6. 模索
部屋に戻った私は、レネさんに断ってから部屋に付いているお風呂に入る。しかもバスルームとトイレが別だったので、ちゃんとお湯を張って浸かることができた。シャンプーや石鹸なんかもちゃんとあった。
戦闘して埃っぽかったし、疲れていたので嬉しい。冒険者の人はあまり湯船に浸からないらしいけど、レネさんも入りたいと言ったのでそのまま使ってもらった。
ここがゲームの世界で良かったかもしれない。このゲームを作っているのは日本人で、生活水準も日本基準。言語も日本語。異世界転生モノの小説のように、食事が不味い!とか、風呂がない!とかトイレがヤバい!とかの心配がない。
しかもバーチャル観光地として需要があるため、リアルマネーを落としてくれるプレイヤー向けに、世界各国の料理やスイーツ、ドレスやアクセサリー、可愛い小物に至るまで何でもあるのだ。
「観光目的のプレイヤー」は女性が多い。物価が十分の一なのもあり、旅行業者のツアーの後、VRカプセルを購入して新たにゲームを始める者も一定数いるようだ。このゲームはお金さえあれば大抵のことが叶ってしまう。今更だけど、もっと課金しておいたらな、と思ってしまう。
お風呂から上がった私は、ストレージに入っていたこのゲーム、アルカディア・バーチャルワールドのマニュアル本である「アルカディアの世界について」をじっくり読んでみることにした。この世界の情報を知るためだ。
まず、世界観。
この世界、アルカディアを作ったのは、ゲヴェルとイシャという夫婦神で、この世界の唯一神だ。
教会はこの神達を祀っていて、どこの街や村にもある。人々は助け合うという教えのもと、聖職者が多く在籍しているため回復魔法を使える者が多く、大きな街では病院の役割も兼ねている。
住民は神に感謝し祈りを捧げる敬虔な教徒だ。
アルカディアの世界は主に二つの大陸でできている。アルカディア大陸と、魔王が住むという最果ての大陸の二つだ。
主な活動場所となるのはアルカディア大陸最大の国、メディナ王国。私が現在いる国だ。
主要な街は10あって山手線のように円を描いており、中央に王都がある。街の間はポータルで移動ができ、一つ移動するごとに500Gが掛かる。ポータルは駅みたいなもので、一つずつしか移動できない。そして有料。
円の外にある始まりの街「エフェス」から行けるのはお隣のアハットだけで、円の一部になっているアハットから行けるのはエフェスの他、両隣のシュニムとエッセル、それと王都だ。王都は主要な10の街とポータルが繫がっているので、3つ以上離れている場合は王都を経由した方が安上がりとなる。
メディナ王国以外には独立している「世界樹の守り里」や「ドワーフの地下国」などいくつかの小国がある。国外という扱いなのでポータルはない。
ここまでがアルカディア大陸の中、もしくは島にあり、もう一つは魔王が住むといわれる最果ての大陸となる。
アルカディアでは魔物が発生していて、魔王もいるが、特に侵略などはされていなく、平和な世界だ。
これから何かあるのかもしれないが、現在は「異変」というメインエピソードがあるだけだと聞いている。現実に戻れなくなった今では確認することはできないが。
実際、各地に異変が起きていて、冒険者ギルドにも調査依頼が出ているとレネさんが言っていた。
じっくり読んでみたのだが、このゲームのマニュアル本、意外と色々な情報が載っている。
ステータスボードの見方やアイコンの説明なんかはもちろん、世界地図も載っているし、簡単に街の情報も出ている。
種族や職業についても載っている。種族にも個性があり、それぞれ取りやすいスキルがあるらしい。
ステータスも確認しておこう。
「ステータスオープン」
リリー Lv.3
種族 性別:孤人族 女
職業:魔法使い Lv.3
第2職業:未解放
HP:38/38
MP:64/76
SP:10/10
体力:19
魔力:38
物理攻撃力:18
魔法攻撃力:32
耐久力:16(36)
素早さ:28(33)
器用さ:25
運:19
満腹度:95%
状態:通常
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装備効果
〇和風装備セット
耐久力+20
素早さ+5
物理耐性(小)
魔法耐性(小)
毒耐性(小)
汚損防止(中)
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スキル
ストレージ
マップ
鑑定 Lv.1
調薬 Lv.1
☆身体強化 Lv.1
☆種族固有スキル 未開放
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魔法
火:ファイア
水:
土:ソイルウォール
風:
雷:
光:ライト
闇:
時:
重力:
空間:
孤人族は物理攻撃力や体力、耐久力はあまりないが、魔力と魔法攻撃力、素早さ、器用さは高めだ。職業に魔法使いを選んでいるので魔法関係の伸びがいい。
この和風衣装は、可愛さと初回半額に釣られて買った装備だけど、戦闘してみてかなりいい装備だと分かった。泉の森の魔物には攻撃を受けてもまったくHPは減らなかったし痛くもなかった。
初心者お助けセットもかなりお得だった。1万Gに、水筒とタオルと石鹸、初級ポーションと初級マジックポーションが付いて999円とか価格破壊だ。これがなかったら今頃路頭に迷ってる。買っといて良かった。
無課金での持ち物はマニュアル本、財布、職業ごとの初期装備と選んだ武器、初級ポーションが1本、パンが5個。あと1000G。うーん、やっていけるんだろうか。
あと、薬師ギルドで買った「薬師と魔道具師のための素材図鑑(初級編)」も、すごくいい本だった。500Gはお高い本なんだろうけど、レシピも載っていたし分かりやすかった。中級、上級編もあるのだろうか。ぜひ買いたい。
調薬スキルを獲得した時に、図鑑に付いていた紙のレシピは消滅したんだけど、薬師ギルドで貰って被っていた初級ポーションと初級マジックポーションのレシピは残っている。何か使い道があるんだろうか?今度聞いてみよう。
素材図鑑を捲っていると、最後の方のページにレシピが載っていた。レシピの名前以外は白紙になっていて「調薬スキルに統合されました」と書いてあるが、何故か統合されずに残っているレシピがあった。
・火炎瓶(威力:小) 火属性の攻撃。投げ付けて使用。
・凍結瓶(威力:小) 水属性の攻撃。投げ付けて使用。20%の確率で凍結を付与。
・煙幕瓶 白煙を発生させて周りを見えなくする。逃走用等に。投げ付けて使用。
3種類もある。攻撃アイテムっぽいけど、どうして調薬スキルに統合されなかったんだろう。
【クエスト「魔道具を作ろう!」が発生しました】
いつもの音と共にメッセージが出る。レシピを読んだのでクエストが発生したようだ。
◆クエスト「魔道具を作ろう!」
レシピを確認して、魔道具を作ってみよう。
達成条件:火炎瓶を作り、魔道具師ギルドへ納品する
期限:なし
報酬:50G、魔道具作成スキル、スクロールのレシピ
獲得しますか? はい/いいえ
なるほど。残りの3つは魔道具のレシピだったから調薬スキルに統合されなかったんだね。
魔道具作成スキルが手に入るし、クエストに期限はなかったので獲得しておく。素材がないからまだ作れないけどね。
調薬スキルに保存されたレシピも確認していく。
・初級ポーション【成功】 HPを少量回復する。軽度の怪我を治す。
・初級マジックポーション MPを少量回復する
・初級毒消薬 軽度の毒を解除
・闇払薬 暗闇を解除
・麻痺消薬 軽度の麻痺を解除
・気付け薬 軽度の眠り、混乱、魅了を解除
・初級魔物避け 魔物の嫌いな匂いを出す。レベル20までの魔物を寄せ付けなくなる。
おっ、使えそうなものばっかり。作れるようになったら多めに作って自分用に持ってよう。
そのためには素材を集めるのと、魔法、特に水魔法を覚えなきゃね。
「さっぱりしたぁ。湯船に浸かるっていいね」
レネさんがお風呂から出てきた。ポニーテールにしていた髪は下ろしている。水色の髪って見慣れないけどこの世界では珍しくない。私の髪も銀髪だしな。
「あ、そうだ。宿代半額返しますね」
350Gをレネさんに渡す。
この世界のお金は、日本とまるで同じなので分かりやすい。1G、5G、10G、50G、100G、500Gが硬貨、1000G、5000G、10000Gが紙幣だ。作りも似た感じで、5Gと50Gに穴が空いてるのも同じだ。価値は10倍だけど。
「明日から払ってもらえればいいのに」
「いえいえ。護衛をお願いするんですから、そこはしっかりしないと」
連泊分の料金はフロントで払ってきた。安心して明日まで泊まれる。
「そう?じゃ、遠慮なく。そうだ、代わりと言っちゃなんだけど魔力草あげるよ。一つしかないし売ってもたいした金額にならないから」
レネさんがバッグから魔力草を出す。さっき図鑑で見たから鑑定しなくても分かる。
「えっ、いいんですか!?初級マジックポーションが作れるじゃないですか!…あ、でも瓶がない!魔力水も!」
「瓶ならポーションの空き瓶があるからあげるよ。水魔法も使える」
「えっ、ホントですか!?」
レネさん、なんて優しいし万能なの!最初疑ってごめんなさい!
材料は揃っているし、薬師ギルドのランクを上げるためにも納品しなければ。
「よーし、初級マジックポーション作っちゃおう!」
「あ、あたしも見てていい?」
「もちろんです!」
薬師キットを準備し、レネさんに見せるために紙のレシピを取り出す。レネさんにはポーションの空き瓶を洗って、水魔法のウォーターで水を入れてもらう。
初級マジックポーションの作り方は、レシピによると材料は魔力草と、癒草と、魔力水と瓶。
「えーと、まず魔力草一束をすり鉢に入れてすり潰す……後は初級ポーションと同じだ」
手順も同じで簡単でいい。
「…よし、完成!」
【初級マジックポーション作成に成功しました】
調薬スキルもあるし難しくもなかったので、ちゃんと成功した。初級マジックポーションは、透明な青の液体だ。潰した魔力草が青かったのでそのせいだろう。
あとは、薬師ギルドに納品すればオッケーだ。レネさんが水魔法を使えて助かった。
「そういえばレネさん、水魔法はどうやって覚えたんですか?剣を差してるってことは、戦士なんですよね?」
「ん?初めからスキルがあったんだよ」
「え?スキルって職業に応じて決まるんじゃないんですか?」
通常、戦士を選択すると、魔法系のスキルは付かない。魔法はクエストか転職で覚えていく筈だ。
「いや?10歳になると、教会でステータスボードを鑑定してもらうんだよ。そこで職業とスキルを告げられるんだ」
「えっ、そうなんですか!?」
NPCは、職業もスキルも選べないらしい。あと鑑定しないとステータスボードが見れないことが判明した。
私がステータスボードを見れるのは鑑定が初期装備だからだ。
「狐人族はステータスボードの鑑定ってないの?狐人族の隠れ里も国外だし、メディナ王国とは違うか」
「あっはい、そうなんです!」
狐人族で良かった〜!レネさんが誤解してくれて助かったよ。
「あたしは職業は戦士で、スキルが剣技と水魔法だったんだ。魔力はそんなに多くないんだけど、並行してレベルアップしたら、魔法剣士に転職できたんだよ」
「魔法剣士!なんかカッコイイですね。強そう!」
魔法剣士か。人気のありそうな職業だな。剣も魔法もってやっぱり憧れるよね。
「リリーの職業は?」
「あ、私は魔法使いなんです。一応全属性なんですけど、なかなか魔法覚えなくって。調薬スキルは覚えたので薬師を目指してます」
「へー、全属性。珍しいね」
「まだ3種類しか覚えてないんですけどね」
「ああ、魔法の属性数が多いとなかなか魔法覚えないって聞いたことあるよ」
薬師キットを洗って片付けてから、ベッドに入る。レネさんが電気を消してくれた。
私がこの世界でやるべきことは……
1.とりあえず生きていくためにお金を稼ぐ
2.自分のレベルアップとスキルアップ
3.プレイヤーを探す。現実に戻れるか模索する
こんなところか。
宿屋のベッドは普通に寝心地が良い。
色々と疲れていたので、目を閉じるとすぐに眠気が襲ってきた。




