1. はじまり
アルカディア・バーチャルワールド。
略してAVW。もしくはアルカディア。
アルカディア・バーチャルワールドは、バーチャル・リアリティでの五感を実感できる「何でもできる世界」を売りにしたMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)だ。
冒険や交流はもちろん、観光もできるほど作り込んだ雄大で魅力的な景色があり、リリースから一ヶ月で観光業界がツアーを開始するほどの異例の大人気。
天空の城に飛行船で向かったり、妖精のいる美しい一面の花畑でピクニックしたり、2つの月が存在する星空を眺めたりと、リアルでは味わえない世界観が体験できるとして話題になった。
現在リリースから一ヶ月半が経ったが、ソフトの売上本数も課金売上額も増え続け、大変好調なようだ。
アルカディア・バーチャルワールドはMMORPGで、メインストーリーがあり、魔物がいて魔王がいたりする王道のRPGらしい。らしい、というのはまだ魔王の存在感がないからで、ダンジョンもあるしダンジョンボスやフィールドボスはいるので、多くのプレイヤーが、仲間と協力しながら冒険を楽しんでいる。
それとは別にゲームを楽しむ人がいる。生産職やエンジョイ勢と呼ばれる人達だ。
このゲームの職業は定番の武器や防具を作る鍛冶師や、ポーションなどを作る薬師、料理を作る料理人などもあり、畑で野菜を育てたり釣りなんかもできる。もちろん観光も魅力的な場所がたくさんある。
そんな大人気ゲームを今まさに始めようとしているのが、そう、私だ。
【アバターの設定が完了しました】
種族は獣人で狐人族。能力は無視して完全に見た目の好みで作ったアバターだ。
ショートボブの銀髪に銀の耳、青銀の瞳の少女だ。もふもふの尻尾も付いている。
一応身体のデータは自分から取るのだが、細くしたり、胸や瞳を大きくしたりできるので、もはや別人である。
ちなみに性別変更はできないが無性は選べる。このゲームはお風呂に入れたりするので倫理的な事情らしい。
【名前と職業を設定してください】
「名前……リリー」
下原百合。それが私の名前だ。
25歳の会社員で、1年付き合った彼氏に浮気されていたことが発覚。しかも子供までできていた。お相手の方と結婚するそうだ。ふざけんな。
とりあえず怒り任せにビンタして(ちなみに元彼氏はふっとんだ)、すっかり吹っ切れた私は、ずっと気になっていたこのゲーム、アルカディア・バーチャルワールドをやるために最新のVRカプセルを衝動買いした。
土日を挟んで2日有休を取り、食料も買い溜めして、万全の体制で挑んでいる。
「職業は…と、何が選べるのかな?」
『職業選択』
戦士、武闘家、魔法使い、聖職者、職人、テイマー
【職業によってステータス値が変化します。派生職があり、レベル10から第2職業に設定可能です。また、特定の場所で転職可能です】
転職か…。特定の場所って例の神殿かな?
私は冒険よりも生産したいと思っている。派生職業である錬金術師を目指して、地道にやっていくつもりだ。それから、景色が素晴らしいという観光もしたい。
【職業の情報は、職業名をタッチすることで確認できます。また、職業選択後、選んだ武器等を初期装備とします】
職業ごとの特性を見ていこう。
戦士
一般的な戦闘職。力と体力が上がります。様々な武器や防具を装備できます。多くの派生職があります。
『武器等選択』剣、槍、弓、斧、槌、棍、鞭、大剣、投剣、短剣、盾
戦士の中でも定番で派生職が多い剣士が人気だ。スキルもたくさん覚えて使いやすいとか。時間を掛ければいくつもの武器を使いこなすこともできるらしい。
武闘家
素早さと力が上がり、武器なしでも戦えます。獣人など身体能力の高い種族におすすめ。
『武器等選択』爪、グローブ、投剣、短剣
これも定番。獣人の高い身体能力を活かして戦うと強いらしい。身軽で斥候向きの職業でもある。
魔法使い
一般的な魔法職。魔力が上がります。属性を選べます。
『武器等選択』杖、魔導書、短剣、鞭
戦闘職寄りの定番職業。打たれ弱い。魔法使いはやっぱり憧れるよね。
聖職者
治癒と聖魔法を覚える回復のスペシャリスト。魔力が上がります。
『武器等選択』杖、聖典、弓、短剣
回復と補助に特化した職業。ソロでは活躍しにくいが、レベルが上がると強力な攻撃魔法も覚えるらしい。
職人
器用さと運が高く、体力と力も高めで、生産職に向いています。
『武器等選択』剣、短剣、鞭、斧、槌
ドワーフを選んで鍛冶師を目指すのが定番。採取しながら戦闘もこなし、割と強いらしい。
テイマー
魔物をテイムし、共に戦う職業です。テイムできる魔物はレベルやスキル、運に依存します。また、テイムした魔物と、経験値を共有します。
『武器等選択』ウルフドッグ、ケットシー、スライム
テイマーだけなんか種類が違う。選べる魔物は、物理系、魔法系、便利系…らしい。スライムって定番で便利そうなイメージだよね。
テイマーと迷ったが魔法使いにした。とりあえず薬師になるつもりなので、調薬とかに魔法が使えそうだからだ。
お供の癒しキャラはいないけど、セルフもふもふだ!耳と尻尾しかモフモフ部分はないけどさ。
「魔法使い、っと…」
【職業に魔法使いが選択されました。属性を選び、ポイントを振ってください】
火、水、土、風、雷、光、闇、時、重力、空間で10属性。初期ポイントも10ある。
メインで使いたい属性は2つくらいに絞って多めに振り、残りは回復のある光魔法などに振るのが基本らしい。
攻撃魔法の代表の火魔法や、飲み水になって強力な氷魔法が使える水も人気だ。
極振りするとすぐに強力な魔法を使えるようになるけど、魔法を覚えきるのも早いし、耐性がある魔物相手だと詰んでしまうので転職予定でなければあまり推奨されない。逆に全属性も使い勝手が悪いので推奨されない。…そう、推奨はされていないのだが。
「うーん。全属性にしてしまえ」
ステータスポイントは選んだ属性に均等に割り振られるので属性が多いと器用貧乏というか、かなりレベルを上げないと強い魔法は使えない。
孤人族は少し魔力が高めだが、エルフほどではないし。魔法使いになるなら定番にエルフか魔女に転職できる可能性のある人族を選んだ方がいい。
でも薬師や錬金術師に何が使えるか分からないので全属性に均等に振る。本格的に冒険する訳でもないし、後から属性を追加して選ぶことはできないからだ。使う魔法を選べるのは魔法使いだけで、戦士など魔法を全く使えない職業も多い。転職やクエストで覚えられることもあるらしいが。
【武器を選んでください】
短剣にしよう。素材採取で使えそうだし。
【プレイヤー名:リリー、種族:孤人族、職業:魔法使いで登録いたします。よろしいですか?】
はい、っと。
【プレイヤーの設定が完了しました。最適化しています。しばらくお待ちください………】




