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6話 治癒魔法は疲れる

 そんな世界にエリィこと《藤御堂絵里》は転生させられ、いや帰還させられた。

 問題はそれだけに留まらないが、現状まず確認したいことがエリィにはあった。


「アレク、ここでなら治癒魔法使える? 出してからダメでした~なんて嫌だから」

「せやな、小屋ン中で大きな魔法は使うたことなかったもんな。ここには浄化石があるからいけるやろ。瘴気だけやのうて、魔素もエリィには見えてるやろ?」

「ん、まぁ見えてはいるけど、魔法毎の必要魔素なんてまだわかってないから、その判断が難しかったのよ。何より自分の魔核が小さいのは自覚してるし」

「そこはごめんやで、魔法より剣術とか創薬とかのほうがすぐ必要になると思てな、そっち優先してしもた結果やな。魔核の方はこれからの旅して戻していくしかないからな、焦らずゆっくりや」


 さて、どこに負傷したグリフォンを出そうかと、小屋内部を見回す。

 あるものと言えば照明とその操作石、机に椅子、本棚、収納箪笥、ベッド、室内の四隅には浄化石と結界石がセットでそれぞれ置かれている。今更気づいたが机の横には大きな木箱もあるようだ。ただ設置されているベッドには布団の類はなかったため、戦闘訓練時に狩った魔物の毛皮をまるっと敷いて布団代わりにしている。

 室内に浄化及び結界石が設置されているおかげで室内はとてもきれいな状態だ。


(まぁ、ベッドに出すのが順当か)


 確認したいことはしたと、収納してきたグリフォンをそこへ出す。


 無事生きたまま運ぶことに成功していたようで、か細いながらも呼吸はまだ続いている。

 すぐさまエリィは傍らに膝をつき、両手を未だ流血している腹部にかざす。

 先ほどと違い、手から発せられる光は眩しい程だ。


(イメージして、まずは血を止めて、それから各組織の再生を)


 ゆっくりと腹部の傷が逆再生映像のように消えていく。

 体毛に飛び散っていた血痕だけが、そこに傷があったと主張しているのがどうにも違和感を伴うが、無事快癒できたことを確認し魔力の流れを止めた。

 呼吸が穏やかになったグリフォンに対し、エリィの方はと言えば肩で息をしながら汗だくになっていた。


「初治癒魔法、完璧やん!」


 アレクがぐったりと床に座り込んでいるエリィの横でパチパチと手を叩いている。手というか肉球だが。


 はしゃぐほどではないが陽気さを振りまくアレクとは対極に、エリィはじっとりと険しい空気をアレクに向けた。

 向けられる気配のあまりの険しさに、叩いていた手と呼吸を一瞬止める。


「――え? あ? なんか機嫌悪い?」


 剣呑な空気のままアレクから顔を外しゆっくりと上体を倒すと、そのままグリフォンの横に突っ伏した。


「ないわぁ、これはないわぁ……生活魔法以外は封印だわ、ガチできついんだけど、魔法ってこんなに疲れるものなのね」


 突っ伏したまま低く呻くように呟くエリィの頭に、そっと右手を乗せ宥める様に肉球でポンポンしてやる。


「あ~、そのなんや、本来はそないにしんどいモンやあらへんねんけどな、何しろエリィは元々魔法のエキスパートいうても過言やあらへんかったし所持魔力も膨大やった、使われへん魔法もほぼなかったしな。ただやっぱしな、エリィの魔核が今はちっちゃすぎてな……はよ手に入れに行こな、したら身体も多分大きうなるさかい」


 体勢を変えないまま盛大に溜息をついてから、よっこらせとばかりに起き上がる。


「なんだっけ、破片を取り戻さないといけないんだっけ」


 そうそうとアレクが頷いているのを横顔で流し見しつつ零す。


「はぁ、何だって私がこんな面倒に巻き込まれないといけないんだかなぁ、言っても仕方ないってわかってるけどさ」

「それはエリィがエリスフェラード様やから?」

「いや、そこで疑問形なのは突っ込んでいい? まぁフェラードでもジェラートでも何でもいいんだけどさ、本人に全く記憶がないのに旅だ何だと言われてもねぇ。前世の記憶なら残ってるけど、前々世だなんて流石にね?」



 沈黙が室内を重く満たし、アレクが言葉もなく項垂れる。


「せやんな……エリィは別の世界で生きて、そっちの価値観のほうが重いのに、今更こっちの世界であれこれしろ言われても納得できへんよな、ほんまごめん」


 急にずしりと重暗くなったアレクにギョっとして身を引く。


「わかってんねん、せやけどもうエリィにしか頼られへんのや、何度でも頭下げるさかい、お願いや……いや、アカン、こないな言い方…せや、エリィがここで生きとってくれたら、それだけでええんや。ただ欠片探すのだけは頼んでええやろか、それがないとエリィも困ると思うよって」


 アレクがごめんネコ状態になって床に頭を擦り付けている。

 その姿を見て何故か涙が出そうになるのを、唇をキュっとかみしめて耐えた。ふといつの間にか握りしめていた自分の手を、ゆっくりと開いて自分を落ち着かせる。


「こっちこそごめん、こっちの世界に連れて来られてから今までアレクには良くしてもらったのにね」


 アレクが擦り付けていた頭を少し上げ、エリィを見上げる。その瞳は不安と申し訳なさで潤んでいた。

 強張ったような身体の力を抜いてみれば、ふっと苦笑が洩れる。


「そう言えば色々とやる事満載過ぎて、きちんとやるやらないの返事もしてなかったものね。自分自身も全てが不確かだし、この世界の事もこれから知っていかないといけないから『任せて!』なんて断言できないけど……できる範囲だけでなら?」


 潤んでいたアレクの両目から雫が零れる。


「だけど基本面倒くさがりだし、文句言いだし、これからも絶対愚痴ったりする自信しかないから、そこは大目に見てよね」


 締まらないなぁと鼻先をポリポリしつつ顔をそむける。仮面のせいで見えているのは口元だけなのに、耳先が赤くなっているような気がして仕方ない。

 そんなエリィの様子に、アレクは今一度頭を下げた。


ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。


至らぬ点ばかりのお目汚しで申し訳ない限りですが、いつかは皆様の暇つぶしくらいになれればいいなと思っております!


リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。

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