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96話 鮮血の双眸




「この辺ぽいんやけどなぁ」


 上空で欠片の反応方向が一瞬で変わり、通り過ぎた事を察知できたので少し戻って地上に降り立ったはいいものの、そこは所々に芝草のような雑草が生えるだけの荒地だった。


「何も見当たりませんね…アレク、この辺りで間違いはないのですか?」


 再び執事姿になったフィルが、周囲を見回しながら訝し気に問う。

 アレク自身も猫の擬態を解いて、2対の翼で中空を飛びながらキョロキョロとしているが、その表情は心なしか不安げだ。


「同じ所をぐるぐる回っているように感じるのだが」

「そうね、まるで狐につままれたみたいだわ」


 セラもエリィも足を止め、見まして辺りを窺うが、見えるモノは満天の星空と煌々と明るい月達、そして少しばかり荒涼として見える地面のみ。

 気配も自分たち以外に動物も魔物もおらず、春先の深夜の冷えた風が頬を撫でるばかりだ。

 エリィは足を止めた場所に留まったまま、下唇に指の背を押し当てて考え込む。


「うぅん……私もやっぱり同じ場所をぐるぐる回ってる気がするのよね。だからちょっと進む方向を変えてみない?」

「変えるって、どう変えるんや?」

「今はどっちの方向に反応を感じてるの?」

「今は…こっち、南っちゅうたらええんかな」


 アレクがふよふよと中空を飛びながら、右の耳手で南の方向を指さす。


「じゃあ……そうね、まずは東方向へ行ってみよっか…ぁ、その前にここに目印置いておくわ」


 そう言ってエリィは収納を眺めること暫し……これと言ったものが見つからなかったのか、溜息交じりに肉串様に集めていた30㎝程の枝を地面に突き刺し、倒れないように設置部分を更に土で固めた。

 それを見届け全員が頷きあうと、90度方向を変えて東向きに足を進める。


 暫くまっすぐ進むが、何の変化もない。

 空は相変わらず美しいし、地面は荒涼としたままだ。気配も変わらず自分達だけで、どうやらこの方向ではないと結論付ける。

 元来た道を戻る様に進んでいくと、先だって地面に突き刺した枝が見えてきた。

 一旦枝の場所で足を止める。


「じゃあ今度はこのまま真っすぐ。西の方向ね」


 エリィが歩きはじめると、フィルが慌ててエリィのすぐ傍に位置取り歩く。その右手はずっとエリィから貸してもらった短剣……今はフィルの体格に合わせて変化しているので長剣と言って差し支えないが、それの柄に添えられている。

 フィルだけでなく全員が警戒しながらの進行だが、突然見覚えのある光が足元から浮かび上がった。


 初めての転移紋ではないため、全員が抜刀するなり臨戦態勢で転移したのだが、フォリが抜刀していた事には驚きしかない。

 ふわっふわな羽毛と円らな瞳、そして可愛すぎる仕草で周囲を悶えさせていた姿とは程遠い。


 転移先の様子をざっと窺う。

 ほの暗い闇の先、暗順応を待てば酷い既視感に襲われる。


 耳が痛くなるほどの静寂の中、まっすぐ伸びる白煉瓦の廊下。その壁際にずらりと並ぶ素材を同じくする白い円柱の柱と、青白く冷たい光を湛えるランプ。

 結界を超えた記憶はないが、もしかするとあの狐につままれたような感覚、あれ自体が結界と言うか何らかの陣とでも言うべきものだったのかもしれない。


「進もうっか、ここで立ち止まってても進展しないし」


 エリィは言うが早いか、すでに一歩を踏み出していた。

 一つ目の欠片が安置されていた場所同様、随分と歩かされるようだ。後ろを振り返っても、廊下の奥は既に闇の中で見えない。


 ―――カツン、コツ、コツ

      コツ、カツン、

          カツン、コツ、コツ、カツン………


 立ち止まることなく進み続けると、廊下の終点に辿り着いたようだ。遠目にも何かの魔紋なり陣なりが敷かれているのが、ぼんやりとした輝きからわかる。

 ここの――恐らく転移紋だろうが、魔紋の影響範囲に踏み込むまで見えないと言う、サプライズ方式ではない様だ。


 警戒を怠ることなく、だけど躊躇いなく足を魔紋に乗せると、やはり転移したようだ。もっとも眼前の光景に何の変化もない。

 廊下を進んで転移、廊下を進んで転移……さらに続くかと思った廊下はここで終わりのようだった。

 一つ目の安置場所より移動は短く済んだかもしれない。


 白い小部屋の奥にある転移紋を踏めば、前回同様、白ないし薄い色合いの布がかけられた祭壇のような台座が一つ。


 エリィとアレクが互いに顔を見合わせた後、同時にゆっくりとだが祭壇へと近づいたその時、フィルがハッとしたように視線を彷徨わせながら顔を上げた。


「どなたか部屋にいらっしゃったようです」


 静かすぎる部屋に響くフィルの涼やかな声は、若干の緊張をはらんでいたが、ここまできて欠片を回収せずに帰るなんて御免被りたい。

 エリィとアレクは一瞬空気を切る勢いでフィルの方を振り返ったが、すぐに祭壇の方へと身体ごと向き直り、勢いのままかけられた布を引っぺがした。


 緻密なレリーフが施された祭壇の上には、一つ目と同じく整形されていない…叩き割ったかのような、まさに欠片が二つと、やはり見た事のある大きな丸い宝石が3つ―――あの大きな狼の魔物が残した魔石と似ている。

 欠片の方は一つ目より大きさはともかく、数が多かった。

 透明度がとても高い紫色と青色の、宝石としか言いようがない欠片が大小合わせれば前回の倍以上の総量になりそうだ。

 魔石に似た丸い宝石も回収していった方がいいのだろうかと、少し悩んだものの、手を伸ばして収納へと回収する


 それらが徐々に柔らかな輝きを纏い、エリィとアレク、二人に吸い込まれると同時に、部屋の密度が上がった気がした。


 すぐさま全員が臨戦態勢を取る。


 足音も何もしない静かすぎる空間に、呼吸音だけが妙に大きく聞こえる。

 欠片を吸収したことでアレクはともかく、エリィは動きが制限されてしまったこともあって、無駄に緊張してしまう。

 今のエリィは調屯地で見繕った衣服なので、可変魔法がかかっていない。

 身体が無事成長(?)できた事は喜ばしいが、現状喜んでいる暇はないどころか、確実に足枷になるだろう。

 急いで収納から紫のローブを取り出し、今身に着けている物はナイフで裂いていく。

 靴も足が痛むばかりで使い物にならないので、脱いでしまう。


 まだ姿を現さない敵は、焦るその様子を嘲笑しながら見ているとでも言うのだろうか、圧し掛かるような空気の密度は変わらない。


 とりあえずローブに着替えた事で動きは制限されなくなったが、気持ちは逸るばかりだ。


 じりじりとしたその空気がググゥ…という微かな唸り声で破られる。


 全員の顔が跳ねるように祭壇奥へと向けられた。


 そこに見えたものは鮮血のような真っ赤な双眸。

 それがゆっくりと眇められていく。




ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、誤字脱字の多さ他等、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定も手の平クル~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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