66話 お買い上げ
素材から魔物の話へ移行し、その後色々話題を変えつつ、何故か最後にはモフモフ談議と止まらない二人に、アレクとムゥは目を閉じてしまっている。セラは起きてはいるが欠伸をかみ殺している状態だ。エリィはと言うと、顔を半分覆う包帯のせいで、起きているのか寝落ちしているのかさえ判断がつかない。実際には眠ってはおらず、虚無の表情で魂が半分抜けかけているだけだが。
そんな様子にやっと二人が気づいてくれたので、軌道修正してもらう事ができた。
「エリィちゃん、ごめんね!」
「すまない、話に時を忘れてしまっていた」
「………………ぁ~、ぃぇ、お話が良ければ鑑定査定をお願いしたいのですが」
「ほんとにごめんね! 鑑定は済んでるからちょっと指示仰いでくるよ」
バタバタと急いでケイティが、書類を抱えて退室していった。
それを見送り室内が静まり返った所で、オリアーナが苦笑を浮かべながら自分の肩を揉みだした。
「いつの間にか夢中になっていたな、すまない。これまでギルド職員とそれほど話したことがなかったから、こんなに話せると思わなかった」
アレクを挟んで隣に座るエリィが自分を見上げている事に、オリアーナは笑みを深くした。
「それにしても爪ウサギ討伐はエリィ自身だったのか…てっきり御婆様だと思い込んでたよ、すまない。それはさておき、随分と遅い時間になってしまったが、店は開いているから食事をして、その後は宿を取ってあるから、そこで休むとしようか」
「宿……」
「あぁ、エリィと別行動になってすぐ、報告の前に宿の確保だけはしておいたんだ。宿舎は女の子を泊めるには問題がありすぎるし、私の私室では狭すぎるからな」
「何から何まですみません。素材が売れたらかかったお金はお返しします」
「おいおい、もう忘れたとかはナシにしてくれよ? ここでかかる費用は私が持つって言っただろうが」
「それとこれとは」
「9本の修復、魔物の討伐、それにエリィの従魔にここまで荷車を引いてもらったし、何より肉代が大きいな。飯代、宿代くらいじゃ相殺できていない。明日の買い物も私が持つ、これは決定事項だ」
綺麗にウィンクまで決められて、仕方なくエリィの方が引き下がったその時、席を外していたケイティがトレーを手に戻ってきた。
「ごめん、お待たせー」
トレーを机に置き、先ほどまで座っていた場所に戻ると同時に、ケイティが口を開いた。
「これが明細ね。で、エリィちゃんにとって初めての買取でもあるし、内訳も説明していくねー」
エリィが自分の正面から少し横にずれた中空にパネルを1枚表示させた。
二人に見えていない事は確認済みだから、堂々と呼び出している。
「それじゃ爪ウサギの爪からいくね、10本全部ギルドで買い上げるわ。1本あたり22000エクで買取らせてもらうね、高値付けようと頑張っちゃったよ」
そこまで聞いてパネルの方へと意識を向ければ表示数値は18000となっていて、以前と変わらないのだが、もしかすると相場ではないのだろうかと考え始めた時、パネルとは別に文字が入力された小ウィンドが表示された。
『ローカル評価額を併記しますか?』
脳内で『はい』と選択すると小ウィンドが消え、18000の数字の下に『トクス:21000』という文字が現れた。
【そんなら18000っちゅうんは、平均相場って所なんやろか?】
いつの間に起きていたのか、アレクの声が脳内に届く。
【そうみたい? 平均評価額が18000エク、ここでの評価額は21000エクで、彼女は頑張ってプラス1000エクを頑張ってくれたって事かしらね】
【ええ娘やん!】
【本人の性格とかじゃなく、金額で高評価つけるって何なのよ?】
【いや、それはやなぁ、性格他はまだわからへんけど、エリィがお金ぎょーさん貰えるように頑張ってくれたんは事実やん?】
【……そうね】
思わず漏れそうになる笑いを必死で堪えているエリィをよそに、説明は続いている。
「だから爪は全部で220000エク、毛皮は1枚240000エクが3枚で720000エク、緑猪の牙は170000、どうかな…?」
パネルの爪以外を見ると、爪ウサギの毛皮には220000、緑猪の牙には170000のローカル評価額が表示されていて、牙は相場通り、爪と毛皮は頑張ってくれたことがわかる。
オリアーナも頷いているので、ケイティには感謝するとしよう。
「それでお願いします」
「ありがとー! もうどれも初めて見るし…数年前までは年に1体分くらいはここでも供給があったらしいんだけど、それ以降はまったくだったみたい。あ、それとなんだけど、もし売っても良い魔石なんてあったりしない?」
「魔石ですか? まぁ、そんなに多くないですけど、あるにはあります」
「おおーー! 何の魔石なら売ってもらえる!?」
ケイティが机越しにずいっと身を乗り出し顔を近づけてくる。
近い、近いから離れて…
「手持ちは爪ウサギのなら3個、黒ネズミのでよければ50個くらいなら」
「黒ネズミ!? それって確か6の下?…すぐ聞いてくる!」
「ちょっと待て」
再び慌てて部屋から飛び出そうとしたケイティをオリアーナが止めた。
「魔物の説明くらいなら、私でもしてやれるから座ってくれ」
やや眉根を下げ、苦笑を幾分上乗せしたオリアーナに、ケイティは顔を真っ赤にしてストンと座り直した。
「黒ネズミは階級的には6の下だが、危険度としては爪ウサギより高いかもしれない。というのもウサギは単体行動だが、ネズミは家族単位で動くんだ。数と言う意味では脅威だろう? 攻撃は主に体当たりするだけの単調なものだから、ウサギより評価が低くなってしまうんだろうがな。尻尾の先まで含めた全長は2ヤルくらいで、爪ウサギ同様、森の奥に生息しているから滅多にお目にかかれる相手じゃないな。まぁ私にしても戦ったことはないし、教本の受け売りだ」
「2ヤルが沢山って事!? ぅわぁぁぁ……」
エリィは2人の話を聞きながらパネルを操作する。
手でタップせずとも考えるだけで操作できるとわかったので、行動で不審がられることもない。
ちなみに『ヤル』は長さの単位で、前世の『メートル』とほぼ同じ長さだ。重さの単位は『クト』で、こちらも前世の『グラム』とそんなに変わらない。
わかりやすくて、ありがたいことこの上ない。
(黒ネズミねぇ…何か気づいたら囲まれてたりしたわよね。でもまぁ確かに突っ込んでくるだけで大したことなかったな。だけど魔石って需要あるんだなぁ、これからは魔石も狙っていかないとだわね…)
「それにしてもエリィ…どんな過酷な環境で生活していたんだ…」
「過酷…でもなかったですよ、それが普通でしたので」
しれっと答えるエリィに、二人から憐憫の色を乗せた視線が送られる。
――解せぬ……。
「な、なんにせよ売れるなら売ってほしいから、出してもらっていい?」
「はい」
背負い袋から出す振りで、収納から取り出して並べていく。
ほぼ真円な形状のため、机の上で転がりそうになるが、それをオリアーナとケイティは目を丸くして見つめていた。
「全部丸い魔石?」
(…ん?)
ケイティの質問に、今度はエリィが固まる。
「凄い…全部本物な魔物の魔石なんだね」
(………はい?)
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)