61話 ギルド証げっと!
60話の最後の方、『手をかざす』部分を削除しました。
背面から見ると以前見たものと変わりなく見えたのだが、くるりと回り込んでみるとかなり違いがあった。
丸い半透明の石は直径30㎝程で、台座に3分の1くらい埋まり込んでいるのは変わらないのだが、その台座部分が大きく異なっている。
前面下部に横スリットが1つ。おそらくここからあのドッグタグのようなプレートが出てくるのだろう。
そのスリットの上に何かを入れられそうな穴がある。
「そこの穴に手、どちらでも良いので入れて頂けますか? あ、手袋は外してくださいね。中で少しだけエリィ様の血を頂いてから走査すれば完了です。ちょっぴり痛みがあるかもしれませんが、すぐ終わりますからじっとしてて下さいね」
一瞬ギクリとしたが、どちらでも良いと聞いて肩の力が抜けた。
両手と言われたら詰んでいた。何しろ左手はまだ水銀状態なので、とてもではないが人目に晒せない。
それにしても血液を採取されるという事は知らなかった。まぁ必要だというなら血液そのものは良しとするが、採取方法は若干気になる。
「あの、そこの中で手に傷でもつけて血液を採取するんですか?」
叶うなら誰が使ったかわからない装置の、使いまわし部品で傷をつけられるのは遠慮したい。
エリィの言葉にケイティが一瞬きょとんとした表情を浮かべるが、すぐに我が意を得たりと言わんばかりに胸の前で両手を握りしめた。
「それですよ、それ! わかります! 見えないところで傷とか怖いですよね! 私もここの職員に採用されたとき、すっごく怖かったんですよ。ざっくり切られたらどーしよーとか。んと…あ、でしたら針か何かで出血させてから、先に血をこのプレートに付けちゃっていただけますか?」
ケイティが装置の乗った机の引き出しから、鈍い銀色の金属プレートを取り出した。
何の記載も刻印もないが、オリアーナに見せてもらったままの大きさと形をした薄い金属板だ。
「先に…それでも問題なければその方法でお願いしたいです」
「ほんのちょっぴりでいいですからね! 付いてるか付いてないかくらいでも大丈夫ですから」
右手の手袋を外し、上着の内側から取り出した短剣の刃に右手人差し指を軽く滑らせて指先に傷をつけ、ケイティから渡されたプレート表面にその指を押し当てた。
血の赤さが目立つプレートを、ケイティがエリィから取り上げると、台座の横スリット部分に入れ込み、にこっと笑顔を浮かべる。
「これで中で知らない間にぐっさり何て事はありませんからね! 安心して穴に手を入れてください」
ぐっさりというのは些か大げさな表現なのだろうが、にこにこと満面の笑顔で言われると、苦笑するしかない。
指の傷を収納から取り出したポーションで治してから、指示に従って台座の穴部分に手を入れると、ゥィィーーンとどこか機械的な音と共に光が漏れ出してきた。
まるで前世のコピー機とかスキャン装置のようだ。
洩れた光はすぐ消えたが、その後に続いた小さな金属音も収まると、ようやっとギルド証が完成したようだ。
ケイティが装置からプレートを取り出しエリィに差し出す。
「後は全てこのプレートを装置に入れたりするだけで、残りの確認や手続きは完了します。あ、よかったらこの革紐も使ってください、後で自分の好きなものに交換してくださいね」
プレートを出した引き出しから、茶色の細い革ひもを取り出して、それもエリィに差し出した。
プレートと革紐、どちらも受け取ると、プレートの端にある穴に通して首から下げる。
「ありがとうございます」
「うふ、それじゃ次は確認検定ですね、すぐに向かう…じゃあなくって! 向かわれますか?」
「…はい」
ケイティはプレートや革紐の入った所とは別の引き出しから書類を取り出し、眼鏡を押さえながら読んでいる。
「じゃあこのままここで、手続き書類なんかも作っちゃいましょうか。従魔さんや猫ちゃんと離れる時間は少ないほうがいいですもんね」
離れる時間が短かろうが長かろうが大差はないが、ここで言う必要もないので首肯する。
「それじゃちょっとこちらに」
書類を胸に抱え込んで、更に奥の一室へと案内された。
そこには机や椅子だけでなく、何か入った籠、羽ペンにインク壷等が雑然と置かれていて、入った瞬間ケイティの口がへの字に曲がる。
「もう、ちゃんと片づけてっていっつも言ってるのに! なんで先輩達はみんなこうだらしないのよー!!」
どうやら職員が使用している一室らしい。見た所休憩室か何かなのだろう。
あちこちに好き放題に向く椅子を、ぶーぶー言いながらケイティが机に収めていくが、エリィの事を思い出したのか、ハタと動きを止めて、困ったような表情で振り向いた。
「ごめんね…じゃぁなくうう! すみません! こちらへどうぞ!」
もし彼女に耳と尻尾があったら、見事に萎れている事だろう。そんな様子が容易に浮かんで、エリィはそっと嘆息する。
「あの、他に職員の方も居ませんし、普段の口調で話していただいて構いません、見た目こんな子供に、そんな丁寧にされては、私の方が恐縮してしまいますし」
エリィの言葉に、ケイティは思わず天井を振り仰ぎ、書類で顔を覆うってしまった。
「……もうやだぁ、ごめんね、私全然慣れてなくって。今日は村マスも村サブもいないから、先輩達さぼっちゃって。まだ新人の私が担当になっちゃったのよー。ほんっとごめんね!」
今度はガバリと頭を下げるケイティに、口角を上げて首を振る。
「問題ありません」
「…うん、じゃあ今だけお言葉に甘えていい? 表に出たらちゃんと戻すから」
「はい」
「えへ、ありがとうね! それじゃ従魔さんも猫ちゃんも、一緒に部屋に入って入って。エリィちゃんはこっちの椅子に座ってー」
途端の『ちゃん呼び』に少々面食らったが、話し方でストレスを溜められるよりは良いだろう。
ケイティもエリィの向かいに座り、書類を広げると転がっていた羽ペンを拾い上げる。
「エリィちゃんは何で検定受けようって思ってるの? 隊長…ティゼルト隊長から簡単な伝言は届いてるんだけど、テイマーで薬師でって聞いてるのよね、もしかしてさっきのポーションは自作だったりする?」
ザイード経由で伝えられたのだろうオリアーナの伝言だが、そこまで伝えてくれているとは思ってなかった。
「従魔がいるのなら、テイマーって言ってもいいんでしょうか…? 自分ではわからないんですけど。
ポーションは自分で作ったものではありますけど、まだまだ等級が低くて」
「そうなの? あの治り方なら粗悪品って事はないと思ったんだけどなー」
「低いですよ、まだ2等級しか作れません」
「……」
ケイティが目を丸くして固まっている。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)