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51話 立て板に水 その1

 



 この世界に国というものはあるのだろうか…もしあるとするなら、エリィが今いる辺りは恐らく辺境。

 来た道をずっと戻ればハレマス調屯地――調査団駐屯地、つまりまだ開拓をして領土を広げようとしていたという事が想定できる。

 にもかかわらず、ケネスからの聞きかじりでしかないがドラゴン襲来とかいう災厄に見舞われ、放棄を余儀なくされた。

 その放棄地で、何者かが碌でもない事をしていたという事実は、また別の話として一旦横に置いておこう。


 そんな辺境の村だが、建物は石で作られていて、かなりしっかりとしている。

 ただ行き交う人は少なく、寂れた印象を受けてしまう。

 オリアーナに先導されて行きついたのは、1階部分が石造りで、2階部分は木造の、他と比べてやや大きな2階建ての建物だ。特に装飾などもない扉を、オリアーナが片手で開ける。


「こんにちは、タルマさん」


 扉の奥は食堂と言うに相応しく、いくつかのテーブルに椅子。奥に壁で仕切られた厨房前にはカウンターがあり、そこにも客席がある。

 その厨房の方から一人の女性がひょいと顔を出した。


「おや、もう来たのかい? すまないね、もう少し待っとくれ。もうちーっとばかり煮込んでから出したいんだよ」

「あぁ、ゆっくりしてくれ、急な頼み事ですまない」


 顔を出した女性はそのまま厨房に引っ込み、何やら作業をしながらオリアーナと会話している。

 オリアーナは扉を閉めると、ムゥを抱え且つ後ろにアレクを引き連れたエリィを、カウンターの方へと案内した。

 カウンターの椅子はかなり高く、エリィが自分でよじ登ることが出来そうになくて考え込んでいると、オリアーナが椅子へと抱え上げて座らせてくれる。オリアーナ自身はエリィの隣の席に座り、片肘をついている。


「ぁ、ぁりがと」

「いや、こっちの都合ですまないな、カウンターの方が厨房に近くて話しやすいんだ」

「おや、その子かい?」


 ふくよかな体形の、白髪交じりの茶髪を後ろで団子にまとめた、穏やかそうな女性が器をもって厨房から出てきた。

 持っていた器をエリィの前に置くと、スプーンを持ったまま一旦奥へ戻り、小ぶりな木製のスプーンに取り換えて持ってきた。


「口に会うと良いんだけどねぇ。ミガロ芋の煮込み汁だよ。あったまるから、先に食べとくれ」


 にこにことタルマと呼ばれた女性が料理を勧めてくる。

 湯気の立つ器には、断面が朱色がかった芋がゴロゴロと入っており、色添えだろうか、緑色が鮮やかな豆も一緒に白いスープに見え隠れしている。


(シチュー?…芋は朱色してるけど見た感じジャガイモっぽい。豆の方は枝豆かしら…芋と豆をミルクで煮込んだって所かな)


「いただきます」


 両手を合わせ軽く一礼しながら、食前の言葉を口にする。

 スプーンを手に取り、一掬いしてみると思ったよりもさらさらとしていて、シチューというよりミルクスープと言った方がしっくりくる。

 口に運ぼうとしたところで、オリアーナとタルマが目を丸くしているのが目に入った。


「……ぁの?」


 エリィが戸惑いがちにスプーンを置いて声をかけると、二人は笑いながら首を横に振っている。


「あぁ、ごめんよ、嬢ちゃんは良いところの子なのかねぇって、つい見ちゃってたねぇ」

「そのような言葉は馴染みがないが、とても礼儀正しく感じてしまってな、じっと見つめるなど不躾だった、すまない」

「そうそう、ちょっと話は変わるんだけど、その抱えてる子、嬢ちゃんの従魔かい? オリアーナ、スライムって何か食べさせた方が良いのかい? 後、下の子も…猫ちゃんよね」

「どうだろう、スライムは何でも食べると聞いた事はあるが、実際自分で飼った事はないからな…エリィ、その辺どうしたらいい?」


 エリィは自分の膝の上で大人しくしているムゥと、椅子の足元で丸くなっているアレクに顔を向けた。


【アレクとムゥはどうしたい? 私もまだ食べてないから味はわからないけど】

【ムゥは食べてみたいの! どんな味なのか楽しみなのぉ!】

【僕も味見しとこかなぁ、量は少のうてええで、足りへんかったら肉焼いたらええだけの事やしな】

【ムゥも味見だけで良い? それなら私と一緒で済ませられるし】

【うん! 主様ありがとなのぉ】


 念話会議が終わったので、エリィは顔を上げ、隣とカウンターを挟んで正面にいる二人の方をそれぞれ見る。


「あの、もし御迷惑でないなら、猫の分だけ、少し分けて頂いても良いでしょうか?」


 二人の表情がみるみる驚愕に彩られて行く。


「ェ…ェリィはもしや人族ではないのか…もしそうなら子ども扱いして済まなかった」

「あたしもだよ、てっきり小さな子供だと思っちゃって」


 二人の様子にエリィのほうが狼狽える。


【せやから子供らしゅうせぇって言うたやん】

【いや、どう頑張っても無理】

【どない言い訳する気なんよ…】

【何だか知らないけど、種族が違えば見た目なんてアテにならないって言うのは、ケネスもそんな事言ってたじゃない? それで押し切れば】

【いやいや、突っ込まれたらどう説明するん?】

【ふむ…他の種族の事を知らないって言うのは致命的かしらね】

【僕は他種族の事なんてよう知らんで】

【他種族ってなぁに? ムゥも知りたい~】

【セラは? セラは人間種の他の種族の事って知ってる?】

【済まない、俺が知ってると言えるのは人族と獣人族くらいだ。それもそんなに詳しいわけではない】

【そっか…じゃあ仕方ないわね。適当に作った設定で押し切るわ】


 以前ケネスに語って聞かせた、ラノベあるある適当設定を、エリィはここでも活用することに決めた。


「すみません、私は捨て子だったらしく、森の奥でお婆さんに拾われてここまで育ててもらったので、自分の事はほとんどわかりません」


 隣と前の二人の表情が、困惑から驚愕へと変わっていく。


「エリィと呼ばれて育ちましたが、その名前もお婆さんがくれたものなのか、それとも親が残したものなのかもわかりません。誕生日なんていうのも証札を作って初めて知ったくらいです。その証札もお婆さんが亡くなる時に、一人になったら森から出なさいと言われて、それに従った結果、偶然出会えた人に教えて貰って作ったくらいで…ごめんなさい、何もわからないんです……育ててもらったのに、お婆さんの名前さえ知らない…」


 流れるように作り話が紡ぎ出されて行く。

 まさに『立て板に水』である。

 エリィとしては作り切ってやったぞと、ドヤ顔で口角を上げているくらいなのだが、オリアーナとタルマはそうではなかった。

 決してお涙頂戴する為の設定ではなく、単に出来るだけボロが出ないようにと作った即席設定なのだが、オリアーナもタルマも、何故か薄っすらと目を潤ませている。


「……苦労したんだねぇ」

「まだ森の奥に生存者がいたとは、しかも保護の手が差し伸べられていなかったとは…何たる…」


 声を震わせる二人に、エリィが『ぇ』と小さく漏らして顔を上げる。


「そんな辛い話を……すまない、だが聞かねばならないんだ……私は…」

「ちょ、オリアーナ!? こんな子にまだ話を聞くって言うのかい!?」

「タルマもすまない…だが、それも私の仕事なんだ」

「こんな子が悪さなんてするはずないだろ!?」


 隣のカウンター席に座ったまま、膝の上で両手を握りしめ方を震わせているオリアーナと、そんなオリアーナを滂沱の涙を流しながら責めるタルマに、エリィの方が困惑に固まってしまった。


 

 


ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期投稿になるかと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価等して頂けましたら幸いです。とっても励みになります!


修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)

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