55話 ナゴッツで一泊
モフ成分不足が続く…
食事を終えていたので、一旦本日の宿泊所となる自警団詰所へと、オリアーナと向かう事になった。
「すまない、ナゴッツではギルド登録できなくてな。今日中にモナハレの所にいって引継ぎしておくから、明日はトクス村に行こう」
「モナハレ?」
「あぁ、ナゴッツの自警団長だよ。腰痛が悪化してな、それで私が代理みたいになっていたんだ」
「じゃあここを離れる訳にいかないのではないですか?」
「元々報告に一度行かないといけなかったんだよ。それがついつい延びてただけさ。だからエリィが気にする事じゃない」
オリアーナの笑顔が笑顔が、若干引きつって見えるのは決して気のせいではないと思う。
それが証拠にじっと見つめていれば、彼女の目線が頼りなく泳いだ。
「あ~…関わりになりたくない、だけど関わらないじゃすまないという相手がトクスに居るんだよ。だから日延べしてしまってたんだけどな」
「やっぱり明日は私一人で行った方が良いのでは…」
「いや、置いていかれたらまた日延べしてしまうに決まってるからな。こっちが頼む、同行してくれ」
照れくさそうに左手で後頭部を掻く仕草をしながら笑うオリアーナに、エリィが頷きで返事をしている間に自警団詰所に到着していた。
村の出入り口から少し村内に入った所にある、石造りの建物がそれだ。
詰所横、出入り口直ぐにある建物は、門番をしている自警団員の休憩所になっているようで、丁度交代の時間なのだろう、見覚えのある顔が休憩所から出てきた。
「あれ、団長。もう用事は終わったのか?」
「だ~か~ら~、私は団長じゃないって言ってるだろう? モナハレが泣くぞ」
「モナハレの爺さんは、そろそろ引退させてやらねぇといかんと思うんだが」
「次期団長については団で話し合ってくれ。あ、明日私はエリィと一緒にトクスに行ってくる」
「む…」
眉根を寄せて厳めしい表情になっているヤッシュの眉間を、オリアーナが指でつつく。
「ヤッシュ…お前、元の顔が強面なんだから表情くらい和らげろって何度も言ってるだろう? エリィが怯えてしまうじゃないか」
「すまん」
やれやれと肩を竦めつつ、エリィの背に軽く手を添えて、オリアーナが詰所の中へ入るように促してきた。
ヤッシュに軽く会釈してから、扉を開けて中へと入った。
誰もいなかったのだろう、内部はひんやりとして少々寒い。
入ってすぐ、オリアーナがセラミックファンヒーターのような形をしたものを起動させると、ほんのりと内部の温度が温んできた。
「この奥に間借りしてるんだ。エリィも隣の仮眠室で一泊な。猫や従魔もいる事だし、仮眠室で一人の方がいいだろうと思ったんだが、一人だと怖いとかあるか?」
「いえ、大丈夫です。お手数おかけして済みません」
「生存者の保護も立派に自警団の仕事なんだから、そんなに恐縮しないでくれ」
暖房魔具の横に簡単な調理台があり、オリアーナはそこで湯を沸かしている。
「あ、それと気になってたんだが、エリィはお金の事はわかるんだよな? 技術料がどうとか言ってたから大丈夫だとは思うが、念のために聞いておく」
「生きていくのにお金が必要だと言うのは知っていますが、お金を見た事はないし、数え方も知りません」
オリアーナがコップを2つ台において、湯の沸き加減をみながら答えた。
「そうか、じゃあ今夜お金の勘定の仕方とか教えるよ。他にも何か聞いておきたいことがあったら、その時に聞いてくれ」
「はい、ありがとうございます」
「本当にエリィは礼儀正しいな。それにマナーもある程度できている」
「そうなんですか? 自分の事はよくわかりません」
「自分の事なんてそう言うモノかもしれないな。そうだ、ギルド員になったら貴族相手の仕事がくることもあるから、マナーについても最低限だけでも教えておこうか」
「はい、お願いします」
「今夜も講義が目白押しだな」
ハーブティーだろうか、嗅いだことのない香りがするお茶の入ったコップを、オリアーナが渡してきた。
「ナーゴラの花茶だ。田舎の茶だから素朴な味だがな。貴重な甘味だ」
「ありがとうございます」
受け取ったお茶には乾燥した花なのだろう、赤いものが浮かんでいた。香りは何とも微妙な香りなのだが、口にしてみれば確かに微かな甘みを感じる。
「もしかしてナーゴラって…」
「あぁ、ナゴッツの名の由来になった花らしいぞ。もう少し暖かくなったらそこここに花が咲いて、なかなか綺麗なもんだぞ」
「群生してるんですか?」
エリィの問いかけにオリアーナが頷く。
「さて、飲み終わったら仮眠室の方へ案内しよう。私はモナハレの所に先に行ってくるから、戻ったら晩飯にして講義だな」
「はい」
その夜お金とマナー以外にも、色々と教えて貰うことが出来た。
もちろんまだまだ足りない事は多いだろうが、知識は多いに越した事はない。
ちなみにお金については単位は『エク』で1エクは鉄平貨1枚。鉄平貨10枚で鉄板貨1枚に相当する。その後に銅平貨、銅板貨、銀平貨、銀板貨、金、霊銀と続くようだが、恐らく零銀は見る機会もないだろう。
貨幣価値としてはわからないが、仮に1鉄平貨を1円とすれば、霊銀平貨1枚で1億円になってしまう計算になるからだ。
ただ10進法で助かったとは心底思った。
マナーについては主に貴族相手の話で、貴族には紹介されるまでは口を開かないとか、ラノベ知識でどうにかなる程度の話だった…が、まぁその話は一旦横に置くとしよう。何しろ当面貴族と関わる予定などないのだから。
一夜明けてみれば、本日も快晴。
昨夜は同室にされたらどうしようと思ったが、仮眠室を1つ開けてくれたのでほっと胸を撫で下ろした。早々に身支度を整え、セラへの連絡も念話で済ませると、仮眠室を出て昨日お茶を頂いたスペースへ向かう。
外から声が聞こえるので、自警団員達はここを使うのを控えてくれているのかもしれない。だとしたら申し訳ない事をしたなと、つい考え込んでしまった。
そうしてるうちにオリアーナが奥から出てくる。
「早いな」
声にハッと顔をあげると、ささっと向き直り一礼する。
「おはようございます。今日はお世話になります」
「礼儀正しすぎて涙が出てくるよ」
眉根を下げて笑うオリアーナは、昨日の冒険者風装備ではなく、金属プレートを一部に使った兵士然とした装いをしていた。
エリィが見ていることに気づいたのか、オリアーナは自分を見下ろす。
「やっぱり似合わないか? 自分でも昨日の装備の方がしっくりくるんだがな…今日は仕方ないのさ」
苦笑するオリアーナに促されて、詰所の建物を出ると、数人の自警団員が口々に挨拶してくれる。
「おはようございます、団長」
「おっはよーさん」
「お嬢ちゃんもおはよう」
「団長、今日はとうとうトクスに出頭っすか?」
半分揶揄いも混じった挨拶に、一々答えながら歩くオリアーナの後をついていく。
「朝食はこの先のパン屋で何か買っていこう」
指さされる通りの先を見ながら、エリィはきゅっと唇を噛みしめ、念願の冒険者登録に緩みそうになる顔を戒めていた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)