7話 引っ…越し?
「さて、気を取り直して出発の準備しはじめましょ」
「うん、とりあえず服とかもっかい探してみるか? そのローブやったら仮面も何も隠せるけど、貴族でもないのにあんまし上等な服は目立ってまうやろか」
ベッドの木枠のへりに手を置いて『よっ』と掛け声とともにエリィが立ち上がる。
「貴族とかいるんだ? まぁそうね、質もそうだけど色もね、かなり鮮やかな紫色だし、仮面は銀色だし、これで目立たないほうがおかしいでしょ」
立ち上がったエリィの全身を上から下まで一通り眺めてから、アレクが箪笥のほうへと飛び上がって近づき観音扉を開ける。
「エリィの欠片見つけて魔核がもうちょい大きうなってからやったら、認識変化の魔法を常時展開してても問題あらへんやろけど、今はさすがに無理かぁ」
「常時展開とか冗談はヨシコさん」
色々とババア発言が多いなと自分突っ込みをしつつ、アレクと同じように箪笥へと近づき顔を上げた。
中に吊るされている服はゆったりとしたデザインが多いが、上質な布で作られているのがわかる。チュニックやワンピースの他に、光沢のある布を贅沢につかった法衣っぽい服や女神様ドレスのような『コスプレか!?』と突っ込みたくなるようなものも数着あった。
その全てに魔力を感じる。どことなく懐かしい気配を纏った優しい魔力だ。
「この服が纏ってる魔力って?」
エリィに問われて、飛びながら触手のような耳毛束でポイポイと服を取り出しているアレクが動きを止めて見下ろしてきた。
「かかってる魔法か? 大きさの可変魔法と維持保存魔法みたいやな。せやし全部持ってっとこか、ちゃんとエリィが着られるし元々…」
アレクに放り出されて床に積みあがっている服たちの表面を撫でるように感触を確かめると、ふわりと小さく笑みがエリィから零れる。
「そっか、何かね、懐かしいなぁって…不思議よね。ここに住んでた神官さん?の魔力なのかしら」
真ん丸に目を見開いたアレクは一瞬泣きそうに顔を顰めてから優しい表情を浮かべた。
「うん、せや、もし良かったら覚えといたって、エルフレイアって言うんや」
「エルフレイア……綺麗な名前だね」
少しほっこりとした空気の中、泣き笑いの表情で頷くアレクの言う通り、箪笥の中身をすべて拝借していいものだろうかと悩む。
その様子にお見通しとばかりにアレクが言葉を繋いだ。
「もうエル…エルフレイアは戻って来ることはあらへん、もう居らへんのや。浄化石のセットも持って出るつもりやから、そうなったらここは朽ちていくだけやからな」
「そっか」
アレクによって服たちも引き出しの装飾品も放り出され、エリィがすべて収納に保管した。本棚の本たちそれ以外も同様に収納へと引っ越しを完了だ。
正直泥棒でもここまで盗っていかないだろうというくらいに、室内は寒々しいほどガランとしていた。
残るは机の横にある大きな木箱だ。
これはアレクも確認していないどころか、気づいてもいなかったらしい。
大きさは高さがエリィの胸辺りまであり、なかなかに大きい。ただ大きさ以外は特に目を引く特徴のないものだった。色味は茶黒くくすんでいて、長く使われていただろうことが伺える。
蓋重そうだなぁとか呟きながらエリィが手を伸ばした瞬間、木箱の周囲にガラスのような膜が現れ、そのままパリンと音を立てて崩れ消えた。
「……」
一人と一匹で沈黙すること暫し。漸く詰めていた息をふぅと吐き出してから、今は床の上座っていたアレクが立ち上がり木箱に一歩近づく。
「エリィ宛の荷物やったみたいやな?」
「私宛? 何馬鹿な事言ってるんだか…面識もないのにあり得ないでしょ。アレク宛だったら納得できるけど」
「いや、まぁ、何でもええわ。開けてしまおや」
言うが早いかアレクが机の上に飛び乗り、耳触手を伸ばしてあっさりと蓋を外した。外した蓋を床にそっと置いてから覗き込む。
一番上にあったものを、そっと箱の中から持ち上げエリィに手渡した。
アレクから手渡されたものはとんでもなく芸術的価値の高そうな杖だった。
杖の先を彩るのはダイヤモンドだろうか、細かなカットが施されて光の造詣が美しいだけでなく、大きさが大人の握り拳ほどもある。地球での価値を考えると気が遠くなりそうだ。そんなダイヤモンドを小ぶりで薄紫の透明な宝玉が縁取っている。
それに繋がる杖の本体部分も透明で美しい。握りの部分に使われているのは銀か何かの金属のようで、緻密な文様が描かれている。
「収納に入れとって」
「は? え? あ、説明なし!?」
机の上に乗っているアレクに不信感満載の空気を投げる。
「説明言うても、そのうち使えるかもしれんし、持ってっとく方がお得やん?」
「いやいやいやいや、これはエルフレイアさんだっけ? その方にお返しすべきモノでしょ!?」
「さっきも言うたけど、エルはもう居らへんって」
「だからって、せめてお墓に埋めるとかさぁ」
「墓なんてあらへんわ」
問答はもう終わりとばかりにアレクが箱の中を漁りだす。
ただ、一人と一匹は忘れていた。どうしたら忘れられるのかわからないが―――
静かに横たわっている魔物の存在を忘れていた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
至らぬ点ばかりのお目汚しで申し訳ない限りですが、いつかは皆様の暇つぶしくらいになれればいいなと思っております!
リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。
そしてブックマークありがとうございます!
最初目にしたとき、信じられず2度見ならぬ3度見してしまいました。
次に訪れたのは気恥ずかしさ、それから気恥ずかしさを上回る嬉しさでした(涙出そうでしたw)。
どうぞこれからも宜しくお願いいたします<m(__)m>