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78話 今後の予定と宿への帰還




「よし、当面の行動を話すぞ」


 ゲナイドの言葉に小さな室内がシンと静まり返る。


「お嬢はそのまま宿に居てくれ、女将とは知り合いだし不自然でもねぇ。ただ先に一つだけ確認させてくれ…お嬢はトクスの宿舎に部屋があったよな? ナゴッツから戻ったときは、いつも部屋に戻らず宿をとっているのか?」

「あぁ、今回もナゴッツにまた行かないといけないしな。こっちに来るときは大抵短期間になるので宿をとっている。宿舎の部屋じゃ何かと落ち着かないんだよ」


 察してくれと言いたげなオリアーナの表情に、ゲナイドは苦笑する。


「だったら尚更そのままで頼む。こっちからは俺が行く。俺なら女将とも顔見知りだしな。宿の事も聞いていたからそう不自然でもあるまいよ。ギルドとの連絡は俺達が請け負うが、緊急用に後で伝書箱の受け取りの方を渡されるらしいから、それはヴェルザンに聞いてくれ」


 ゲナイドが話してる最中に、オリアーナが小さく声をあげた。


「話の途中ですまないが、門番…ザイードに口止めをしておかないと…。私が行ってくる」


 オリアーナが腰を上げた所でゲナイドが止める。


「あ~ザイードな、大丈夫だ」


 ゲナイドの言葉の後ろを、カムランが攫う。


「俺が行ってきた。ザイードはティゼルト隊長達を受け入れた後は、上がりだったらしく、近くにいた同僚に隊長が帰ってきた事だけは告げて、そのまま自室で夜まで爆睡していたらしい。もちろんそれが本当かどうかはわからないから、彼には暫く休暇申請をしてもらってある。今はギルドの一室に軟禁中だ」

「そうか」


 浮かしかけた腰を下ろして、オリアーナがホッとしたように呟いた。


「それでお嬢ちゃんの方なんだが」

「エリィと呼んでくださって構いません。『お嬢』と『お嬢ちゃん』、区別は出来ますが、ややこしくありませんか?」


 どう呼ばれようと物申す気はなかったのだが、流石に『ちゃん』があるかないかだけというのは、ややこしいだろうと提案してみる。


「ん? そうか…じゃあエリィは従魔達と室内に居てくれるか? 食事も部屋に運んでもらうように言っておく」


 エリィがそこでふと思い出したように言葉を挟む。


「確認してみないといけない事ではありますが、もしかすると今あそこに泊まってるのは、オリアーナさんと私だけかもしれません」

「そういえば常連客が二人ほど泊まってるが朝には出発するとか言ってたな」

「それが確かなら助かるな。じゃあ行くか」


 ゲナイドが立ち上がり、他もそれに倣ったところでヴェルザンに止められる。


「待ってください。エリィ様の仕事の件について何も話していませんよ」

「うえ!? すまん! それもあったな」

「すみませんが、もう一度座って頂けますか?」


 室内を見回して言うヴェルザンの言葉に従って、全員が再び腰を下ろした。


「ここまでのお話でもうお分かりいただけたと思いますが、実質エリィ様は監禁状態となります。ですが、それではお仕事も昇級もままなりませんでしょう? ですのでご提案なのですが…」

「はい」

「エリィ様は薬師として納品をお願いできませんか? 荷運び報告等はゲナイト様が請け負って下さるとのことですので、如何でしょう?」


 エリィはやや顔を俯かせて考えているようだったが、少ししてゲナイドの方へ顔を上げた。


「私としては助かりますが、それは流石にゲナイド様に申し訳なさすぎます」

「こっちからの提案なんだ、気にする必要なんざねぇぜ? まったく…エリィはいい子過ぎるな」

「ゲナイド様のおっしゃる通りですね。

 エリィ様、これは正当な取引ですよ。実際ポーションを始めとした薬品類は、常に不足状態なのです。ここトクスに限った話ではありませんがね。

 もし製作可能であれば、武具や小物なども依頼したい所です。あぁ、修復なんかもありがたいですね」

「おいおい、修復はまずいだろう? なんせ武具を宿に持ち込まねぇとなんねえからな」

「そうでしたね、失礼しました。それで如何でしょうか…」


 全員の視線が集まった所で、逡巡していたエリィがキュッと唇を引き結んだ後、一礼する。


「ありがたいお話です。どうぞよろしくお願い致します」


 話は決まりだと、ヴェルザンがいそいそと納品切望リストなるものをエリィに手渡している。

 エリィがそれを頷いて受け取り、全員が立ち上がった所で一旦解散となったが、エリィとオリアーナは、ヴェルザンにもう少し待ってくれと請われた。


 一旦その場を離れたヴェルザンが戻ってきた時、彼が手に持っていたのは伝書箱の受け取り側の箱。

 送信箱と受信箱がセットになっている魔具だ。

 受信側は複数個設定可能となっているので、普段は受信箱を村ギルドマスター及び村サブギルドマスターが携帯しているらしい。ヴェルザンも補佐として1つ渡されているらしい。

 手のひらサイズの箱で、何で作られているのかわからないが、上面が大きく開き、そこから中のものを取り出せるようだ。

 ギルドが保有する受信箱の予備の一つを、エリィは手渡された。


 ちなみに、送信側の箱は投書箱のような形状をしており、投入口はさほど大きくないのだが、後ろ側がそこそこ大きく重い為、持ち運びには適していない。

 ギルド等大きな公共施設に設置されているが、一般には普及していない理由がそこにあった。




 エリィとオリアーナは昨晩と同じコースを辿って宿に戻り、その後を暫くしてからゲナイドが追う予定だ。


「何だか面倒なことになってしまったようで、本当にすみません」


 ギルドの裏通路へ出た所で、エリィが申し訳なさそうに呟き、小さく頭を下げた。その様子にオリアーナが苦虫を嚙み潰したような顔になる。


「エリィは何も悪くないだろう? 貴族連中が腐ってるのが悪いんだから、謝ったりしないでくれ。エリィは…エリィも従魔達も被害者だ」


 昨晩と同じく裏通路の扉を開けて外へと出ると、日の光があたって暖かく感じる。朝晩の冷え込みはまだ寒さを感じるほどだが、晴天時の日中に限っては春と言って差し支えない気温だ。



 ――ピチュ…チチ、ピ


 またも聞き覚えのある囀りに、エリィは一瞬足を止めるが、すぐにオリアーナの後ろを追いかけて宿を目指した。



 宿のつくと、オリアーナは女将と話してくるといって、エリィとは別れた。

 フロアに居てもやる事はないしと、部屋へ戻るとアレク達全員起きていて、帰ってきたエリィに視線が集まる。


【寝てるかと思ってたわ】

【おかえり、朝市はどないやった?】

【最低限は買えたかしらね…ただ支払いはさせてもらえなかったけど】

【あぁ、なんやあの人族の女の人が払うとか言うてたなぁ】


 くあぁと欠伸をしながら、アレクは起き上がり伸びをする。

 その様子を見ながら小さく溜息を零すと、面倒くさそうにエリィは念話を続けた。


【また厄介事に巻き込まれたわ】

【はぁ!?】


 セラも横たえていた身体を起こして、エリィの方へと身体ごと向き直る。

 足元にすすっと近づいてきたムゥを抱き上げ、エリィはベッドの方へ向かうと、そこへ腰を下ろした。


【もうどこから話せば良いかしらね…】

【なんや…そないに困るほど大事になっとるんかいな】

【大事と言うより面倒?】

【主殿、何があったのだ?】


 ん~と暫く悩んでから、息の続く限り長い溜息を吐く。


【はぁ…先に言っとくわよ? 私達は被害者。セラは何も悪くないから、そこ大事だからね】

【俺?】

【だからね…セラを寄越せって喚いた奴が居るって話……】

【【はぁぁ!?】】


 ムゥはぽやんと首を傾げるようにエリィを見上げているが、アレクとセラは揃って怒りを含ませた声をあげた。


【ぃゃ…別に寄越したりしないわよ】

【そんなんあたりまえやろ】

【ギルドやここの女将の様子から、色違いの亜種グリフォンなんて珍しくもないんだなと思っていたんだけど、どうやら違ったみたいでね…】


 再度長い溜息を吐いた後、エリィは事の顛末を全員に話して聞かせた。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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