62話 戦闘選択、そして従魔登録
「エリィちゃん、2等級作れるなら十分だよ。トクスで手に入るのは1等級以下がほとんどだもん。薬師で検定受けたらいいと思う! まぁテイマーで受けても、その綺麗なグリフォンが居れば怖いものなしだと思うけどねー」
そう言いながらケイティはセラを見て、目を輝かせている。
どうやら彼女は魔物好きなようだ。もっとも好悪の偏りはあるだろうが。
「……少しお聞きしたいんですけど」
「うん、何? 新人とは言ったけど、勤め始めてそろそろ1年くらいにはなるし、そこそこ答えられると思う。ところで…エリィちゃんも普段通りにしてくれていいんだよ?」
「ぁ、ぃぇ、このままで」
「むぐぅ、ま、いっか。それで聞きたいことって?」
「はい…多分ですけど、薬師で受けてもテイマーで受けても、最低階級開始ですよね?」
この世界のギルドはわからないが、前世でよくあったファンタジー設定の場合、ランクとか級とか言って、階級分けがされている事が殆どだった。
まぁ順当に最低ランクから地道に上げても良いのだが、本音を言えば面倒くさいの一言に尽きる。なので可能であれば『飛び級』したいのだ。
それに階級によっては行動範囲の制限等あるかもしれない…いや、ほぼ確実にあるだろう。
「最低ってか、普通は…まあ、そうかなー」
「それ、飛び級できたりしませんか?」
「…………え?」
「ぇ、ぁ…やっぱり無理です…よね。いえ、変な事お聞きしてすみません」
あっさりと引き下がるエリィに、ケイティが慌てて手を振り否定する。
「待って、まず確認させて~。飛び級って実力次第では2階級開始とかって意味で、あってる?」
「はい」
「実力があるなら、開始階級は1階級じゃない場合だって当然あるよ。実力のある者を低階級で遊ばせておく余裕はないって先輩達の言葉もあるくらいだしね」
引き下がったのに、至極当然のように肯定されてしまった。存外柔軟性のある組織のようだ。
「それじゃ確認検定、何でする?」
改めて問われて、エリィは一瞬考え込んだが、すぐに念話に切り替えた。
【戦闘検定でいい? 薬品みてもらっても、飛び級できるかわからないし、戦闘ならチャンスありそうだと思うんだけど…ただそれだとセラに協力お願いする事になりそうかも】
【ええんちゃう? 最低ランクやとあっちはダメ、こっちもダメとか、面倒くさそうやもんな】
【承知した。全力でいかせてもらうとしよう】
【セラの全力…手加減お願いします】
【む…】
【ムゥはぁ? ムゥは何したらいいの~? ムゥも頑張るのよ~】
【ムゥは怪我しちゃうかもしれないから、離れてアレクと待っててね】
【ええええええーーーーーー】
「戦闘でお願いします」
戦闘っと、と呟きながらケイティが書類に書き込むのを眺めていると、エリィ達が入ってきた入口とは反対側にある扉が、突然豪快に開かれた。
「よう! そっちの嬢ちゃんが確認希望者か?」
慌てて書類から顔を上げたケイティが、眼鏡を押さえながら目を吊り上げる。
「ちょっと! ゲナイドさん大人しく待ってられないんですか!?」
開かれた扉から入ってきたのは、とても体格の良い男性。
エリィ自身は椅子に座ったままの状態な為、誤差はかなり出るかもしれないが、身長は下手をすると2mはあるかもと思える程。筋肉も鍛えられており、見るからに『ザ・冒険者』といった体格だ。装備も革鎧に籠手、ブーツなどもよく手入れされている。装飾などはなく、実用一辺倒な品だが、なかなか上質そうだ。
灰色の髪に、眼光は鋭いながらもやや垂目で灰色の瞳。無精髭が似合っているかもしれない中年ぽいおじさんが腰に佩いてる得物は、直刀の片手剣。
そんな男性が二ッと笑いながら腕組みをし、出入り口の所で仁王立ちしている。
それにしても男性に対しては口調は荒いながらも、一応敬語で話せているのに、何故エリィには難しかったのだろうか…。やはり見た目か? 何にせよ解せぬ事に変わりはない。
「そこの窓から見えたんだがよ、そんなグリフォンを連れてるとあっちゃ、戦闘確認で決まりだろ? だからさっさと迎えに来たって訳だ」
「なーにが『決まってる』ですか! それに何度も言ったと思いますけど、ノックしたら返事があるまでは待っててください!」
ケイティが立ち上がり、つかつかとゲナイドと呼ばれた大男の方へと、睥睨したまま足取り荒く向かっていく。
そのままビシっと指を突きつけると、ゲナイドの方が大げさに身を縮こまらせた。
「まったく、ただの大きな子供じゃないですか! しかも仮にも5階級員なのに、ほんとにもう!!」
「おおコワッ、ケイティちゃんが優しくしてくれないと、おじさん泣いちゃうぞおお」
「おっさんが泣いても可愛くないんでやめときましょーね! それと、マスターには報告上げときますから!」
「ぉわ! それは勘弁してくれ!!」
「勘弁しません!」
とほほと項垂れた大男にふんっと鼻を鳴らしたケイティが、エリィの座っているところへ戻ってきた。
「ごめんねー。なんだか順番も何もグチャグチャになっちゃったけど、紹介しとくわ。あれが不本意だけどエリィちゃんの確認検定相手でゲナイドさん。『大地の剣』っていうパーティのリーダー、あれでも、ね…」
「『あれでも』って酷く「酷くありません!」ねぇ?」
ぶ~っと拗ねた表情を浮かべるおっさんと、半眼のケイティが対峙している傍らで、何の抑揚もなしにエリィが淡々と挨拶をする。
「宜しくお願いします。エリィと申します」
淡々としたエリィの声と行動に、ケイティとゲナイドが少し居住まいを正した。
「よ、よろしくな。俺の事はゲナイドって呼んでくれ」
「はぁ、じゃあこのまま裏で始めます?」
「おう、俺はいつでもい…あ~、グリフォンとだよな? 一応こっちも二人にしとくか」
「じゃあさっさと呼んできてください」
しっしっと追い払う仕草をしてからケイティがエリィに向き直った。
「いけない、忘れるところだった…今のうちに従魔さんたちの登録もしとこっか。プレートを首から外してもらえる?」
ケイティの指示通りに、ギルド証であるプレートを首から外し手に持つと、彼女を見上げた。
「まずはエリィちゃんの印を決めてもらわないといけないんだなー。誰が見てもエリィちゃんのってわかるオリジナルマークを作って、こっちのペンと特殊インクでプレートに書き込んでもらえるかな?…って、あれ?」
エリィの持つプレートに何か見つけたのか、折角手に持ったペンとインク壷を机に置いてからケイティが覗き込んでくる。するとぎょっとした様子で目を見張っている。
「何…これいつの間に? それだけじゃなく、何なのこの複雑な文様。こんなの描けるはず…でも…えええ~~~何なの」
エリィにも身に覚えはないので、プレートをじっと見つめると、どこかで見た記憶のある…だけどとても複雑で美しいデザインの印がプレート表面と裏、どちらにも薄っすらと刻まれていた。
(どこで見たっけ……あぁ、思い出せない)
思考に沈んでいたエリィに、最初の位置でじっとしたままの3名が、心配そうに声をかけてきた。
【エリィ? どないしたんや?】
【主殿、如何した?】
【主様ぁ、痛いの? イタタいのメッしたげる~】
3名からの声に思考が霧散してしまったので、エリィは苦笑を口元に刻むとケイティに顔を向ける。
「えっと、よくわかりませんが、このプレートをどうしたら良いんです?」
プレートを従魔に押し当てれば良いとの事なので、さっさと3名に押し当てると、プレートにアレク、セラ、ムゥの名前が刻まれた。
【待て待て! 僕が何で従魔なんやの!? 僕は従魔ちゃうってばあああ】
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)