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93話 夜間飛行の途中




 そう言えばフィルは人間種にも擬態できると言っていた。

 であるならば、彼が扱いやすい武具は準備しておいた方が良いだろうが、如何せん今はもう夕刻。それ以前に外出不可の身だ。


 どうしたものかと考え込んでいると、ふと思いつく。

 エリィが何時も使っている短剣は、使用者によってその大きさを変える事の出来る可変魔法付きだ。ならばいつもの短剣をフィルに渡して、自分は今朝方カップと一緒に購入した小ぶりなナイフでも良いのではないだろうか。

 後程改めてフィル用は整えるとして、今は急場凌でしかないがそれでどうだろうかと提案してみる。


「なんと! エリィ様愛用の一振りをお貸し頂けるのですか!?」


 何がそんなに嬉しいのかよくわからないが、フィルが喜んでいるならそれで良いとしよう。

 収納から短剣とナイフを取り出し、短剣はフィルに渡し、ナイフはすぐ取り出せるよう、刀身部分は収納に収めつつも柄部分は自身の懐にセットしておく。


 ささっと夕食を厨房へ貰いに行き、部屋で食べた後食器を再び厨房へ返せば準備は完了だ。

 部屋の鍵と内側からかけ、フィルに転移してもらう。もちろん結界も張ってもらっているので、何かあればすぐ気づくことが出来るだろう。


 転移した先は林のような場所。少し行けば草原で、吹き渡る風が遮られることなくエリィ達にも届く。日はすっかり落ちて冷えた空気と風が心地良い。


「アレク、それで欠片のある方向は?」

「ここからやったら南東方向やな」


 了解と呟き、身を伏せて待っていてくれたセラにエリィとアレクが乗れば夜間飛行に出発だ。フィルは現地に着くまではアルメナの姿のまま一緒に飛んで移動するようで、セラが背に乗る二人に気を遣いながら飛び上がるその横で、時折旋回したりしながのんびりと待っている。

 周囲を探り何もいない事を確認すると、一気に上昇しそのまま南東を目指す。


 顔半分を仮面もとい包帯で覆われているエリィはともかく、向かい風をもろに受けるアレクはぎゅっと両目を閉じてエリィにしがみついている。

 しがみつかれている方のエリィも、セラの背中に伏せるようにしてしがみついているが、フードは当然風のあおりを受けて落ちているので頭部が露出しており、月明りに銀色の輝きが包帯の隙間にも覗いていた。


 地表から気づかれる事の無いよう、かなり上空を飛行しているので月と星以外何も見えない。

 セラの飛行速度がかなり速い為、どのみち周囲を見る余裕もないのだが、それでもふと見上げれば3つの色味が異なる月と、満点の星々は例えようもなく美しかった。


(吸い込まれそう)


 そんな感想を心の内で零しながらも、徐々に強風と気温のせいで馬割れていく体温に意識が遠のきそうになる。

 装備に温度調整の魔具が欲しいと切実に思った。


【主殿、大丈夫であろうか?】

【……辛うじて…ね】


 こんな強風の中で声をあげても届かないだろうが、念話なら遮られる心配もない。

 とは言え、エリィからの返事は酷く弱々しい。


【アレク、方向はあってますか? まだ先なようなら一度地上に降りてエリィ様を休ませたいのですが】

【ごめんやで、方向はわかるんやけど、距離までははっきり感知でけへんのや。エリィの身体も冷え切っとるさかい、一回降りよか】

【えぇ、そうしてください。セラもお願いできますか?】

【承知した】


 何もいない事を確認した場所に全員降り立つと、フィルが姿を変えて駆け寄ってきた。

 サラサラの黒髪に冴えた薄緑の瞳、すっきりとした面立ちの美青年が、何故かロングテールコートな執事服に身を包んでいる。


 セラの背中の上で少々ぐったりとしているエリィに、白い手袋をした手を伸ばして抱える。


「アレク、火の用意はできますか?」

「ぅぇ!? 僕かいな、魔法得意やあらへんのやけど、やってみるわ」

「セラはそこに横になってエリィ様を暖めて下さいね」

「わ、わかった」


 てきぱきと指示を飛ばすフィルに、アレクもセラも思考が追い付かないのか、ぎこちなく従う。


「エリィ様、お疲れとは思いますが、お持ちの調理器具などございましたら、お出し頂いても宜しゅうございますか?」

「……ぁ~、ぅん」


 セラに埋もれながらも、フィルの声は耳に届いたようで、もぞもぞと収納を漁り、水無限湧きの鍋等の調理器具とコップやカトラリー類をフィルに渡した。

 そうこうしているうちにアレクも火熾しに成功していたようで、暗闇がほんのりと赤く色づいていた。


 湯を沸かし、程よく温度が下がった所でコップに白湯を入れてエリィに手渡す。

 セラに埋もれているおかげか、悪かった顔色も少し血の気を戻しており、全員がほっと胸を撫で下ろした。


 火が爆ぜる音を聞きながら、ちらちらとアレクがフィルを窺う。

 甲斐甲斐しくエリィの世話をしているフィルも、視線があからさまなので当然気が付いているだろうが、特に反応する事もなかったのだが、アレクの方が先に焦れた。


「……なぁ…フィルさんや、ちょっと聞いてもええやろか」

「はい? 何です?」

「…………なんで執事なん?」


 セラは執事と言う物に聞き覚えはないが、見慣れない衣装にはやはり首を傾げていたようで、アレクの問いに何度も頷いている。


「主人のお世話する者は執事というと聞き及んでおります。

 またこの衣装のデザインもエル様御直々のものにございますので、不具合はないと思うのですが?」

「ぁ……ぁあ、ぅん、ようわかった」

「???」


 何故かアレクは納得したようだが、セラにはさっぱりわからない。その様子に気づいたアレクが説明してくれる。


「えっとな『エル様』って、エルフレイアっていう、ほら最初おうた小屋あったやん? あそこに住んどった奴なんやけど。それで正解やろ?」


 最後はフィルへの問いかけだ。それに肯定の頷きが返される。


「そいつが凝り性っちゅうか、オタクっちゅうか……その、なんや…エリィの前世の世界の奴やねん」


 セラが初出の情報に、少々目を見開いている。


「エリィに前世の記憶があって、前々世はこっちの世界で『エリスフェラード様』って呼ばれてたっちゅうんは何度か聞き覚えあるやろ?」

「それは、あぁ、ちゃんと覚えているぞ」

「で、エリスフェラード様が居った時に世界の境界でちょっと事故があったみたいなんや。本来世界と世界の間には狭間もあって、接することはあらへんのやけど、たまたま日本っていう所との境界がくっついてしもたらしいんや、それだけやのうて穴まで開いてしもたらしく、そこに落っこちてこっちの世界に来たんがエルフレイアなんや。

 せやからエルフレイアっていうんが本名やない。本名は《江留玲亜えどめ れいあ》って言うんやけど、そいつを保護したんがエリスフェラード様やったんや。

 そいつはいっつもエリスフェラード様の傍にくっついとってな、あれ見たやろ? なんや豪勢なデザインの杖とか服とか、あれ、エルがエリス様に着て欲しいって自分の煩悩全開で作りよった奴やねん。

 で、まぁ……いっつもエリスフェラード様と一緒に居ったもんやから、僕らとも顔見知りになってね………って、あれ? もしかして僕とフィルって、顔見知りやった?」


 フッと口元に綺麗な弧を描かせたフィルが頷く。


「えぇ、しっかりがっつり顔見知りでございますよ。ですがアレクも記憶を失っている様子なのは察しておりましたので」

「せやったんか、それはすまん事したなぁ」

「いえ、最初森でお見掛けした時、エリィ様もアレクも、気配が記憶にある物より薄かったり違ったりしたので、結局あの宿まで様子を見ながら、ついて行く事になりましたがね」

「さよか。まぁ顔見知りやったんやったら、また情報の擦り合わせとかさせてや。セラやほかの皆かてもう僕らの身内やし、そっちとも情報共有はしたいしな」

「そうですね。ただ一つお聞きしても?」


 フィルが何を聞きたいのかよくわからず、アレクはコテンと首を傾ける。


「記憶を失った理由に心当たりはあるのです?」




ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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