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9話 仮名はノリと勢い



 小さな羽は艶のある灰色で、羽先に向けて濃くなる藍色のグラデーションがとても美しいのに、、所々に乾いた血の跡がどす黒く飛び散る様が顛末を物語っているようで息苦しくなる。

 その羽に気づいたグリフォンが慄くように身体を震わせた。

 重苦しい沈黙の中暫く凝視していたが、ゆっくりと首が項垂れ落ちる。


 エリィもアレクもかける言葉が見つからないまま、彼の足元の床を音もなく濃く染める雫を無言で見ていた。





 室内は照明のおかげで明るかったため気づかなかったが、いつの間にかしとしとと雨の音が静けさの中聞こえる。

 エリィは手にある小さな羽をどうしたものかと途方に暮れていた。せめても、と血の跡を浄化魔法で消してはみたものの、目の前のグリフォンにとって辛いだけの品になることは間違いないだろう。とはいえエリィが持っているというのもおかしな話なので、意を決して声をかけようと顔を上げれば、グリフォンはもう項垂れてはおらず、姿勢を正してエリィを見つめていた。


「えっと…」

「貴殿らにお願いしたいことがあるのだが、良いだろうか?」


 心情を想えばこちらの心臓が痛くなるほど落ちつた声と表情に、どちらからともなく顔を見合わせ困惑を浮かべる。


「お願いと言われても…」

{まさかと思うけど、いっそ殺してくれとか言われたらどうしたらいいのよ}

{いや、流石にそんな無茶いわへんやろ。っていうか、逃げよ。雨降ってるけどとんずらしたらきっと追ってきたりせえへんて}


 エリィとアレクがいたたまれない空気の中、ひそひそと相談しているとグリフォンが静かにその身を伏せた。


「どうやら御二人は旅に出るところだと思われるのだが、俺も同行させてはもらえぬだろうか?」


 思いがけない言葉に一瞬言葉をなくしたが、先に立ち直ったアレクが問いかける。



「待って待って、グリフォンって群れで行動してるんやなかったか? どない見てもあんたさんは強そうや…ちゅうか、あの惨状の中で生きとったんやから間違いなく強いはずや。となれば群れの幹部とかそないな立場ちゃうん?」

「そうだな、群れの長であった…だな」


 その後に続くであろう言葉は雨音に消えた。


「エリィ、どないする?」


 困り切った様子でアレクが隣に座っているエリィを見上げた。

 う~んとたっぷり悩んでから、アレクに顔を向ける。


「アレクはどう? 絶対に反対?」

「なんで僕に振るんや、質問に質問てあんまりやで。あんまりやけど、せやなぁ…今は友好的にしてくれてはるけど、魔物やもん、いつ豹変するかわからんし、僕は反対や」

「そっか、まぁそうなるわよね、ところで名前なんていうの? 呼び方わからなくて話しづらいんだけど」


 アレクに返答していたのに、途中からグリフォンの方への言葉に変わる。


「名前、俺の?」

「そう、私はエリィって呼ばれてる、こっちの猫もどきはアレク、で、君は?」


 猫もどきという単語に目を吊り上げて抗議するアレクを無視して自分とアレクを指さして名乗ったあと、グリフォンへ向けて指でつつく仕草をする。


「俺に名はない、好きに呼んでもらって構わない」

「名前がないとはこれ如何に? 群れってるんだよね? 『おい』とか呼びかけるだけ? それとも認識番号制?」

「いや、僕はしらへんよ、グリフォンっちゅうか、魔物の知り合いなんかおらへんもん」


 名前がないと聞いて疑問符が飛び交うが、目の前にいるグリフォンは返答する気がないようで、伏せたまま静かにしている。


「ん~、話が進まないし、とりあえず『仮』の呼び名決めちゃうか、よし、『セラフィム』だ、決定」

「えぇ……、そないにパパっといい加減に決めてええんかいな」

「カッコよくない? 理由はなきにしもあらずだけど、ただの呼び名で仮名よ? 今区別するための記号みたいなものなんだからノリと勢いでいいのよ。深く考えたら良いってものでもないんだし」


 言い合っているエリィとアレクの前で伏せているグリフォンこと『セラフィム』の身体が、一瞬ふわりと輝きを放った。




「「「!」」」


  


 驚きに思わず膝立ちになったエリィとアレク、その正面で伏せから上体を起こし自分の身体や周りを見回しているセラフィム。三者三様ではあるが、驚愕していることは誰もが同じだ。


「アレク、今の何?」

「だから何で僕なん!? と、とりあえず、グリフォ…やない、せらふぃむさん? 大丈夫なんやろか、何ぞかわったところはあらへんか?」

「特筆すべきことはなさそうに感じるな、まったく問題ない」


 言いつつも3人は同じように首を傾げるが、『あっ』と小さくエリィが声を漏らしたかと思うと、じっとセラフィムを見つめてから透明パネルを呼び出した。

 眼前に浮かぶ透明パネルに表示されているのは馴染み深い日本語で、どうやら鑑定したようだ。

 エリィ以外が読めるのかはわからないが、アレクが左隣で、正面に居たセラフィムものそのそと近づきエリィの右隣からパネルを覗き込んだ。


ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。




至らぬ点ばかりのお目汚しで申し訳ない限りですが、いつかは皆様の暇つぶしくらいになれればいいなと思っております!




リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。




そしてブックマークありがとうございます!


最初目にしたとき、信じられず2度見ならぬ3度見してしまいました。


次に訪れたのは気恥ずかしさ、それから気恥ずかしさを上回る嬉しさでした(涙出そうでしたw)。


どうぞこれからも宜しくお願いいたします<m(__)m>

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