75話 セラを巻き込む厄介事発生!?
伝書箱は伝書箱で、伝書鳩ではないのです…ハイ
オリアーナの話を聞いていると背後に気配を感じ、エリィが後ろを振り返り見上げた。
昨日ぶりのゲナイドが、挨拶するように右手を軽く上げながら近づいてくる。
ゲナイドの後ろにはカムランと、昨日は見かけなかったローブ姿の人物と、冒険者姿で槍を背負った人物が続いていた。
もしかしてゲナイドがリーダーを務める『大地の剣』の構成メンバーかもしれない。
ふとそんなことを考えていたが、先頭に立って近づいてくるゲナイドの表情が、挨拶の軽さとは趣を異にする真顔で、エリィはやや身構えた。
「おはよう、お嬢もいるなら好都合だ」
直ぐ近くで立ち止まったゲナイドが、真顔のまま『あっちだ』と言わんばかりに顎をクイっと動かす。
オリアーナもその様子に表情をやや硬くし、エリィの背にそっと手を添えて、促された方向へと足を向けた。
そのままそちらの方向にあった階段も上がれと言うように、ゲナイド一行は足を止めずに追い立ててくるので、少し戸惑いながら階段を上がって2階の廊下まで行くと、流石にオリアーナが立ち止まって彼らを振り返った。
「一体何なんだ…それと『お嬢』はやめてほしいんだが」
「あぁ、事情は話すがもう少しだけ奥に進んでくれ、これじゃ下から丸見えだ。それと呼び方は諦めてくれよ」
ゲナイドが後ろを気にするように、一瞬振り返ってからオリアーナを真っすぐに見つめた後、眉根を下げて苦笑する。
「お嬢ちゃんもすまないが、今は俺の言うとおりにしてくれると助かるぜ」
次いでエリィの方へも苦笑のままの顔を、ゲナイドが向けた。
彼の言葉に従い、1階からは見えなくなる2階の壁に隠れるような位置に、6人全員が入り込んだ所で『シッ』と自分の口元に指を1本立てた。
暫く静かにしていると、フロアの喧騒を蹴散らすような、品のない大声が1階の奥の方から聞こえてきた。
「俺の言葉に従えないって言うのか!」
「モーゲッツ大隊長のご希望には、今まで可能な限りギルドとしては、お答えしてきたと思いますが?」
「貴族の望みを叶えるのは義務だろうが! さっさと『白銀のグリフォン』とかいうのを持ってこい!!」
「登録されている従魔をギルドが強奪する等ありえませんので」
「貴様…」
そっと2階の壁の影から階下を窺えば、成金と言って差し支えない格好をした小太りの男と、ヴェルザンが足を止めて向かい合う所だった。
「どれだけ貴方が吠えようが、望みが叶う事はありませんよ。今回の事は関係各所へ報告させて頂きます」
「な、なんだと!! 俺を誰だと思ってるんだ!!」
遠く2階から覗き見ているだけでも、ヴェルザンの周囲の空気が冷え込んでいくのがわかる。
「モーゲッツ大隊長…貴方の言ってることは、この国の法律に違反する事だと言ってるんですよ。
覚えていませんか? 貴族の横暴が激しく内乱になりかけたあの時を忘れたとおっしゃいますか?
貴族たちに節度ある態度を求めた陛下のお言葉を忘れたと…やはり報告しなければなりませんね」
「貴様……」
「なんでしたら、報告する前に私ヴェルザン・シセドレとして、貴方に力で対抗して見せてもよろしいのですよ? 如何しますか?」
「…もういい!!」
顔を真っ赤にした小太りの成金男が、足取り荒く正面扉から出ていくのが見えた。
「皆さんお騒がせしましたね。今日も沢山の依頼を受けてくださいね。もう少ししたら村マス村サブも戻られますからご安心を」
声のトーンを1段上げて和やかに話せヴェルザンの様子に、ギルド内全体が固唾を飲んで身じろぎもできなかった空気が、途端に弛緩する。
徐々にがやがやと喧騒が戻りつつある中、階下のヴェルザンが2階を見上げてきた。
それに応えるように頷いたかと思ったら、ゲナイドが振り返る。
「そこの部屋に入っとくか。すぐ来るだろ」
エリィとオリアーナも素直に言葉に従った。
エリィにしてみれば、看過できない事態なのだから、話を聞くまでは落ち着けない。
聞き耳を立てていた場所から一番近い部屋の扉には『仮眠室』と書かれたプレートが張られている。
ゲナイドはその扉を何の躊躇もなく開き、全員に入るように促してきた。
『仮眠室』とあった通り、ベッドとテーブル、椅子、そしてクローゼットがあるだけの簡素な部屋で、エリィとオリアーナはベッドの座るように言われ、ゲナイド一行は床へ腰を下ろした。
然程待つこともなく、ノックの音が響いたかと思うと直ぐに扉が開かれ、ヴェルザンが入ってきた。
「よう、お疲れさん」
ヴェルザンに苦笑交じりに、床に座り込んだまま片手を上げてゲナイドが挨拶するのを皮切りに、全員が軽く会釈しあう。
「朝っぱらからお騒がせしましたね。申し訳ありません」
「お前の方が大変だったろうが、そこの椅子に座ってくれや」
言われてヴェルザンは周囲を見回すと、眉根を下げて頷いた。恐らく自分が椅子に座るのが一番おさまりが良いのだろうと納得したようだ。
「で、馬鹿ウルをどーすんだよ」
「ゲナイド様…『馬鹿ウル』って言ってはいけませんよ。仮にもここトクスの警備大隊長様なんですから」
「俺に『様』はよしてくれ、フロアじゃないんだし、正真正銘お貴族様に言われりゃ背筋がゾワゾワしちまうってんだ。しかし誰に聞いても、あいつは馬鹿ウルって言われてるんだがな」
ゲナイド一行も頷いている。
「籍が残っているだけですよ。何度も除籍をお願いしているんですけどね…まぁ、今回は籍があった事に助けてもらえるかもしれませんがね」
すっと表情を消したかと思うと、ヴェルザンが椅子から立ち上がり、エリィに深々と頭を下げた。
面食らうエリィを置き去りに、ヴェルザンが謝罪の言葉を紡いだ。
「エリィ様には早々このような騒ぎに巻き込んでしまい、本当に申し訳ありません」
そのまま頭を上げないヴェルザンに、エリィが困ったように声をかけた。
「あの、頭をお上げ下さい。まだ実害は被っていません…ですが事はセラ…私の従魔の事なんですよね? わからないままでは納得できませんので、お話しして頂けますか?」
ゆっくりと頭を上げたヴェルザンが、椅子に座り直すと話し出した。
「もちろんです。今朝早くに…2階から見えました? さっきの男性が怒鳴り込んできたんですよ」
そこでいったん言葉を切り、ヴェルザンは長い溜息を吐いた。
「前日の確認検定の時にギルド員以外は数名いたのですが、奥にある食堂…そこの奥まった席で飲んでるようでしたので、油断してしまったようです…職員同士の話が聞こえてしまったようで、白銀のグリフォンを連れた新人が現れたと、さっきの男性に伝わってしまいました。
これにつきましては、ギルド内の綱紀粛正を早急に行います。既に村ギルドマスター及びサブギルドマスターへも伝書箱で報告書を送っています」
「あ~…綱紀粛正とか言われてもなぁって思うよな? えっとな、新人に限った事じゃなく、ギルド員の情報を、職員同士で他に聞かれるような声で話してたって言うのが問題なんだ……それに、あっちゃならねぇ事なんだが、新人潰しなんてのをする馬鹿がどうしても居たりするしな…だから特に新人さんの情報は気を遣うモンなんだよ」
「減俸等の処分は既に下しましたが、甘い処分だと言われても仕方ないと思っております」
俯くヴェルザンに代わりゲナイドが言葉を繋ぐ。
「解雇するには、人手が足りなさ過ぎてな。あ、ナイハルトが話してた職員、食堂の給仕の女性達なんだが殴っておいたから、それも併せてで収めちゃくれねぇか?」
殴るのは良いとして、『ナイハルト』?
―――誰だよ…。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)