高校生の朝は早い
月曜日。
学生ならば、学校に行かなければいけない日だ。
姉はいつもの如くぐっすり寝ているが、高校生である僕の朝は早い。
特に部活動に所属している生徒なら尚更だ。
朝6時には起床し、学校に行く準備をする。
学校に着くと、部室で軽く着替えてからグラウンドへ向かう。
僕が所属しているサッカー部はとにかく厳しい。
特に僕みたいなレギュラー組には、監督が強く当たってくる。
大会も近いため気持ちが分からなくもないが、もう少し優しくしてほしい。
朝練が終わり教室に戻ると、同じサッカー部の清水冬馬が話しかけてきた。
「おっつかれさん!」
「あぁ、お疲れ」
冬馬の声に、僕は軽く返す。
「相変わらず開は元気ねえなー!」
「そんなことねーよ」
「まじで俺らのパサー開様には期待してるんだからよ。今年こそは絶対にワールドカップ優勝に導いてくれよ!」
「無理だし、目標が飛躍しすぎだろ」
これが冬馬の平常運転である。
こんな感じで冬馬は冗談ばかりを言う。
それに僕が軽くつっこむ。
それが僕達の日常だ。
冬馬とは小学生時代からの親友であり、そこでも地域のクラブに所属して一緒にサッカーをやっていた。
自慢ではないが、当時は天才コンビなんて呼ばれていた時期もあった。
僕がパサーで、冬馬がストライカー。
僕がパスをすると、絶対に冬馬は決めてくれた。
外したことなんてなかった。
それくらい昔から僕達は息ぴったりだった。
それはサッカーに限らず、日常生活においてもだ。
「今日何?」
「スペシャル焼きそばカレーパン」
と、冬馬のこんな抽象的な質問にも答えることができる。
ちなみに今の質問は、今日の購買のスペシャルメニューは何? だ。
「やりー!」
冬馬は特に奇抜なメニューが好きで、かなり喜んでいた。
「開は?」
「メロンパン」
「ほんとよく飽きねえなあ」
ちなみに今の冬馬の質問は、開は昼飯何食べるの? だ。
僕は昼休みになると、ほぼ毎日決まってメロンパンを食べている。
冬馬からはもっと他のものも食べろと言われたりするが、僕がメロンパンにこだわる理由は一つしかない。
美味しいからだ。
特に表面のサクサク生地は美味である。
「じゃ、また昼休みな!」
冬馬は僕にそう言って、自分の席に戻っていった。
授業が始まると、僕は一番後ろの席でペン回しをしながら窓の外を眺めていた。
数学担当の田中先生の授業はひどく退屈で、いつもあくびを堪えるのに必死だ。
ゆっくりとした眠くなるような声で、数学教師なのに非効率な解き方を教えている。
中には真面目に聞いている生徒もいるが、大半は寝ていた。
無論、冬馬は寝ていた。
開始2秒で。
僕は軽く田中先生の話を聞きながら、それなりにノートにメモした。
後で復習さえすれば、テストでそこそこ良い点は取れる。
いつもそうだから、全く問題ない。
そんなわけで、今日も授業が進んでいく。
昼休み。
午前の授業が終わり、僕は誰もいない屋上でメロンパンを食べていた。
「ちーっす!」
遅れて、冬馬もやってきた。
「開ってサッカー部なのに、結構陰気だよな」
「サッカー部が全員陽キャだと思うなよ!」
「あはは! なんでそんな怒るんだよ」
「怒ってねーよ」
正直、自分でも思っていた。
部活の性質上、サッカー部には自然と陽キャと呼ばれる人達が多い。
その人達に比べたら、僕は陰キャだ。
そもそも高校に入学して、最初はサッカー部に入るつもりなんて微塵もなかった。
高校はなるべく人と関らず、静かに過ごす。
それがベストだと思っていた。
だが冬馬に強く誘われて、入部を決意した。
今となっては、自分の居場所が出来たので冬馬にはとても感謝している。
「冬馬こそいーのかよ。同じサッカー部の奴らと飯食べなくて」
冬馬は、僕とは違い陽キャ側の人間だ。
コミュ力が非常に高く、同級生や先輩とも上手くやっていた。
これは小学生時代から変わらないのだから、きっと天性のものなのだろう。
「いいのいいの。俺は開と飯が食いてえんだから」
「サッカー部なのに陰気な僕と一緒にいても楽しくないでしょ」
「え、もしかして根に持ってる?」
「持ってねーよ」
うん、持ってない。
本当だから。
「なあ、それより昨日の日本対スペイン戦見たかよ」
冬馬が僕にしてくる話は、大体がサッカーの話しだ。
僕もサッカーが好きだし、それで冬馬と盛り上がるなら悪い気はしない。
「あぁ、見たよ。凄かったよな」
「ほんとそうだよな。親善試合とはいえまさかスペインに勝っちまうなんてな! しかも、圧勝!」
冬馬の言うとおり昨日の試合は本当に凄まじかった。
試合が始まると同時に日本はとてつもない攻撃力を見せ、気づけば5対0でスペインを下していた。
だが今の日本代表は歴代最強メンバーと呼ばれており、その強さにも納得がいく。
「数年後には開も俺も最強メンバーの仲間入りかー。それでまさか俺達がワールドカップ優勝に導いちゃうなんて!」
冬馬はまた冗談を言った。
「僕は代表どころかプロにもなれねーし、なる気なんてねーよ」
「そうなのか? 俺は絶対なるけどな!」
「ま、がんば」
冬馬の本気なのか冗談なのかよく分からない言葉に、僕は軽く流した。
そろそろ昼休みも終わる頃だ。
「じゃ、また部活でな!」
そう冬馬は言い残し、去っていった。
僕も残りのメロンパンを急いで口に頬張り、教室へと戻った。
そして午後の授業が終わり、部活も終わったので、僕はまっすぐと帰宅した。
眠い目を擦りながら学校の課題を終わらせて寝る矢先──
「おはよぉ」
時刻は23時。
今日も弱々しい声で、姉が僕の部屋にやってきた。
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