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姉さんは料理上手……?

「料理がしたい!」


 金曜日の夜に、姉が突然そんなことを言い出した。


「急にどうしたんだよ、姉さん」


 あまりに突拍子もない姉の発言に、僕は思わず突っ込みを入れる。


「昨日テレビでやってたんだよ! 料理が出来る女子はモテるって!」

「……姉さん、モテたいの?」

「開くんにね!」

「あ、そ」


 察しが良い人なら気づいていると思うが、僕の姉はややブラコン気味である。

 僕がまだ幼い頃は姉に優しく接してもらい嬉しかったが、思春期真っ只中の今現在は少し鬱陶しくも感じる。


「それで、何を作るの?」


 とりあえず僕は姉にそう聞いた。


「うーん」


 姉は迷っている様子だった。

 決めてなかったのかよ。


「そもそも姉さん料理なんてしたことあるの?」


 僕は17年間最上綾乃の弟をしているが、姉が料理をしている姿なんて一度も見たことがなかった。

 それもあり、姉の唐突な思いつきには不安しかなかった。


「あるに決まってるでしょ!」


 姉は自信満々にそう言う。


「じゃあ、何作った経験があるの?」

「ほら、あれよ! お湯を注いで、3分待てば出来上がるやつ!」

「それってまさか……」

「そう、カップラーメンよ!」

「……姉さん、それを料理作った経験に入れないで」


 やっぱり不安だった。


「カップラーメンを舐めてもらっちゃ困るわよ!

今時のカップラーメンは、誰でも、美味く、早く作ることが出来るのよ! 特に味噌は素晴らしいわ! お姉ちゃん大好き! だから、カップラーメンを作ることは立派な料理経験としてカウントして良いと思うの!」

「はいはい。凄い凄い」


 また姉の変なスイッチが入ってしまったが、僕はそれを軽く受け流した。

 とりあえずキッチンに向かい冷蔵庫の中を確認する。


「えーと、人参、じゃがいも、豚肉……おっ、カレールーあるじゃん!」


 冷蔵庫の中はとても充実していて、カレールーがあるので何を作るのかは一択だった。


「姉さん、丁度具材も揃ってるし、カレー作ろう」

「いいね! 私がパパッと作るから、開くんはお利口さんにしててね!」

「いや、僕も手伝うよ」

「姉を助ける弟……なんて出来た子なの! だけど、私だけに作らせるのがそんな不安なの!?」

「不安しかねーよ」


 そんなわけで、調理開始だ。

 まずは具材を切るところから始まった。

 姉が包丁を持っているのだが、今にも怪我をしそうで怖い。


「姉さん、すごい手がプルプル震えてるけど、本当に大丈夫?」

「だ、大丈夫よ! お姉ちゃん何歳だと思ってるのよ! 24よ、にじゅうよん!」


 と声も震えながら、24歳ニートが強がっている。


「もしかして姉さん、包丁持つの初めて?」

「そ、そんなわけないでしょ! 私にだって、刀を握ってモンスターを狩っていた時代がありましたー!」

「ゲームの話なんて一ミリもしてねーよ。リアルの話だよ」


 姉はとうとう現実とゲームの区別もつかなくなったのか。

 これはかなりの重症だ。


 と冗談はさておき、姉一人に任せなくて本当によかったと心から思った。

 姉の手はまだ震えたままで、一向に切る様子はない。


「本当に大丈夫?」

「だ、大丈夫よ! 開くんのために絶対に美味しいカレーを作ってみせるんだから!」


 姉はそう言って、ついに人参に包丁を入れた。

 ザクザクザク、と人参を切っていく。


「……ま、まぁ、初めてにしては上出来ね」


 出来栄えは悲惨だった。

 て言うか、やっぱり初めてだったのかよ。


「でか」


 僕は思わずそう呟いた。

 姉が切った人参はあまりに大きい。大きすぎる。

 とてもじゃないが、カレーの具材としてはいまひとつだ。


「次は何を切ろうかな!」

「あとは僕がやっておくから、姉さんは休んでて」

「私だって料理くらい出来るし、開くんに美味しいカレーを食べさせたい!」

「この腕をみても、まだそんなことが言えるの?」


 僕はそう言って、姉の切った人参を見せる。


「うぅぅ」


 とうとう姉は諦めてくれた。

 それからは、僕一人で料理を再開した。

 こう見えて、僕は料理は得意な方だ。


 残りの具材も手際良く切っていって、カレーを煮詰めていく。

 僕が作業している最中、姉がずっと横で「開くんすごい!」や「開くんの特製カレー早く食べたいなー!」とか言っていたのはやや鬱陶しくもあった。


 だがそれでも、姉に任せてカレーではない異形になるよりはマシだった。

 隠し味にコーヒーを加えて深みを出し、一時間煮込む。

 カレーはついに完成した。


「美味しそー!」


 姉は感激していた。


「「いただきます」」


 カレーを食器に盛り付け、テーブルに置き、椅子に座った僕らはそう言った。


「美味しぃぃぃ!」


 カレーを一口食べた姉は、頬を抑えながら笑顔で喜んでいた。

 自分で作ったものが誰かに喜んでもらえるのは、素直に嬉しかった。


「お、これは、星!」


 姉はそう言って、星型の人参を僕に見せてきた。


「それ、姉さんが大きく切りすぎたやつだよ」

「え! 私が切った人参にこんなアレンジをしてくれたの! 開くんって器用だね!」

「具材がもったいなかっただけだから」


 そう照れ臭く僕は言う。

 姉は「可愛い!」と反応した。


 僕に向かってなのか、星型の人参に向かってなのかは知らない。

 後者だとありがたい。


 そんなこんなで、僕達は深夜に熱々のカレーを食べた。

 たまには真夜中に食べるカレーも悪くないと思った。

 食べ終わると、姉はすっかり寝てしまった。


「……はあ」


 と僕はため息を吐きながら、姉の分の食器も洗った。

 さすがに疲れたので、僕も寝ようとしたその時、ふと、思った。


「あれ? 元々姉が料理したいって言ってたのに、結局全部僕がやってるじゃねーか。確かに姉の料理の腕は絶望的だったが、作ってる最中も邪魔ばかりされたんだが」


 僕は熟睡している姉をちらりと見る。


「……それにこの体たらく」


 姉がニートだと、弟も色々大変だということを今日改めて知った。

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