表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/235

64話 そして結果は

 



「嬢ちゃん、またな」

「ありがとうございました」


 へへらっと笑って手を振るゲナイド達に見送られながら、エリィ達はケイティに先ほどまで居た休憩室へと案内された。


「それじゃゲナイドさん達を案内してくるから、この部屋で待っててよ」


 エリィは軽く会釈をして、パタンと扉が閉まるのを待った。


【お疲れさんやで】

【疲れる程動いてはいない】

【まぁ初心者相手の検定な訳だから、手抜きもとい手加減しないといけないし、あんなモノじゃない?】


 エリィが近くの椅子を引いて座ると、アレク達もその近くの空いた場所でそれぞれ身を休める。


【どやろなぁ、手加減されてへんでも、あんなモンやった思うで?】

【流石にそれはないでしょ】

【いやいや、エリィが小屋で練習相手にしとったウサギとか、アレ初心者向けの優しい獲物ちゃうで? 猪とかにしたかてそうや】

【へぇ】

【素早さがアホみたいに高いさかいな、熟練冒険者でも返り討ちにされるなんて珍しゅうあらへんで。アレが一人で倒せるようになったさかい、小屋から出よかって話が出来たんやし】

【『冒険者』って言わないみたいよ、残念】

【そこ残念がるんかいな】


 セラの様子を窺えば、床に伏して目を閉じている。

 彼にとって小屋周辺の記憶は歓迎すべからざるモノだろうから、エリィも話題を切り上げるべく『ちょっと休む』と呟いてテーブルに伏した。





 少し時間を遡って―――


「嬢ちゃん、またな」

「ありがとうございました」


 ケイティに先導されて訓練場を後にするエリィ達を、へらりとした笑顔で見送ったゲナイドだったが、その後ろ姿が見えなくなると同時に、その表情が一変した。


「完敗だな。それでお嬢ちゃんはどんなだった?」


 見送った姿勢のまま顔を向けることもせずに、ゲナイドが低い声で問う。


「結果としては『誘われた』かな」

「はぁ!? お前がか!?」


 弾かれたようにカムランの方へと身体ごと向け直したゲナイドは、彼の表情が目に入ると少しバツが悪そうに頭を掻いた。

 視線を横へ落とし下唇を微かに嚙むカムランの表情は、少々悔しそうだ。


「あの跳躍力見ただろう? それだけでも大したものだが、飛んでる間に体勢を変えて着地位置の調整するなんて、あんな小さな子がしてくると思わなかったんだ」

「……ぁ、あぁ、確かにな」

「で、てっきりまた背後を取ろうとしてるんだと判断した結果、懐に潜り込まれて終わり」


 カムランが悔しげな苦笑を浮かべてお手上げポーズを決める。


「俺の方も『遊ばれてる』感じだったな。遊んでやるつもりが、遊ばれてたってな」

「グリフォンって賢いと聞くし、遭遇した事がないからわからないんだが、そんなに強いのか?」

「俺もそんなにはねーよ。あん時は俺は3階級に上がったばっかりだったか…そんなに難しい依頼じゃなかったんだがな……」


 遠く、記憶を掘り出しているのだろうか、遠く、何処を見るでもない表情をゲナイドが浮かべた。


「ま、パーティメンバーが散り散りなって、俺も一人でさ、必死に走ってるうちに出くわした。それだけさ」

「それだけって…」

「グリフォンの方が見逃してくれた」

「……」

「さっきのみたいに白銀色じゃなく、茶色と白の…普通にグルフォンって言やぁ思い浮かべるソレだったが、もう醸すオーラが違ったよ」




 暫くどちらも口を噤み、流れる沈黙に身を任せていたが、二人同時に溜息を落とす。


「あ~、この後どーすんだよ、とんでもなく恥ずかしいぞ」

「言うなよ…俺だって穴があったら入りたいぜ」

「「初心者に転がされた5階級」」

「「………あああああ」」


 二人して悶絶していると足音が近づいてきた。

 ヴェルザンが報告から戻ってきたようだ。


「…ぉぅ、お帰り」

「あぁ、お二人ともお疲れ様でした。で、どうしてここに?」

「あぁ、ケイティは案内しようとしてくれたから、怒ったりしないでやってくれよ?」

「そうでしたか、わかりました。で?」


 しれっと追及の手を緩めないヴェルザンに、ゲナイドが苦虫を嚙み潰したような表情を向ける。カムランはというと、笑いを堪えているのか、顔を伏せたまま肩を小さく揺らしていた。


「お前ってやつぁ、ほんと容赦ねーな」


 本気で分からないと、怪訝な顔を少々傾げるヴェルザンに、半眼を向けるとがっくりと肩を落とした。


「いや、なぁ? うん…ま、反省会ってやつさ」

「反省会ですか?」

「そ、仮にも5階級の俺達が軽くあしらわれちまったからな」

「そうでしょうか? エリィ様たちにもお怪我はありませんでしたし、ギルドとしてはお二人に感謝しておりますよ」

「そこは当然だろう?」

「そんな貴方達ですから、確認検定なんてお願いできるのですよ」

「だから、そうじゃねーのよ、確認なんだから勝ち負けじゃねーってのはわかってるんだがな、負け方ってのがあるだろう?」


 ぼやくゲナイドの態度に照れ隠しみたいなものを感じて、ヴェルザンは優しい笑みを浮かべた。


「是非また次もお願いしますよ」


 ヴェルザンの笑顔に黒いものが混じっているのが見て取れて、ゲナイドとカムランは苦笑を深めるしかない。


「「勘弁してくれ」」


 勝てない相手に絡んでも仕方ないと、ゲナイドは話を変える。


「で、どうだったんだ?」

「さっき伝書箱に返信が届きましてね、今からエリィ様に報告です。プレートにはすでに記載してきました」

「そうか、何にせよ大型新人誕生で喜ばしい限りだぜ」

「えぇ、本当に。あぁ、報酬の方はいつものように振込させていただきます、それでは」


 丁寧に一礼してヴェルザンがゲナイド達に背を向けて、休憩室の方へと向かっていくのを見送った。




 休憩室の扉がノックされる。

 テーブルに伏していたエリィが顔を上げ返事をすると、静かにその扉が開かれ、ヴェルザンが入ってきた。


「エリィ様、お待たせしました」


 椅子から立ち上がるエリィ達に、ヴェルザンは手振りで座るように促しながら、自らも手近な椅子を引いて腰を下ろす。


「まずは登録ありがとうございました、そして検定お疲れ様でした」

「こちらこそ急な来訪にも拘らず、対応して頂き本当にありがとうございました」

「とんでもございません。村マス…ぃぇ、トクス村ギルドマスター及びサブマスターが不在だったため、報告等に時間がかかり済みません。ただゲナイド様達が偶然居合わせて下さった事は本当に幸運でした」

「ぁ…そうですよね。予約していたわけじゃなかったのに、偶然だったんですか?」

「えぇ、任務完了の報告に偶々。あの方たちが居て下さらなければ後日になっていたでしょうから」

「そうだったんですね、お見掛けしたら私からも再度お礼を言わせて頂こうと思いますが、どうぞ宜しくお伝え下さい」

「承知しました。そして先に結果ですが、飛び級で3階級開始となりました」


 微笑みつつ頷くヴェルザンが、自分の上着の内側を探ってプレートを取り出しテーブルに置くと、そのままエリィの方へ静かに滑らせた。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ