7. 商人ギルド
朝の光で目が覚めた。現実に戻ってることを期待したが宿屋のベッドだった。
2日目。まだ、現実には戻れない。
宿屋の朝食はバイキングだった。メニューも日本のホテルでよく見るやつだ。普通にご飯とか味噌汁、焼き魚もあった。レネさんはご飯とおかずを山盛りにしていた。冒険者としては食べられる時に食べないといけないそうだ。いるよね。全種類制覇する人。
私はまだ日本食が懐かしくなってないので、パンにした。シチューがあったので取ったら、これが例のウサギ肉らしい。安いしよく使われてるとか。味は鶏の胸肉っぽかった。普通に美味しい。
目指すお隣の街アハットまでは徒歩だと丸2日掛かる。泉の森を通り抜けた先にゲザ村という村があり、そこで一泊して向かうのが一般的らしい。
今日は準備で、明日の朝レネさんと向かうことになっている。エフェスの街も見てみたかったのでちょうどいい。
バイキングにはフルーツやヨーグルト、コーヒーもあったので、のんびりと食べながら今日の予定の話をする。
「商人ギルドで登録してきます。あと薬師ギルドで作った初級マジックポーション納品してきますね」
「あたしは用を済ませてから、冒険者ギルドで受けられそうな依頼がないか見てくるよ」
レネさんは昨日の夕方にエフェスに着いたため、まだ依頼が完了してないらしい。
「あとは私が使えそうな武器とかも見てみたいんですけど…、レネさん、どこかオススメの武器屋さんあります?」
「品揃えがいい所なら知ってるよ。後で合流しよう」
レネさんと別れ、街を歩く。宿屋は大通りから1本入った道にあり、八百屋やパン屋、肉屋など道の両側にたくさんの種類の店が並ぶ。食べ物系が多いようだ。
商人ギルドは大通り沿いにあった。青い屋根に白い壁の清潔そうな大きな建物だ。
【商人ギルドへ入場しました】
商人ギルドへ入ると、昨日の薬師ギルドより賑わっていた。
「登録したいんですが…」
受付にいた眼鏡の若い男性職員に話し掛ける。
「商人登録ですね。お店を持つ予定ですか?」
「いえ、物を売買するのに商人登録があった方がいいと聞いたので。あと、ストレージ持ちなので、アハットまでの荷物運びのお仕事があれば受けたいです」
「ストレージを使って商売するのですね。ではこちらの水晶玉に手をお願いします」
ここでも水晶玉なのね。簡単に登録が終わったが、情報はしっかり抜かれているようだ。
「なるほど。ストレージと鑑定持ちならば、商会からの求人がありますので紹介できますよ。商会専属の荷物運びですと、だいたい月1万Gが基本給で、歩合制の所が多いですね」
「そんなにもらえるんですね…最終手段としてはありかな…」
生活するためには安定した収入のある仕事が必要だ。
「こちらがギルドカードです。商売の実績が自動で記録されます。経費を引いた売上の1%を税として国に納めてもらうことになりますので、商人ギルドへ届けてもらえればこちらで手続きはおこないます」
へぇ。自動記録。どういう仕組みなんだろう。あと、商売すると税金が掛かるんだね。1%なのがまだ良心的だけど。
「それから、お調べしましたが今はアハットへの荷物運びの依頼はないですね。アハットにならここより仕事があると思いますので、アハットに着いたら商人ギルドへ寄ってください」
「分かりました。ありがとうございます」
商人ギルドのギルドカードは青色だった。薬師ギルドと同じようなシンプルなカードだ。ランクアップとかはないらしい。
【クエスト「商売をしてみよう!」が発生しました】
おっと。クエストだ。
◆クエスト「商売をしてみよう!」
商品を仕入れて、仕入れ値より高く売ろう。
達成条件:商品を仕入れて、仕入れ値より高く売り、売上の1%を商人ギルドへ納税する。10G以上の納税が必要。
期限:なし
報酬:商人スキル
獲得しますか? はい/いいえ
商人スキルがもらえるのか。期限ないんじゃ、獲得っと。
10G以上の納税が必要ってことは、1%だから1000G以上の儲けがないと駄目な訳だ。まぁまぁハードル高いな。
何が売れるだろう?とりあえず手持ちがないから、しばらく保留だな。
それから、薬師ギルドで初級マジックポーションを納品した。80Gでの買取で販売金額は100Gのようだ。魔力草が結構高いからね。
被ってるレシピはどうすればいいのか聞いてみたら、初級レシピは10Gで買い取ってくれるらしい。誰かに譲ってもいいとのことなので、そのまま持っておくことにした。
アハットへ行くことを伝えると気を付けて行くように言われた。受付のお姉さんに餞別に瓶を10本もらった。レネさんから貰ったのと合わせてポーション瓶×14になった。いっぱい作れるな。早く水魔法が覚えられますように。
レネさんとの待ち合わせまで時間があったので、マップが埋まってない所を歩いた。昨日も歩いていたし、エフェスは小さい街なのですぐにマッピングは完了した。
【クエストクリア!】
【クエスト「街を探索してみよう!」をクリアしました。報酬を獲得します】
◆クエスト「街を探索してみよう!」クリア
地図または地図看板を確認した後マップを表示すると、探索した場所がオートマッピングされます。街を探索して地図を完成させよう。
達成条件:街を探索し、始まりの街「エフェス」の地図を完成させる。
期限:なし
報酬:マップ機能追加
【マップスキルに「ナビゲーション」が追加されました。目的地が設定できるようになりました。マップ内で検索し、目的地までの道程を案内します。マップ未完成でも目的地設定可能です】
へぇ。地図アプリみたいだな。すごく便利そう。
試しに広場を目的地に設定してみる。すごく近いけど。
【案内を開始します……目的地の方向へ矢印を表示します】
視界に矢印が表示された。曲がり角で案内もしてくれた。
【目的地周辺です】
近かったのですぐ着いた。マップ便利だな。使っていこう。
レネさんと待ち合わせたのは「始まりの鐘」の前だ。広場にあるからくり時計で、8時から18時の正時ごとに人形が出てきて鐘を鳴らす。待ち合わせスポットだ。
エフェスに初めて着いた時にも広場が出発地点だった。周りを見回すが、プレイヤーっぽい人はいなかった。
プレイヤーは人族以外を選択していることが多いだろうし、多分見た目もいい筈だ。衣装にも拘っている、もしくは初期装備だ。あとストレージがあるからバッグなんかは持っていない筈。
レネさんがやってきた。レネさんは腰に剣を差していて冒険者らしい見た目だ。
プレイヤー以外の冒険者は、動きやすそうな格好で、剣を差していたり、弓を背負っていたりする。大きな荷物を背負っていることもある。
なんとなくプレイヤーを判別できそうだが、やはりそれっぽい人はいない。
…ここは、ゲームの世界のアルカディアだけど、実際のゲームとは別の世界なのかもしれない。
12時の鐘が鳴ったので、広場に出ている屋台で昼食を食べることにする。
広場近くにはオシャレなカフェもあって、入ってみたかったけど、残念ながら私にはお金がないので、レネさんおすすめの屋台にした。大きめのハンバーガーにサイダーのような飲み物付きだ。しっかり野菜も入っていて食べ応えがあって普通に美味しかった。
それから、レネさんおすすめの武器屋に連れて行ってもらう。
「おー、色々ある」
たくさんの種類の武器が置いてあった。剣や弓は大きさも形も色々だ。
「リリー、どんな武器がいいの?」
「遠距離攻撃できる武器ですかね…」
「遠距離だと弓か投剣だけど、使えるの?」
「無理ですねぇ……鞭ならイケるか?いや、高いな。やっぱり無理」
短剣がアレなので、なにか買いたいと思っていたけど、買っても使えなさそうだし、値段も1000G以上するものが多かった。これからを考えたらとても買える金額ではなかった。魔法と短剣で頑張ろう。
ついでに初期装備のローブが売れないか聞いてみたら、50Gで買い取ってくれるらしい。安いな。寝間着にした方がマシだ。諦めた。
近くにあった道具屋にも入った。道具屋といっても結構大きな店舗で、冒険者向けの道具がなんでも揃う感じだ。
テントや寝袋などの大物から、携帯食やタオル、魔物除けアイテムなんかも売っていた。見てて楽しい。
「色々あって欲しくなっちゃう」
手持ちがないから買えないけどね。
「リリーならこのへんかな」
「採取コーナーですね」
採取に使うスコップと鋏と籠、革手袋が麻袋にまとまって100Gで売っていたので購入した。
前回の9520Gから、宿代が700Gで二泊分。お昼のハンバーガーが2個で60G。道具屋で100G。初級マジックポーションで80G収入。現在の手持ちは8040Gだ。徐々に減ってるなぁ。不安だ。
レネさんと色々見回った後、宿屋に戻るとすぐ夕食が食べられると言われたので早速食堂へ向かう。
今日の夕食は魚だった。白身魚のムニエルと、海老とマカロニのグラタン。サラダとスープも付いている。
「んー、美味しい」
「この宿、ご飯が美味しいって女性冒険者に人気なんだよ。少し高めだけど治安もいいしね」
高めだったのか。まぁ、薬師ギルドのお姉さんも女性にオススメできる宿を紹介してくれたんだろうしな。
宿泊客の半分くらいは女性で、ご飯も美味しい。部屋も綺麗だ。安全面も考えるとお得なんだろう。
部屋に戻り、お風呂に入った後、泉の森の地図を確認する。昨日行かなかった泉の先には調薬に使えるいくつかの素材と、強くなった魔物がいる。幸い魔法が効くようだ。
素材の図鑑も読んでおく。魔物からドロップする素材は、ドロップ元の魔物の名前とイラストも載っていた。
時間を見ると22時を少し過ぎていた。ステータスボードには時計も表示されている。アラーム機能まで付いていた。明日起きられるようにセットする。
「ちょうどいいのがあったよ」
レネさんは冒険者ギルドで依頼を受けてきたようだ。
アハットにいく途中にあるゲザ村で、依頼主が指定する人物に会い、家具を受け取ってアハットまで運ぶ依頼だ。ストレージなら大きいものも運べるし、私にぴったり。
「ちょっと報酬は安いけど、通り道だしいいかと思って。リリーのストレージがあれば負担もないしね」
依頼報酬は2000G。
荷馬車を借りて馬の餌代も含めると1000G近く掛かるらしい。移動や宿代も考えると割のいい依頼ではなく、大きめのマジックバッグかストレージ持ちの冒険者がいるなら受けてもらえそうな依頼だという。
プレイヤーはストレージ持ちの筈だから、こんなおいしい依頼があれば率先して受ける筈。……この世界にはプレイヤーは私しかいないのかもしれない。
こうして、現実に戻る気配もなく、2日目の夜も過ぎていった。




