56話 オリアーナ、白銀と邂逅す
(どうしてこうなったんだろう……なんてテンプレの突っ込みしたとしても、私は悪くない)
武具や農具を満載した荷車を引くオリアーナに、買ったパンをエリィが手に持って食べさせていた。ついでにアレクとムゥも荷車に乗っている。
パンは素朴と言えば聞こえはいいが、粉と塩と水のみで作られたとても簡素なもので、かなり硬い。
オリアーナがパンを咀嚼し飲み込んだのを確認すると、すかさずもう片方の手に持った水筒を差し出した。
「ありがとう、エリィ私はもういいよ。後はエリィは食べてしまうといい」
荷車を引きながら笑顔で言うが、それほど食べる事ができていない。
それと言うのも身長差という問題が大きかった。エリィの持つパンを食べようとすれば、成人人族女性であるオリアーナは、かなり屈まないといけない。その上硬いパンを噛み切るには、どうしても力が必要で、その度にエリィが全身で引っ張る、足が止まる…を繰り返さざるを得なかったのだ。
(どうしたものかしらね…もういっか…)
片手にパン、もう片手に水筒を持ち、それぞれを暫し眺めてから、エリィはセラに呼びかけた。
【セラ、朝食は済んだ?】
【主殿如何した? 食事は問題ないが何かあったか?】
【セラ、おはようさんやで~】
【ムゥ、ガラガラ引っ張られてるの~ 楽しい~】
【ムゥ殿が楽しそうなのはわかったが、状況が…わからぬのだが…】
【ですよね~。まぁ何はともあれ、こっちに合流してくれると助かるかな~と…良いかしら?】
【ちょ、エリィ何考えてんねや!? 人族が居るっちゅうのにセラ呼ぶて…】
【いつまでもこそこそしてたくないって言ったでしょ?】
【それは同意するけど…せやかてタイミングっちゅうモンがあるやろ】
【彼女から悪意は感じないし、多分良い人に分類されると思うわよ?】
【ん~…セラ見たら、変わるかもしれへんで?】
【その時はその時よ。で、また荷車案件なんだけど、こっちに合流お願いしてもいい?】
【承知した】
念話会議がまとまって、ほっと息を吐くと、エリィは荷車の引手に手をかけてオリアーナに話しかける。
「オリアーナさん、止まって」
「ん? どうした?」
オリアーナが前屈みになっていた体勢をやめて、エリィの方へと顔を向けた。
そこへバサバサと何かが羽ばたく音が微かに届く。
まだ距離があるというのに、オリアーナはすぐさま腰の剣に手をかけ引き抜き、正確に羽音のする方向を睨み上げた。
「えぇぇぇ!?」
隙あらば飛び掛からんと、体勢を低くし、足に力を籠める様子に、エリィが慌てて手を伸ばして止める。
「待って待ってぇぇぇ!」
「なっ! エリィ下がっていろ! かなりの大物が近づいてきてる、隠れてるんだ!」
エリィは『あちゃぁ』と天を仰ぐが、その間にもセラは近づいてきてるので、まずはオリアーナに戦闘態勢を解除してもらわねばならない。
言葉をかけながら、エリィはオリアーナの右手を物理的に押さえた。
「待って、オリアーナさん。近づいてきてる魔物は私の仲間なんです!」
「「………」」
身を低くし、剣を引き構えた姿勢のままのオリアーナが、すぐ横で自分の手ごと剣を押さえるエリィへと視線を向けて固まる。
「……はい?」
それに応えるように大きく頷くエリィ。
そこへタイミング…良く? 悪く? セラが上空から降りて来た所で、砂埃が舞い上がった。
オリアーナの右手を押さえながら、エリィが大きな声で紹介する。
「セラ! セラって言います! 私の仲間です!」
二人固まったまま、砂埃が徐々に晴れていく。
そして視線の先に現れたのは、翼を大きく広げ、陽の光を受けてキラキラと輝く白銀のグリフォン。
オリアーナは自分よりも大きなグリフォンに身を固くするが、剣を持つ手はエリィに押さえられており、身動きがままならない。
もちろん身体の小さなエリィが押さえたところで、大した抑止力はないのだが、オリアーナにとってエリィは庇護すべき対象となっているのだろう、効果は覿面だった。
「グリフォンです。セラ、御挨拶してくれる?」
魔物に挨拶しろとはこれ如何に――固まったまま目を丸くするオリアーナに、更なる衝撃が襲い掛かる。
「ふむ、主殿が言うならば従おう。エリィ殿を主と仰ぐ者だ。よろしく頼む」
魔物が人語を解するという事実が余程衝撃的だったのか、オリアーナの膝から力が抜け、その場にへたり込んだ。
「ぁ…ありえないだろおおおおおおお!!」
ガックリと力の抜けたオリアーナは、へたり込んだ場所にそのまま座り込んでいた。そんなオリアーナを労わる様に、エリィが甲斐甲斐しく水を渡したり、背を撫でたりしている。
「……とりあえず危険はないんだな?」
「はい、ありません」
「それで、『セラ』と言ったか? エリィの従魔で間違いないんだな?」
「はい(多分…テイムした覚えが欠片もないけどね!)」
心の中で元気に盛大な突っ込みを入れているエリィとは対照的に、オリアーナは疲労が隠せず項垂れていた。
なし崩しに休憩タイムとなったので、パンもオリアーナに渡す。
パンを持たされて座り込んだまま動かないオリアーナと荷車は道に置いたまま、そのすぐ横の草むらでエリィは火を熾し、いつもの準備をし始める。
結界石はオリアーナもいる事だし割愛するとして、収納から肉と枝を取り出し、手慣れた様子でいつもより薄めに切り分け、肉串を作っていく。作った端から火の近くに刺しておけば、そのうち肉の焼ける香ばしい匂いが流れ始めた。
鼻腔を擽る香ばしい匂いに、オリアーナの意識が覚醒したようで、ピクリと身じろぎしたかと思うと頭を上げた。
それに気づいたエリィが、焼けた肉串を掲げながら手招きをする。
「戻りましたね。良かったら如何ですか? これ魔物肉ですけど、パンに挟めるように少し薄切りにしてます。パンだけじゃオリアーナさんには足りないんじゃないかと思うんですけど」
「……ァ、ハイ、イタダキマス」
オリアーナは座り込んでいた体勢から身を捻り、四つん這いでエリィ達の方へと近づいて行った。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)