79話 セラの葛藤と納品用ポーション作り
【【………】】
ざっくりと話したところで、セラは難しい顔をしている。
ムゥは全員をきょろきょろと見回していて、エリィはそれに気づくと、ちょっと困ったような笑みを口元に刻んだ。
【……主殿…俺の存在が迷わ【はい、そこまでね】】
最後まで言わせないとばかりにセラの言葉に、言葉をかぶせたエリィは、やれやれと肩を竦めた。
【あのねぇ、こっちが小さくなる事なんてないと思うのよね、私】
【だが…】
【ええやん、エリィが強なったらええこっちゃがな。したらコソコソせんでようなんで。はよ欠片探しの旅に戻らんとな】
【アレクもね】
【僕は枯れ木も山の賑わい言うやっちゃで?】
軽い口調のアレクに、エリィはムゥをムニムニと揉みながら、苦笑を浮かべてみせる。
【まぁ面倒事には極力関わりたくはないし、目立ちたくもないけれど、だからって他人に振り回されるなんてゴメンだわ】
エリィはそこで言葉を一度切ると、ベッドのムゥを置いてから降りて、セラの正面に立った。
【最初に言ったように私とアレクの旅は、物見遊山なんて優雅なモノじゃないらしいのよね。自分の欠片を集める為にあちこち行く羽目になるようだから。
……欠片を回収する事で身体も能力も向上してる以上、私もアレクももっと強くならないといけない何かがあるんだろうと思ってるわ…アレクははっきりと言わないけれどね】
【強くならなければならない何か…】
エリィの言葉を繰り返すように呟いたセラが、エリィとアレクを順番に見る。
正面で見上げてくるエリィの表情は、顔を覆う仮面もとい包帯のせいで読めないが、アレクの方は何かを思い詰めるように、その視線を苦し気に伏せていた。
【だからセラがこれ以上関わりたくないと言うなら、それは止めようがないけれど、そうじゃなく自分が迷惑になるとか負担になるとか、そういうのを気にしての言葉なら、これを最後にしてほしいんだけど、どうかしら?
この旅が何処に行きつくのか、まだ私にはさっぱりわからないけれど、行きつく先はどうあれ、それでも一緒が良いと思うなら、そう思ってくれるなら、それで良いと思わない?】
アレクの様子に気づいているのかいないのか…エリィはほんの少し顔を向きを、アレクの方へと流した。
【アレクもそう思わない?】
【……せやな…うん、折角縁があって一緒しとるんやもんな】
【ムゥもみんな一緒が良いわよね? 私も他の誰でもなくアレク、セラそしてムゥと一緒が良いわね】
【うん! ムゥは一緒が良いのよぉ、ムゥも一緒が良いのよぉ!】
エリィが二ッと口角を上げる。
【って事で…改めて、これからも宜しくね】
【あぁ…よろしく頼む】
【えへへ、皆居てくれなきゃメッなのよぉ!】
【ムゥには敵わへんなぁ】
ピンと張り詰めていた空気が、ゆっくりと弛緩していく。
【とはいえ…暫く軟禁生活というのも…】
【せやな、どないかならへんの?】
【まぁ、やられっぱなしと言うのは本意じゃないけれど、今できる事が少ないのは確かね】
【とりあえず、その貴族のボンボンどないかしたいなぁ】
【人間種達からの情報待ちね…って事で、私は金策の為にも薬品製作でもするかしら…まぁ皆はゆっくり休んでてよ】
エリィはセラの正面から離れ、椅子によじ登ると、収納内一覧パネルを呼び出した。テーブルの上に各種薬草を収納から取り出して並べるエリィの足元に、ムゥがベッドから降りて近づく。
【主様ぁ、ムゥ見てていい~?】
【ぅん? あぁ、別に良いけど、つまらないと思うわよ?】
【つまんなくないもん!】
色々な薬草などの素材が並ぶテーブルに、ムゥは這い上がると、身体の一部をうみょーんと伸ばし、素材をペチペチ叩いたりじっと見つめたりしている。
そんなムゥを視界の端に捉えながら、エリィは並べた素材を前に腕組みをした。
道すがら集めたマフ草、ツデイ草の根、トトワの樹皮、タルミアの葉等々……そして砂に土塊。
砂や土塊を素材として容器を製作するのだが、ここでエリィはふと考え込んだ。
ゲームやアニメ等のイメージから、ポーション容器はガラス製という思い込みがあり、これまでそういった容器を作ろうとしてきたが、この世界でガラス容器と言うのは一般的なのだろうか?
ケネスに渡したポーションは、エリィの製作練度が低かったこともあり、ガラスを目指したものの、ガラスには見えない容器でしかなかった。
だが、これまでに薬品瓶として見た事がある物は、あの碌でもない施設やその近くにあった『眠薬』――それが入っていた焼き物の筒だけで、開口部を革で蓋代わりに紐で結わえただけの簡素な代物。
(ガラスと陶器、どちらも作ればいいかしらね)
マフ草1本とツデイ草の根を10分の1本、そして砂を2摘み。
取り分けたそれらに両手をかざすと、修復の時と同じように光に飲み込まれて暫く後、光が収束した後には、容量が50mlほどの小さな丸底フラスコのような物が作り出されていた。色は茶色で半透明だが、前世のビール瓶のような均一な色ではなく、所々濃淡の残る、エリィとしてはまだまだ残念な品となった。
瓶本体と同じ素材でできた蓋を外して容器を傾け、手の平に中のポーション液を少し出してみる。
少しくすんだ色合いだが、これまでの製作品より青みが強くでていた。
(ぉ…もしかして3等級品作れた?)
これは面倒くさがって鑑定を放置してはいけないだろう。
(やっぱり等級上がってたわ。それで評価額は…3等級だと2500エク。やっぱり薬品類って結構な値段するのね。こんな辺境と都心部じゃ値段そのものが違うだろうけど、一食100エクあればどこでも普通以上に食事ができるみたいだったし、ざっくり5食分と考えれば……元値が自力採集だと0円と考えるなら……技術料が全部だものね…まぁ、確かにこの辺じゃ薬草類は見かけないから、採集するだけでも大変だから素材費用込みになるのは当然かしらね)
次は薬品瓶を陶器で作ってみるかと、今度は砂ではなく土塊の方へと手を伸ばすエリィだった。
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