49話 厄介事ミサイル
【主様ぁ、これ、なぁに?】
【アレクさん、ムゥにも見せて】
【セラさん、それ、ムゥもやってみたい】
念話で会話が成立するとわかってからこっち、ムゥは疲れ知らずで全員を相手にお喋りしながら、うにょんうにょんと地面を這って進んでいる。
聞けばあの調屯地で捕まったときは、まだ生まれて間もなくの頃だったようで、それ以来外に出たことがないというのだから、好奇心が刺激されるのも仕方ない。実際まだ子供なのだろう…返事は良いのだが、いつの間にか姿が見えなくなっている。
マップとの連動は成功したので、すぐに探し出せはするのだが、危なくなってからでは間に合わない。何しろ現時点ではムゥのステータスはオール1なのだから。
「またどっか行ってしもてんで」
ケネスからもらった簡易地図を見るのに、セラの背に乗っての移動となっていたエリィがやれやれと肩を竦める。見ていた地図を丸めて収納へ放り込むとマップを起動した。
「いつの間にこんなに離れてるのよ…【ムゥ、大丈夫? 離れすぎてるから戻って】」
「ほんまムゥは落ち着きあらへんなぁ」
眉根を下げ付き合いきれないと言いたげな態度を装いながらも、ムゥの事をアレクが気に入っている事を、エリィもセラも知っている。
【ムゥ? 何かあったの?】
返事が返ってこない事に全員の足が止まった。
マップ上にはムゥの現在位置が今も描出されているので、生きているのは確かだが、状況まではわからない。
【ムゥ殿?】
【…ぇっと…ごめんなさい、あのね、主様…おっきな人が喧嘩してるみたいなのぉ】
【【【……はぁ?】】】
どうやら人間種の大人体格の者が争っているらしい。
周りを見渡せば、人里があるような開けた場所には程遠い林の中だ。そんな場所に居るとしたら、盗賊か兵士か冒険者か…いずれにしろ出会いたいとは思えない。
【ムゥ、そこでじっとしてて、迎えに行くから】
エリィがセラの背から降りて振り返る。
【人間種が居るなら、私達も念話にしときましょ。セラはここで待ってて、下手に動いて見つかっても面倒だし。アレクは家猫モードになってくれるかしら】
【承知した】
【僕も一緒に行ってええのんか?】
【ムゥ待ってる!】
【その喧嘩してるって言うのが何者か確認しておきたいから、静かにね】
進路からかなり逸れて、かなり離れた場所。
深い森程ではないが、それでも大きく育った木や藪のおかげで、それなりに視界は悪い。
木の陰に隠れながらも、その幹にへばりついて声のする方向を眺めるムゥを見つけた。そぉっと近づき、同じように木の陰に隠れて、同じ方向を窺うと、そこには判断に悩む人族の男性達がいた。
【人族やね…確かに何や争とんなぁ】
【主様ぁ、あれって喧嘩だよね? 喧嘩はメッなのに】
【ぅん、まぁ……】
「何で見失ってんだよ…」
「うぅ~~俺だって頑張ったんすよ?」
「ギズルが見失わなきゃ、アジト見つけられてたかもしんねぇんだぞ?」
「そうかもっすけど、ヤッシュが団長に報告に行ってる時、一人だったんすよ?」
「俺ら二人でどうにも出来ないんだからしょうがないだろうが」
「だったらヤッシュが見張って、俺が報告でも良かったじゃないっすか…」
「……お前がちゃんと来た道を戻れるならな?」
「うぅ…」
話から察するに、彼らは盗賊の後でもつけていたのだろうが、それを見失ったという事らしい。
つまり彼らは捕縛側という事だろう。ただ装備と言えるほどのものはしていない。
ハレマス調屯地に残されていた衣類よりも簡素で、まだこの季節寒いだろうと思われる服の上に、使い古された革の手袋と胸当て、そして長靴。一応帯剣はしているものの、実用に足るものかどうかはわからない。
そんな見た目だったので、判断に悩んだのだが、とりあえずは悪人側ではなさそうだ。
【この近くに盗賊のアジトがあるって事かしらね】
【話聞いてるとそうみたいやな】
【主様ぁ、アジトってなぁに?】
【拠点、隠れ家、まぁ今回の場合は悪い人たちが集まってる場所、かしらね】
【やっつけに行くのぉ?】
ムゥの意識は既にエリィ達の方へ移っており、何故かとても期待に満ちた目をしている。
思わず溜息を零しかけて、エリィは慌てて飲み込んだ。
(ムゥは『厄介事ホイホイ』ならぬ『厄介事ミサイル』なのかしら…だとしたら問題だわ。厄介事なんて真っ平御免なのに)
【行きません。ほれ戻るわよ】
【悪い子はメッしなきゃなんだよ! 行きたいぃ~】
エリィとアレク、そして恐らく離れた場所で待つセラも同じく頭を抱えているはずだ。
これからどう教育していけば良いのだろうと……。
【何でそないに行きたいんや】
【だってだって、何だか楽しそうなんだもん】
【ぅ~ん…どう捉えればいいのかしら…正義感がある? それともいじめっ子予備軍? いや…やっときちんと食事ができて身体ができてきたから、動けるのが楽しいっていう面もきっと…だけどソレとコレは別問題よ】
【ムゥ悪い子…?】
半べそ状態のムゥを抱えて、直ぐにこの場を離れれば良かった。
いや、離れても間に合わなかったかもしれない、間違いなく間に合わなかっただろうが、『後悔先に立たず』を実体験はしたくなかったのは嘘偽りない本心。まぁきっとこの先、その実体験は繰り返す事になるのだろうけれど。
ヒヤリとした空気が流れた――
その次の瞬間には、藪の陰からギラリと輝く剣先が、エリィの背中に向けられていた。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)