42話 証札げっと!
ずっとわからないままだった現在位置名…
「ハナミさん、早いね」
念話に没頭するあまり、無防備に突っ立っていたエリィの背後から声がかかった。
驚愕に念話を打ち切って、声の方へ身体ごと向き直る。
「ケ、ケネス?」
「えーっと…悪ぃ? なんかビックリさせちまったみたいだな」
咄嗟の事に驚愕を隠しきれなかった事がケネスにバレバレで、ばつの悪い事この上ない。
「ぃゃ、寝てるとばかり思ってたから…ところでケネスは何をしてたわけ?」
「カーシュはまだ寝てると思うがな。俺はいつも通りの時間に目が覚めちまったから、ちょっとこの辺を見て回ってた。ここに入ったのは日もだいぶ傾いてたし、夜は夜で早々に休んじまっただろ? それでなんだけど、俺、ここ知ってると思うんだ」
「え!? マジで!?」
「ま、まじ、で?」
言葉の意味がわからなかったらしく、首を捻っているケネスを置き去りに、エリィはアレクとセラに念話を飛ばす。
【ちょっと、今いる場所がわかるって!】
【ほんまか!?】
【………】
セラからの反応は今一つパッとしなかったが、エリィとアレクはやや興奮気味だ。
【今暫く張り付いて、あれこれ情報ゲット頑張るわ】
【面倒くさなったて、言うてへんだっけ…?】
【あの時はあの時、今は今よ!】
さよか~と生温かくもない返事を脳裏で聞き流し、隣で自分を見下ろしてくるケネスを見上げた。
「何でもないわ、それでここが何処かわかるの?」
「あ、あぁ、入ったときは気づかなかったんだけど、あのピンク色さ」
そう言ってケネスは昨夜の宿代わりにした建物の隣、恐らくだが酒場兼宿屋の役目を担っていただろう2階建ての建物を指さした。
「初めて見たとき、皆目立つねって笑ってたんだ」
エリィも振り返って仰ぎ見る。
確かに屋根と木戸のピンクは、良くも悪くも印象に残りやすそうだ。
「そうなんだ、それでここ……どこなの!?」
「はぇ?」
場所も知らず旅する幼女に、ケネスが若干引き気味に、だけど盛大に疑問符を飛ばす状況の中、必死で考えた言い訳が『捨て子だったのを見知らぬ婆様が拾ってくれて、今まで婆様以外と関わらず森の奥で暮らしていたが、その婆様が天に召されたために旅をする事になった』というものだ。
ケネスが以前暮らしていた場所でも、時折子捨てがあったようで、ラノベもりもりの設定でも特に不審に思われなかった。
それはそれで、この世界の現実の一端であるわけで、そんな憂き目にあった子供たちの事を思えば、些か気分は宜しくない。
「じゃあわからなくっても仕方ねぇかもな。後々役に立つ名前じゃねぇだろうけど、ここは『ハレマス開拓調査団駐屯地』長いから『ハレマス調屯地』って呼んでたっけな。2年以上前だったかな…ドラゴンが現れたとかって、俺が住んでた村含めてさ、この辺の人里は即放棄して避難しろってお達しが来たわけよ。だから色々とそのまんま残ってるんだな………だったらさ、もしかして証札とかも知らねぇ?」
「うん、色々と教えてほしいわ」
「任せとけ!…っつって、俺馬鹿だから大したことは知らねぇけどさ。まぁ、こんなもんじゃ礼代わりにもなりゃしねぇけど、何でも聞いてくれ」
ケネスに証札を作ろうと誘われ向かったのは、昨夜のお宿、冒険者ギルド風建物だ。
扉を開けて中に入ると、ケネスが窓を開けに壁の方へまっすぐ向かう。閉まったままでも隙間から朝の光が差し込むので、移動くらいなら出来なくもないが、見え難く不便なことに変わりはない。
窓と言ってもガラスが嵌め込まれている訳ではなく、ただ木戸を開閉するのみの簡素なものだ。
全部の窓を開き終わると、室内に澱んだように留まっていた空気が入れ替えられ、お日様の光と相まって清々しい。
ケネスは室内を一瞥して頷いた後、カウンターのファンタジー装置に近づいた。
「これさ。これにこうして手を乗せると証札が発行されるんだ。簡単だろ?」
ポンポンと丸い水晶部分を叩いてから、ケネスは実践するように手を静かに置いたが、装置はうんともすんとも言わない。
「それ、起動してないんじゃ?」
「ぅ……そ、そうだな。えーっと」
ケネスが装置のあちこちを触ってどうにかしようとしているが、やはり沈黙したままだ。
その様子を見ていたエリィは、見上げる状態のままでは観察も何もできないので、軽く室内を見回し、椅子を一つ引っ張ってくる。カウンター横に設置して、それによじ登るとまずは装置を観察した。
丸い石部分は直径15㎝くらいの半透明。前世の水晶球ならお高そうなビロードの布の上にでも置かれているのだろうが、装置の石は台座部分に3分の1ほど埋まっている。台座の方はと言うと、こちらも石製だろうか、触れると水晶球部分同様ひんやりとしていた。前面に線のような隙間が1本あるが、ここからカードが出てくるのではないかと予想する。更に台座の上面、水晶球の接地部分近くに小さな窪みがあるのを見つけた。
(この装置もどうせ魔具よね…となれば、魔石をその窪みに置いたら……)
すっかり自分の物とした背負い袋を、乗っている椅子の座面に下ろし、中を探る振りをして小さな魔石を一つ取り出す。
小屋付近での討伐練習や、ここまでの移動の間にかなりな素材が収納に収められている。魔石も同じくだ。
指先でつまんだのは直径が1㎝ほどの半透明な魔石。これを装置の台座にある窪みに取り付けてみると、水晶部分が淡く発光しはじめる。とても淡いが少し黄色味を帯びていて落ち着く色合いだ。
「すっげ、ハナミさん、魔石まで持ってんのか……って、悪ぃ、これに手を乗せてみろよ」
ケネスに言われるまま発光する丸い石に手を乗せると、光が強くなる。
暫くして、光が元の強さに落ち着くと、台座から1枚のカードが出てきた。
「これが証札…という事は、私はここ出身って事になるの?」
手に取った札は不思議な質感を持っていた。いぶし銀のような色味で金属みたいに固いのに、とても薄く紙の如き軽さだ。それなのに金属が持つ冷たさはなく、何で作られているのかさっぱりわからない。
表面には何も記載されておらず、鈍い光沢を放っているだけだ。何か記載されているなら裏面だろうと、ちらりと覗き見れば、やはりそこに呼び名と生年月日が記載されていた。大っぴらに裏返さなくて正解だったと、エリィは安堵の溜息を小さく漏らす。
「出身って…発行した所の名前ってことか? 発行場所は記録されないよ。どこで発行しても同じなんだ」
「へぇ不思議。それにあっという間に発行されちゃったけど、無料でいいんだ?」
「証札だけなら無料だな。ハナミさんは森の奥で育ったって話だから、知らねぇかもしれんけど、あちこち戦だ内乱だとあってさ、まだ人の出入りが多いから、今はまだ無料なんだとさ……ま、そんなだから俺もカーシュもあんな所に攫われたりしちまったんだけどさ」
見ていたカードから顔を上げて、椅子に乗ってることで近くなったケネスの顔を気遣わしげに見つめる。
「急に悪ぃ。まぁきっと気分のいい話じゃねぇし、これ以上巻き込むなって怒られちまいそうだけどさ、良かったら聞いてくれねぇか…」
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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ゆっくりではありますが、皆様に少しでも楽しんでいただけるよう更新頑張ります。
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