59話 トクス村近郊で
目的地が見えてきたとはいえ、まだ距離がある為にもう1夜野宿する事になった。
ナゴッツ村の周辺と街道は、毎日自警団が巡回しているし、湧く魔物も小型で弱くほぼ駆逐されているようなのだが、これから向かうトクス村の周辺は中型も居り、小型魔物も湧きが早く駆除が間に合わない事もあるそうだ。
その為魔物除けを設置したのだが、それにも関わらず夜の間に数匹での襲撃を1度受けた。
オリアーナの持っていた魔物除けは、以前テント近くで見かけたものと変わらない構造で、中に入れてある草団子もかなり強烈な臭いを発していたが、忌避対象がクデイ・チェボーとか言う中型の魔物が主体らしく、小物には効果がやや薄いという話だった。
エリィが結界石を使うと言ったのだが、オリアーナとしては夜の襲撃はご褒美みたいなモノだから、魔物除けで良いと言われてしまった。
かなり腕の立つオリアーナだからこその言だろう。
ちなみにこの近辺で魔物除けを抜けてくる小型魔物はネズミ型がほとんどだそうで、実際襲撃してきたのも深緑色の体毛を持つネズミだった。
名はクデイ・マズルと言うらしいが、『緑ネズミ』と自動翻訳される事になるだろう。そして小型とは言うが、実際には体長50㎝程、尻尾の先まで入れれば1m前後という、エリィとしては『どこが小型なんだ!?』と声を大にして問い詰めたい大きさだった。
あっさりと討滅した後は『美味しいんだよ!!』と言いつつ、嬉々として解体をするオリアーナの手伝いをせざるを得なくなり、エリィとしては良くぞリバースしなかったと自分を褒めてやりたいと心底思った。
何故なら『解体』も「処理』も、何から何まで収納様が勝手にやってくれるモノで、これまでエリィは実際に行ったことはないからだ。
良い経験になったとは思うが、出来れば収納様任せがいいなと心で泣くエリィだった。
翌朝変わりなく出立した後、荷台の上で本日も3本の剣を修復し終えてぐったりと寝そべるエリィに、オリアーナが声をかける。
「エリィ、本当に助かった。まさか9本も修復してもらえるなんてな。しっかりと礼はさせてもらうから覚悟しててくれよ?」
「ぁ~、こっちが練習させてもらってますし、これだけお世話になってるんですから、お礼というならこっちがしないといけないくらいですよ?」
行儀悪いなと思いながらも、疲労感で身を起こすのもきつい状態だから許してもらおう。
そんなエリィにニヤリと少々悪い笑みを向けてから、進む前方へとオリアーナは視線を移した。
「トクスでの費用は私が持つと言っただろう? 約束は守ってもらうからな」
暫く前方に見える目的地の影を見てから、オリアーナは荷車を引くセラへと視線を移し小さく頭を下げた。
「今日中にはトクスに着く。いつもなら後数日はかかっていたのに、セラのおかげだ、随分早く着くことが出来る。本当にありがとう」
「問題ない」
オリアーナは、律儀に返事をするセラに笑みを深くする。
「着いたらまずギルドへ案内するよ。そこでエリィが手続してる間に、私は一度離れて報告と残りの修理依頼をしてくる。それが終われば私の予定はないから合流するとしようか。買い物なんかもあるだろう? 案内は任せてくれ」
オリアーナの笑顔に釣られたのか、エリィも口角を上げて頷く。
目的地の影が近づいてくると、想定より大きそうだと思った理由が見えてきた。
村の手前から木製のかなり高い壁が建造途中になっている。
村というには物々しい光景に、エリィが身を起こす。
それに気づいたオリアーナが苦笑を交えた。
「驚くよな……村じゃないだろうって言いたくなる気持ちはわかるよ。セラ、すまないが止まってくれるか?」
オリアーナが荷台から降り、街道から逸れるようにセラに手招きをする。
「まだ建設してるところだからな、人が増えてくるんだ。人影が見えないうちにこっちに逸れて進もう」
荷車の上で身を起こして周囲を眺めるエリィが、コテリと小首を傾げる。
「ぇ…でも……門は街道にあるんじゃ…?」
「通常門はな。こっちにギルド門があるんだよ」
「ギルド門?」
「そうだな…例えば盗賊なんかをギルド依頼で捕まえたりとか、エリィのように従魔連れだったりとかする場合に使う、ギルドに直結する門て言えばわかるか?」
「……直結…」
「普通の村民が使う場所にそういうのって、ただの一般人からしたら怖いモノだろう?」
「あぁ、なるほど。つまり騒動を避けるために分けてるんですね」
「そうそう、軍用門も別にあるぞ」
門が分けられている理由はわかったが、村にあんな壁を設置するのは何故だろう? 考えてもわからない事は聞いてしまうとしよう。
「門の事はわかりました。ですけど、あんな壁…ここは普通の村なんですよね?」
オリアーナが問いかけに、足を止めて眉根を寄せ考え込む。
「そう言えば、この国の事は話してなかったな…まぁ門までまだ距離はある、進みながら話そう」
再び足を進め始めたオリアーナに従って、エリィ達を乗せた荷車を引くセラも進み始めた。
「この国はゴルドラーデン王国という。5年ほど前だったか、ここから西方向にあるザナド大森林で瘴気が溢れた、所謂スタンピードだな。それ以降、魔の森が広がり続けてるんだ。
元々ここはザナド大森林からは遠い場所だったんだが、広がりつつある魔の領域に、いくつか村や町が飲み込まれ、いつの間にか最前線ではないが、前線拠点のようになってしまってな…。
瘴気は魔物を増やし勢いづかせると言われているが、実際こうして前線に身を置けば、それは間違ってないんじゃないかって思うよ。
まぁ、瘴気と魔物の関連性とか、他にも色々なことは経験的に言われてるだけで、本当のところはわかっていない。この国にも研究機関はあるようだが、何の発表もないし進展はないんだろうな。
あぁ、すまない、何か話が逸れてしまったな…まぁ、そんな訳で、今も村とは言われているが、実情は前線拠点と言って差し支えない。ここからもっと西になれば更に物々しくなるがな」
「最前線じゃなくても影響が出てるんですか? だから壁?」
「そうだ。小型の魔物ならどこにでもいるし、大抵は巡回とかで対処できるんだが、この辺はもう中型の魔物も目撃されたりしているから、村をぐるりと囲む壁の外側に、もう1枚壁を作ってるところなのさ。
だけど、素材調達が間に合わなくて、『ないよりはマシ』とあまり丈夫とは言えない近場の木を伐採して作ってる」
そこまで聞いてエリィは考え込む。
アレクからはこの世界を救ってくれ等とは言われていない。だけどそれなら何のために自分は転生させられたのだ?
転生神は何か言っていなかったのだろうか……思い出せない自分に歯噛みするしかなかった。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)