90話 更なる厄介事の予感
フィルを除く全員の視線がクリスタルな天上イモムシに集まる。
その視線から察したとでも言うのだろうか、キラキラとした輝きを振りまきながら、そのイモムシは伸びあがって大きく身体を縦に振った。
「ぁ~、うん、その行動は肯定ととっていいのかしら……?」
「恐らくは問題ないかと!」
返ってきた言葉はフィルが発したもので、先ほどまでと違い断定していないのが気にかかる。
「フィルは言葉が通じてたんじゃないの?」
「残念ながら100%の意思疎通は難しうございます、しかし! エリィ様の御前に参ずることが出来ましたなら、名を賜りたいと願うのは至極当然の事なのです!」
『これはダメな奴だ』と察したエリィは、クリスタルなイモムシ君に身体ごと向き直り改めて問いかけてみた。
「せめてこちらからの言葉は通じてると良いんだけど……えっと、元居た場所に戻りたい?」
半身を持ち上げてじっとしていたイモムシ君が、きょとんと首を傾げるような仕草の後、ふるふると首を横に振った。
「これって『いいえ』の意に捉えていいと思う?」
「エリィ様がそ、むぐっ!! んんん~~~」
嬉々として話し始めたフィルの嘴を、エリィはしっかりと両手で挟んで口を開けないようにしてから、他の全員に訊ねてみる。
「せやなぁ……断言でけへんのが難儀やけど、たぶん?」
「恐らくだが、俺もアレク殿の言に同意する」
【ムゥはよくわかんないのよ? だけど家族が増えるのは嬉しいのよぉ!】
わからない事を悩んでも仕方ないと、小さく息を吐いて、再びクリスタルなイモムシ君に顔を向ける。
「じゃあ名前つけていいかしら?」
今度は縦に大きく頭を動かすイモムシ君。
「んん~……まぁ、私の能力に強制力はないって事だったし、とりあえず付けるだけ付けてみるか。嫌なら彼か彼女か知らないけど、拒否るだろうし」
エリィはそう呟くと顎先に右手の指をあてて考え込む。
「んじゃルプス。どこかの言葉でイモムシって単語で、何の捻りもないけど。
どう?
前世の言葉の意味なんて、こっちで問題にならないだろうけど、嫌かな?」
エリィが覗き込むようにイモムシ君に顔を近づけると同時に、その身体が淡い輝きを放った。
当の本人ならぬ本虫は嬉しそうにキュルキュルと声をあげて、上半身を揺らしている。
その様子を見てとりあえず一件落着とし、フィルの嘴から手を離した。
そんなに強い力で押さえたわけでもないのだが、フィルは涙目になって嘴を両翼で擦っている。
「エリィ様、あんまりでございます~~~」
「えっと、ごめん……」
謝ってはみるが、未だにしくしくと大げさに泣いて見せる(涙が溢れているわけではない)フィルに、拗ねてしまったのかもしれないと考え、がっくりと両肩を落としてから提案する。
「それじゃ魔力交感しときましょっか。そうすればルプスも話せるかもしれないし」
現金なもので、途端にフィルの機嫌が良くなった。
「おお、その言葉をお待ちしておりました!!」
拗ねるそぶりもシマエナガだし可愛いのだけど、少し可愛そうなのでまずはフィルから魔力交感し、その後ルプスと決めて実行した。
結果見事にエリィは撃沈したが、予想通りと言うか、ルプスの声が聞こえるようになった。
だが現実は非情で無情で残酷なもの。
何とルプスは元々念話持ちだったというのだ。つまり魔力交感無しでも念話できたのだが、フィルを始めとしてエリィ達が出来るかどうかわからなかったので控えていたと……そう聞いた時には、更にごっそりと脱力してしまった。
とは言え、いつまでも脱力しているわけにもいかない。
全員の自己紹介も終わった所で、気を取り直してルプスに訊ねる。
「ルプスはどうする? セラでさえ騒動の種になるみたいだし、ルプスの姿だと大騒ぎになるのは目に見えてると思うのよね。普段は背負い袋か内ポケットにでも入っとく?」
エリィはこの世界に降り立ってまだ日が浅いのでわからない事は多いが、それでもフィルが叫んでいたし、ルプスは珍しいという認識で間違っていないと思う。
【私ですか? 私はここに残ったほうが主君のお役に立てそうです】
「ここにって……異空地に残るの?」
「確かにここやったら誰も来ぇへんし、安全っちゃぁ安全やけどな」
「だが退屈ではないか?」
【ええええ~~!? ルプスさんも一緒が良いのよ!?】
「天上イモムシは確かに伝説級ではあります。何分ワタクシも見るのは初めてでしたし……ですがエリィ様の手にも載るほどの小ささですから、隠す事は決して難しくないと思われるのですが?」
やっぱり伝説級なんだと思えば、安全な場所に居たいと思うのは自然な事なのかもしれない。だが自分達が外界にでれば、ここに残るのはルプス一人。
初めて訪れた時と違い、なんにもない空間ではないとはいえ、植物以外は自分だけという場所は、あまりに寂しいのではないだろうか…。
ルプス以外がやはり腑に落ちないと言いたげな表情を向けた。
【同行したくないと言ってるのではないのです。ただこの地の発展の為にも私はここに残りたいと思います】
「「「「「………」」」」」
頑ななルプスの様子に、少々居心地の悪い沈黙が流れるが、何かに気づいたのか、彼が小さな頭を弾かれたように上げる。
【ま…まさかこの地の世話は、必要ないと思ってます?】
「あぁ、『ここの発展』ってそういう意味だったのね。それについてはフィルが抜かりないとか何とか言ってなかったかしら?」
全員の顔がフィルに向けられると、思い出したのか両翼をポンと打ち合わせた。
「そうでございました! すっかり意識の外へと飛ばしてしまっておりました。
確かにここの世話を精霊に頼んでございます。ただその精霊に来てもらうには救出せねばなりませんが」
「救出ってどういう事!? そんな話、初めて聞くのだけど!?」
「はい、言っておりませんでしたね!」
てへっと『失敗しちゃったなぁ』って感じの顔をするのまで一々可愛いのには、本当に困るが、問題点はそこではない。
詳しく説明するように全員でフィルに圧力をかける。
その圧におずおずとフィルが話し出したのだが…。
「つまり魔の森奥で精霊が瘴気に囚われて動けない……で、それを救出して欲しいと、その精霊の友達精霊の妹精霊がお願いしてきている訳ね…」
「はい! 彼らは穏やかで勤勉な性質でございますから、ここの世話係にうってつけかと!」
――それって救出が終わらないと、ここには来てくれないってことなんでないの!?
次から次へと降りかかる厄介事に『いい加減にしてくれ!!』と、心の内で静かに叫んだエリィは決して悪くないはずだ。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)