57話 衝撃のオリアーナ
近づいてみれば、オリアーナ以外の全員――エリィ、アレク、セラ、ムゥの4名が火を囲んでいた。
エリィは専ら焼く方に専念しているが、他3名がせっせと食べている光景に、オリアーナの進みが止まる。
スライムのムゥが、腕のように身体の一部を細く伸ばし、器用に焼けた肉串から肉を抜き落として、アレクとセラに渡している。ムゥ自身はというと、枝ごと一飲みにしていて、それがシュワワ~っと消化される様子が透明な体表越しに見えていた。
止まってじーっと見ているオリアーナに気づいたエリィが、声をかける。
「オリアーナさん、そんなところで止まってないで、こっちに座って食べてください」
「ぇ…ぁあ、うん」
四つん這いから立ち上がってエリィの隣に腰を下ろした。
香ばしい香りを漂わせる薄切り魔物肉が、エリィから『どうぞ』と差し出される。言われるままパンに挟んでから齧れば、硬く味気なかったパンが御馳走に早変わりした。
「ぅ、うまいな」
「まだ調味料が手に入ってないので、少々残念なお味のままですけどね」
調屯地で色々と物色した折に、調味料もなかったわけではない。しかし数年放置されていたとなれば、手に取るのは躊躇われたのだ。そして先だって後にしたナゴッツ村では買い物をする暇もなく出発したので、これから向かうギルドのある村とやらに、期待をかける事にする。
オリアーナは赤茶色の柔らかく波打つ髪が印象的な、戦いに身を置く人物には見えない品のある顔立ちの細身美人だが、自警団に関わっている事からも察する事が出来るように、かなり沢山食べるようだ。所謂、瘦せの大食いってやつだろう。体力勝負なところもあるだろうから、当然と言えば当然だ。
しかし村の食事では必要最低限しか食べられなかったのかもしれない。
挟むパンが無くなっても、エリィが渡せば渡した分だけしっかり食している。
収納内に保管してあった串代わりの枝が無くなる頃になって、オリアーナがハタと自分の目の前に山積みにされた使用済み串に気づくと、途端に顔を真っ赤にした。
「うわわわ…すまない! こんなに食べるつもりは…どうしよう…かなり良い肉だったし、そうだ、お金を…」
わたわたと自分の懐から財布代わりの巾着を取り出したオリアーナに、エリィが首を横に振る。
「私もスープやパン、宿泊費なんかも払えてませんから」
「払わなくていいし、かかってる額に差がありすぎて、全く釣り合いが取れてない」
ぶっちゃけ肉は道中で狩ったものだし、解体も収納へインするだけの簡単なお仕事で、手間はかかっていない。
鑑定スキルで見た所、どれも良いお値段はしているようだが、売るにしても今の所欲しいものと言えば調味料くらいだろうか。後は衣服の修復に必要な糸素材等だが、これは贅沢品に分類されるのかどうなのか…。
それによって必要金額は変わるわけだが、それにした所で、急ぎで必要という訳でもない。
時間経過設定にしてあるから、裂かれたローブもそろそろ修復が完了していると思われるので、今後用としてしか必要性がないのだ。
確かにお金は必要だが、今天秤にかけるとしたら…と、荷車に方へエリィは顔を向けた。
荷車に乗せられた武具や農具、刃毀れがあったりヒビが入ってたりしているので、廃棄か修理に持っていくのだろうと思われるソレ。それらを見てエリィがフッと口角を上げる。
「オリアーナさん、荷車に乗せてる道具類…」
エリィに言われてオリアーナも荷車に顔を向けた。
「あぁ、ナゴッツには鍛冶が出来る者がいないんだ。だからトクスに行くときについでに持って行くようにしてるんだよ。トクスでなら修理ができるからな」
「なるほど、修理の方だったんですね。あの、だったらお肉代の代わりに少し修復させてもらえませんか?」
エリィの表情は口元でしか判断できないが、とても良い笑顔をしているのはオリアーナにもわかる。しかし、言葉の意味がオリアーナには理解できなかった。
「………は?」
「「………」」
「えっと…だから練習させてもらえたら嬉しいなぁなんて…」
「待て、いや、待ってくれ…エリィ……確認したいんだが」
「はい?」
「魔力持ちでテイマーで、更に薬師であるだけじゃなく鍛冶師でもあるっていうのか!?」
エリィは人差し指の先を唇に押し当てて、ん~と唸りつつ首を微かに傾ける。
「……そうじゃないと思うんですけど、そうなのかしら…まぁ、そんなのも居るってことで良いじゃないですか」
「良い訳ないだろう」
即答されて、エリィがムグっと言葉に詰まる。
「そ…そんな細かい事良いじゃないですか! ね?」
「『ね?』じゃない。確かに多彩な奴はいるが、普通はそこまで多岐に渡ったりしない。エリィは能力の方向性がバラバラすぎてだな…」
「じゃあ多彩で多岐な奴に初邂逅って事で良しにしましょう! そうしましょう! それでですね、修復なんですけど実は数がまだこなせないんですよ、すぐ疲れちゃって。だけど機会があれば練度上げにやっておきたいのですけど……ダメですか?」
煙に巻くかのように矢継ぎ早に言葉を重ねたうえで、エリィはお願いポーズをしてみる。
実の所『スキル』は謎能力だ。
魔力や魔素を使ってなさそうなのに、モノや素材があれば、それこそ魔法のように作ったり直したりできる。ただ、生産系スキルだからなのかはわからないが、エリィの場合数回行使したら疲労感に襲われるので、もしかしたら体力を使っているのかもしれない。もしそうならエリィにとっては、なかなか致命的ではあるが、実際には何も判明しておらず、謎が深まるばかりな能力なのだ。
ちなみにだが、鑑定や探索等は常時展開しても、今は問題がない。
つくづく謎能力ではあるが、魔法を使うことが難しい現状では主力能力だ。
そんな主力能力ではあるが、使用に制限がかかったり、色々と不便であるのは確かだが、何度でも感謝しよう。
――気前よく膨大なチート能力をくれた転生神様、ありがとう。
「「………」」
暫くお見合いが続いていたが、先に白旗を上げたのはオリアーナだった。
「はぁ……わかった」
片手で顔を覆って項垂れていたオリアーナだったが、『ただし』と付け加えて顔を上げ、エリィを困惑交じりに睥睨する。
「無理はしない事、後、私から渡すものは、必ず受け取る事。トクスでかかる費用は私負担」
「えええええぇぇぇぇぇ……」
「異論は認めない、いいな?」
「……ぅ」
オリアーナは『わかったな?』と更に念押ししてニヤリと笑った。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)