響く。

ぽくへの直接の警告音。

命令無視。

保護対象異常。

不法侵入。

状態異常のドウシイを優先してくれている。


ドウシイが以前、ここで入っていた生命維持装置の動作を確認。

使用可能。

速やかに安置。

稼働。

ガラス越しのドウシイは青く、極めて危険な状態。

微かに目蓋を開け、ぼくを探す。

『雪中松柏』

ドウシイは漸く意識を手放した。


 跡切れ跡切れの視界。

 逸れさえもぼんやりしてて。

 睫毛越しの景色なんだ。

 急に明るくなって、プレマルジナの背中から下ろされて、不安になる。

 装置の中だ、って解るけど、プレマルジナの背中の安心感を私は求めている。

 ガラスの蓋が閉められる。

 ガラス越しのプレマルジナ。

 泣きそうに見えて、笑っちゃった。

 そんなわけ、無いのにね。


 頭の中に、直接言葉が響く。

 聞いたこともない、機械音。

「何故、逃ゲタ」

 逃げた?誰が?私?

「生存者番号12ト、附随人工生命体」

 12…私のことかしら?附随って失礼ね。

 プレマルジナはプレマルジナよ?

「ドーム外ハ危険。何故出タ」

 ……んー。希望的何かがあるかも知れないと思ったから?としか言えないけど、納得はしてもらえないだろうな。

 唐突に、キケン、ホゴタイショウ、ケイカク、色んな言葉がいっぺんに頭の中に飛び込んでくる。

 分かんないよ!一人ずつ言ってよ!

「…命令違反、任務放棄ニヨリ、対象人工生命体ヲ、シカルベキ処分トス」

 人工生命体?プレマルジナ?

 処分?

 駄目…駄目…

「嫌よ!!!」

 言うと同時に、口の中に液体が入り、苦しい。

 ガラスの蓋が開いて、プレマルジナを直接見る、のに私は咳き込むことも出来ず、苦しい。

 至って冷静に処置をしてくれるプレマルジナ。

 ん。変わらない日常。

 変わった、場所。


「嫌よ!!!」

ドウシイの声がする。

流動食を吸い込んで、呼吸困難に陥っている。

装置のカバーを開ける。

視界に直接ドウシイを納める。

各バイタルの正常を確認。

呼吸の安定を試みる。

「プレマルジナ!」

ドウシイが、ぼくの首に抱きつく。

「怖い夢、見ましたか?ここにはミルクがありません」

夢で魘されていた時と、同じような状態を察知したので、同様に処置したいが、ここにはドウシイを完全に安静へと導けるものが足りない。


「これで……ううん。これが良い」

ドウシイはぼくの手を握る。

手の先に、温度を集める。

ドウシイの全ての状態が、平常安定状態を確認。

ドウシイは、自分の頬にぼくの手を這わせ、目を閉じている。

限りなく睡眠に近い状態。

 

突然、ドウシイのバイタルが異常を放つ。

興奮、怒り、悲しみ。

あらゆる不の感情を孕んで、ドウシイの表情は見たことの無いものへ変化している。

「どうしました?」

ドウシイの頭に触れる。

介入を察知。

本部との直接の接触を図られていた。


「プレマルジナ!」

 名前を呼んで、抱きつく。

 頭の中に響いた、処分という言葉。

 今更ながら、自分の行動が如何に浅慮だったと思い知る。

 

「怖い夢、見ましたか?ここにはミルクがありません」

 ミルクって……何時までも幼いホゴタイショウなんだなって確信しちゃうじゃない。

 

「これで……ううん。これが良い」

 プレマルジナの手を取る。

 察したプレマルジナの手は、平熱から暖かいものへと変わる。

 暖かい。

 それがたとえ、作られたものとしても。

 プレマルジナは暖かいのよ。

 

 自分の頬を包むように、プレマルジナの手を握る。

 暖かい。

 このまま死んじゃえば幸せなんじゃない?

 なんて、何の解決にもならない言葉が浮かぶ。

 

「ソレハ許容デキマセン」

 またあの声。

 もう、折角人が幸せな気分でいるのに邪魔しないで欲しいわね。

「……No.12、アナタニハ、マダスルベキ事ガ、アリマス」

 子供なら産んだわよ。

 これ以上、何させるのよ。

 

「No.12、アナタノ安全ヲ最優先トシ、懐胎ノ予防措置ヲ推奨」

 ……私の安全?

 プレマルジナは、どうなるのよ。

「人工生命体ハ不必要。ココノ守リハ鉄壁デス」

 プレマルジナは、どうするのよ!

「……」

 黙るな!

 

「どしました?」

 柔らかな、いつものプレマルジナの声がする。

 見上げると、いつものプレマルジナがいる。


「脳に直接介入されると、ドウシイの体に触ります!出て来られて下さい!」

 監視モニターに向かって、プレマルジナが淡々と話す。

 私を後ろから、しっかりと抱きしめて…


ドウシイを背中から支えて、脳への直接介入の、身体負担リスクを計算する。

ドウシイの意識が散漫としている。

直ぐにでも、安静を促したい。


「計画続行ニ懐胎ノ予防措置ハ不可欠デス。No.12ノ身体的負荷ヲ考慮シタ最善解トミナシマス」

モニター越しに、聞こえる声。

ドウシイの手が、痛みを訴える時のように、ぼくの腕を掴む。


「ワレワレハ最善ノ手段ニヨリ、No.12ノ身体ニ負担ナク施術シマス」

ドウシイが、探るようにぼくを見る。

同期信号の著しい低下。

最適解の試行を、ノイズに阻まれる。

 

ぼく単体で行動可能な事。

ドウシイが転倒しないように支える。

 

「No.12、永続的ニ卵子供給ヲ命ズル」


すっとドウシイの体から緊張が無くなる。

ぼくの体で、自分の体を支えている。

ノイズの量が増える。


「それで!プレマルジナをどうするのよ!」

ドウシイには稀な、張り詰めた声。

かつん、と外部メモリが動く。


「命令無視、職務放棄、処分…」

「処分なんかしたら、ぶっ壊すわよっ!」

「え?」

「私が!卵子をあげれば良いんでしょう?!取れば良いじゃない!!でもねっ!プレマルジナを処分するのは許さない!」


かつん、かつん。

検索、照合、再試行、解析。

重い。

そのどれにもノイズがかかって最適解が見えない。

泣きじゃくっているドウシイを、止めさせるべきなのに。

血圧も、呼吸も、脈拍も全て乱れきっているのに。

かつん、かつん。


「あなたの望むままに」


 プレマルジナの声がする。

 プレマルジナの視線は固定されて、何も映していない。

 感情ユニットを確認するため、プレマルジナの首筋に指を這わす。

 ある。

 外れたわけでは無い。

「プレマルジナに何をしたの?」

 思い切り、監視モニターを睨み付けるけど、相手の反応なんて分からない。

 

「ナニモシテナイ」

 その言葉に、ぷつんと切れたような、ぱちんとスイッチを押したような音が私の中でした。

 絞り口のクリームが、ぶほって飛び出すみたいに、口の中から言葉が飛び出す。


「ずっと一緒にいるんだから!ずっと二人でいるんだから!絶対、離れないんだから!」

 止め処無く流れる涙。

 まるで要領を得ない言葉。

 当然だ、考えてないもの。


 静音。


 私の呼吸音と、何か機械が動いている音。

 でも、自分の涙が落ちる音さえ存在しそうな寂。


 かつん。

 

 かつん、かつん。

 

 見たことの無い、初めて見る優しい顔で笑うプレマルジナ。

 ああ、何て事だ。


「極メテ危険ナ興奮状態ヲ察知。精神安定ニ必要ナ措置ヲ実行」

 

 優しい笑顔のプレマルジナだけを、脳裏に焼き付ける。

 絶対に忘れないから。


ドウシイの体がぐったりと重くなる。

脈拍、初めバイタルは正常。

鎮静状態。

ぼくは、ドウシイの体をしっかりと抱きしめた。


 


 

 





 






 

 

ドウシイとプレマルジナのお話は次回でけりをつけるつもりです。


もし、もし宜しければ、ご意見ご感想など頂ければ幸いです。

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