表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/235

87話 異空地に入って

時折ムゥが同じ言葉を繰り返したり、同じ音を無駄に重ねたりしているのは誤入力ではなく、ムゥの話し方だと思ってやってくださいませ<(_ _)>




「まずは異空地へ行ってみましょう。

 特に何も難しい事はございません。エリィ様がふわっと異空地に行きたいな~とでも考えるだけで移動できますれば、何の心配もございません」

「ふわっと…ねぇ」


 フィルはそういうが、転移魔法は未だ解禁されずの身としては、懐疑的にならざるを得ない。


(まぁいっか、考えるだけと言うならやってみるかしらね。失敗したとしても何の問題もないのだし。

 えっと『異空地』に……)


 『行きたい』と心の声を出すより早く、周囲が一変した。


 さっきまで居たのは宿の一室だったはずなのに、音もなく切り替わった視界に広がるのは、地面と青い空。

 ベッドに腰かけたまま考えたせいか、地面にお尻を強かに打ち付ける事になってしまったが、その痛みを凌駕する光景の変化に思考が追い付かない。


 三角座りのままやや後ろについた両手に触れる乾いた地面の感触。澄んだ青空には雲一つなく風もない。気温は寒くもなく暑くもない適温だが、何故か浮かんだのは『死んではいないが生きてもいない空間』という文言。


 徐に立ち上がって両手に付いた土を払い、改めて周囲を見回すとソレに気づいた。


 何の音もしないのだ。

 気配がないとか言う以前の話で、自分さえも消えてしまったんじゃないかと錯覚するほどの静寂。

 空気も澱んでいるのか、心なしか何とも生臭く感じてしまう。


 考えればそれも道理かと思い至った。

 元は誰でも入り込める場所にしていたらしいのに、そこをフィル達は何故か一切を遮断して封じていたのだ。

 言うなればここは閉じられた空間で、時間も何もかもが止まっていても不思議ではない。


 とりあえずフィルの言った通り、エリィはここに入ることが出来た。ならば次にするべきは出入り条件の変更だろう。


(設定変更の方法なんて聞いてないんだけど、どうしたものかしらね……ぅぅん…考え込んでもわからないものはわからないし、出来る事をしていくとしますかね。

 入ってきた方法と同じく、まずは『考えてみる』としますか。設定変更で…)


 エリィが考え切るより早く、目の前に見慣れた透明パネルが浮かび上がった。

 見ればいつもの画面と変わらず、検索の虫眼鏡マークや歯車マークにクエスチョンマークも完備されている。


(ふむふむ…私の思考と連動しているのね、なるほど。このパネルで設定もできるし、考えるだけでも設定可能と…あれ、鍵マークがある……これってまだ手出しできない項目って事かしら…つまり私自身の制限が開放されて行かないといけないって事ね。結局は欠片を探せって所に行きつくかぁ、まぁ仕方ない)

 

 無事出入り制限の変更も終えてから、地面と青空以外何もない空間をぼんやりと眺めていると、ふと思い至った。


(そうよ、ここはある意味私と私が許可したモノしか出入りできない場所。誰にも邪魔される安全に過ごせる場所なのだから、避難場所としては優秀じゃないかしら……まぁ今の所入った場所にしか出る事は出来ないっぽいけど、十分な性能だわ。

 地面もあるし全てが私の管理下に置けるのならば、果樹を植えたり、畑作ったりしても良いのかも、そうなると蜜蜂とかも探さないと? 育てたい植物の繁殖方法なんかも調べないといけないわね。

 何なのよ、もう…すっごく有用な場所じゃないの)


 つらつらと考えながら歩いていると、トンと身体ごと何かにぶつかってしまった。

 何もない空間だと思っていたのに、そうではなかったとは…視線を落としたまま歩くんじゃなかったと顔を上げたが、目の前に広がる空間は地面と青空のままだ。


 眼前の空間を指でつついてみる。


 フォンと微かだが柔らかな音と共に、つついた場所がふわりと光った。

 あちこちつついてみるが、どこも同じ反応で、そこから先には進めなくなってしまった。


(今開放できる場所はここまでって事かしらね。はぁ、ここでも欠片制限って事かぁ。で、この奥って……あら、何かある? 丸い何か……小さくしか見えてないし、距離感がさっぱり掴めないから、何もわからないけれど。

 この先に進める様になれば、あそこにも行けるかしら。ただ、何とも言えない微妙な印象のオブジェクトだわね。行けるようになってもあまり近寄らないほうが良いのかも)


 そこまで考えて、歩いてきた方向へと足を戻して進み始める。

 どのみち障壁の先には進めないのだから、ここで立ち止まっていても仕方ない。他の方向を見て回ったほうが有意義だろう。


 結果全ての方向に障壁があり、今動ける範囲もかなり広いが、障壁の先もかなり広そうだという事がわかった。


 何気なしに足を止めて、ふと思いついたことを実行してみる。


【おーい】


 この異空地から念話が届くのか、試してみようと思ったのだ。


【お、無事入れたんやな】

【主様ぁ、どこ行っちゃったのよぉ? パって消えてムゥ、ビックリのよぉ】

【そちらは問題ないか?】

【おぉ、エリィ様、如何でございますか? まだ入られたばかりなので、見て回れてはいないとは思いますが、何か残っていましたでしょうか?】


 無事届くことを確認できたが、フィルとも念話が出来る事に少し驚いた。

 そう言えば念話はスキルがあれば使えるんだったと、一人完結するが、フィルの後半の言葉に引っかかる。


【待って、入ったばかりって……そっちではどのくらい時間経過してるの?】

【こちらでございますか? 本当にすぐでございますよ?】


 歩き回れる場所に制限はあると言っても、実の所かなり広く、結構時間を要したはずだから『すぐ』だなんてあり得ない。

 エリィは再び操作パネルを呼び出した。

 暫く睨めっこ状態が続いたが、やっとその時間経過に関する項目を見つけた。

 外界の時間経過を内部と連動に設定し直して、再び念話を送る。


【時間も設定できたから、もう大丈夫そう。それでアレク、セラ、ムゥ、フィルはこっちに入れるように設定してみたんだけど、一応確認したいから入ってみてくれる?】


 エリィの要請に従い全員が異空地へと入り、無事出入りできることも確認できた所で、宿の一室の方へ移動する。


「それにしてもあそこまで何もなくなっているとは思ってもございませんでした……ですが…」


 フィルの言葉の最後の方は呟きになり、エリィ達には聞き取れなかった。


「フィル?」

「ぁ、何でもございません」


 何だか誤魔化された気はするが、極上のふわふわによる極上の愛らしさの前には、誤魔化されてやっても良いかと言う気になる。


「とりあえず果樹などは欲しい所ですので、早速見繕ってまいりましょう」


 そういう言いながらフィルは、並ぶ顔ぶれをじぃっと流し見つめ、ムゥを見た途端にパァッと表情を輝かせた。


「なんと! ムゥ様は時空捕食をお持ちの様子! ならば収納も可能でございましょう! 容量と時間は……素晴らしい!! 容量は無限で時間経過はムゥ様の任意でございますか!! これならば問題ございません!!」


 フィルは鑑定を持っているようだ。


【ふぇぇ? ムゥ…サ、マ? えっとね、ムゥはムゥなのよぉ? ムゥサマなんて名前じゃないないのよぉ】

「失礼しました。ではムゥ、我らが採集に参りますよ。さぁ、ワタクシめの背に乗るのです!」

【ぅにゅう? ムゥどうしたらいいのよ?】


 ムゥが困ったようにエリィの方を見てくるので、軽く撫でてやりながら顔だけはフィルに向けて訊ねると、異空地に何も残っていなかったので、果樹や薬草などを植えておくと後々助けになるだろうと考え、それらを採集に行きたかったとの事だ。

 確かにあの場所に食べ物や素材があれば、便利なことこの上ない。

 そしてフィルは鑑定持ちらしく、ムゥが時空捕食を持っていると気付き、それならば自分とムゥがいれば、植物であれば色々と採集してくることが可能と判断したようだ。

 そういう事ならムゥにお願いするしかないだろう。


「ムゥ、フィルと一緒にお外で色々と探してきてもらっても良い? さっきの何にもない場所に色々植えてみたい。

 でもムゥが嫌なら行かなくていいからね?」

【嫌じゃないのよ? えっとね、えっとね、ちょびっとだけ怖いかもって思っただけなのよ?】

「そっか、怖いなら我慢しなくて良いから、さっきのお話はなしね」


 エリィからしてみれば、確かにあれば便利だけど、無いなら無いなりに動けば良いだけの事なので、あっさりと頷いたのだが、ムゥの方が何故かショックを受けたような表情になっている。もし擬音語が見えるなら、ムゥの後ろには大きく『ガーーーーン』と見えた事だろう。


【ムゥ頑張るるの! ムゥ行ってくるの!!】


 言うが早いか、ムゥはフィルの背中にするするとよじ登り、腕のように触手を1本伸ばして、エリィ達にバイバイと手を振りながら。


【行ってきますなの!】


 フィルもしっかりと捕まっててくださいねと言うと、室内から二人の姿が掻き消えた。


 ―――フィルは転移も使えるようだ。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ