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姉さんはニート

「おはよぉ」


 弱々しい声で、最上綾乃こと実姉が僕の部屋にやってきた。


「……23時は朝じゃないよ、姉さん」


 そんな姉に、僕はそう答える。

 そう、今は朝ではない。夜なのだ。


 外は真っ暗だし、僕の部屋のカーテンも閉め切っている。

 なので、今の状況では姉のおはようという挨拶はあまり相応しいものではなかった。

 そもそも、何故姉はこんな真夜中におはようと言ったのだろうか。


 休日でずっと寝ていたから?

 否、今日は月曜日だ。

 今から、夜勤のバイトがあるから?

 否、それも違う。

 正解は、姉がニートだからだ。


 僕の現在の年齢は17歳であり、現役高校生である。

 姉は僕より7つ上で、本来なら社会人として働いている年齢である。

 だが、姉は違った。


「ふああああああ」


 水色のパジャマ姿の姉は、目元を擦りながら大きなあくびをした。

 実の弟がこんなことを言うのもなんだが、姉は美人だ。

 だらけていなければだが。


 凛とした顔つきに、目もぱっちりしていて大きい。

 今は寝癖でボサボサだが、整えれば髪も艶のある綺麗で長い黒髪だ。

 胸も巨乳だ。巨乳だ。

 大事なことなので、二回言った。


 きっと社会に出れば、周りからモテること間違いなしだろう。

 事実、まだちゃんと学校に行っていた中学時代はかなりモテていたらしい。

 今はそんな影は全くなく、完全に自堕落な引きこもりの駄目人間だが。


「また昨日朝までゲームしてたの?」

「ま、まぁね!」

「姉さんさ、ゲームはほどほどにしないと。あと、昼夜逆転も健康に悪いから良くないよ」

「ニートの朝は遅いって誰かが言ってたよ」

「誰だよ、それ」


 そんなわけで姉は、夜になるとゲームを始める。

 そして、朝に寝る。

 そんな生活をもう何年も続けているわけだ。


「今、パケモンが熱いんだよ!」


 突然、聞いてもいないことを姉が語り出した。

 姉は時々、こういう時がある。

 パケモンというのはゲームのタイトルで、可愛いパケモン達を戦わせるターン制のバトルゲームである。

 そんなパケモンに姉はどっぷりとハマっていた。


「昨日ね、なんとランキング一位のクロウさんと当たったんだけど、そこでねまさかのお姉ちゃん勝っちゃったの! 今月こそは最終一位になっちゃうかも!」


 姉はあまりに高いテンションで語り続けた。

 パケモンには世界ランキングというものがあり、それは毎月更新される。

 僕の姉もアヤノという名前でプレーしており、毎月10位以内には入るかなりのトッププレイヤーらしい。


「あっ、せっかくだから開くんもお姉ちゃんと一緒にパケモンやらない? ソフトは2つあるし、対戦じゃなくても今イベントやってるからそこでレアアイテム集めるのもいいし」


 開は僕の名前だ。

 そんな僕に姉はゲームを勧めてきた。

 だが僕は学生であり、明日も学校だ。

 時間だって、かなり遅い。


「悪いけど、明日も朝早いから僕はもう寝る」

「そ、そうよね! じゃあ、明後日は?」

「テストが近くて勉強しなきゃいけないから無理」

「て、テスト勉強……開くん頭良いもんね」


 僕の返事に姉はとても落ち込んでいた。


「まぁ、休日は暇だし少しくらい付き合っても良いよ」

「か、開くぅぅぅぅぅぅん!」


 僕の言葉があまりに嬉しかったのか、姉はいきなり抱きついてきた。

 柔らかく、大きいものが僕の身体に当たった。

 それが何かは秘密だ。




 土曜日。

 時刻は23時。

 真夜中にカーテンも閉め切った姉の部屋で、僕らはゲームコントローラーを持ちながら小さいモニターを眺めていた。


 一通りイベントは終わらせて、結局僕達は対戦をすることになった。

 最初に言っておくが、僕はゲームは人並みにはするがあまり得意なほうではない。

 パケモンのランキングだって、姉に比べれば下の下のそのまた下だ。


 そんな僕が何故姉と戦うことになったのか。

 理由は単純。

 姉の強い押しに負けたからである。


「姉さん、ちょっとハンデがほしいんだけど」


 僕は姉に弱気な提案をする。

 だが、冷静に考えてみてほしい。


 僕はエンジョイ勢、相手はガチ勢どころか世界ランカーである。

 純粋な実力差は、野球初心者とメジャーリーガーくらいの差がある。

 普通に戦って勝てるはずがない。

 だが、そんな僕の提案に姉は優しく乗ってくれた。


「いーよ。じゃあ、開くんはパーティ全員レジェンドパケモン使いな」

「え、まじで!?」


 レジェンドパケモンというのは、パケモン界において最も能力値が高く、全パケモンの中のトップオブトップである。

 当然そんなキャラ達を使えばゲームバランスが崩れてしまうため、ネット対戦で使用するのは禁止されている。


 そんなキャラ達を姉は使っても良いと言った。

 しかも、一体ではない。パーティ全員だ。

 この力を使えば、たとえ相手が世界ランカーであろうとも負けないはずがない。


「僕は今、神にだって勝てる!」


 前言撤回。

 普通に負けた。

 戦っている最中、画面の向こう側では何が起きているのか分からなかった。


 確かに序盤は僕が優勢だった。

 だが、姉の巧みな読みに僕は徐々に押されていった。

 結果、僕は負けてしまったのだ。


「開くん強かったぁぁぁ! ありがとうね、戦ってくれて!」

「レジェンドパケモン使ったんだから、強いのは当たり前でしょ。てか、それに勝つ姉さんはどんだけ化け物なんだよ」

「開くんに褒められるなんて、なんか嬉しいな!」

「褒めてねーよ。このゲーム中毒者が!」

「うぅぅぅ」


 正直、勝てると思っていた。

 キャラの実力差を見ても、それは尚更だった。

 いくらゲームと言っても、あまりに悔しい。

 僕は負けず嫌いなんだ。


「姉さん、もう一回勝負だ!」

「え?」


 僕がリベンジマッチを頼むと、姉はきょとんとした表情をした。


「なに?」

「いや、だってまさか開くんが私にゲームを誘うなんて思わなかったから」

「あれだけキャラの実力差があったのに、負けて悔しいからな!」

「あはは、開くんってやっぱり私に似てるね」

「似てねーよ」


 いや、似てるかもしれない。

 姉も自分より低ランクの人に負けると、よく叫んで悔しがっている。

 それからも、二回、三回と姉に勝負を挑んだ。

 結果は惨敗。


「くそぉ! 次こそは姉さんを倒す!」


 ゲームは意外にも盛り上がった。

 だが、それから何度戦っても結果は変わらずじまいだった。

 そこから僕は一ヶ月かけて、とにかくパケモンの研究をした。

 そして、ようやく姉を倒したのだ。


「よっしゃあああ!」

「私がまけ……た……?」


 姉はかなり悔しがっていた。


「開くん凄い! まさか本当に私に勝っちゃうなんて!」


 いや、喜んでいた。

 抱きつかれた。


 それから、僕は姉と同じくパケモンにハマってしまった。

 そして気づけば僕自身も世界ランカーになっていたのだが、それはまた別のお話で。

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