39話 ケネスと涙と
ズースの話はどうしよう、読みたい方などいらっしゃるのだろうかと悩み中……
焚火の周りの地面に刺しておいた肉串が、そろそろ良い具合に焼けてきたようで、香ばしい匂いが鼻を擽る。
エリィは1本手に取り、焼け具合を確認してから、ケネスに水筒と共に手渡した。自分もしっかりと焼けている肉串を手にし、頬張り始める。
暫く全員が無言で食事をしていたが、カーシュの手からデッティの実の果皮が転がり落ちた。
甘い実を堪能したら再び睡魔が訪れたらしく、うとうとし始めている。そんなカーシュに心配そうな目線を向け自分に寄りかからせると、ケネスはエリィに向き直った。
「あのさ…ありがと、弟まで助けてくれて」
さっくりと食べ終えた串代わりの枝を、背負い袋経由で収納に放り込んでいたエリィが、ケネスの声に顔をあげる。
「偶々よ」
「そうかもしれないけどさ、俺と弟が助かったことに変わりないからな」
「…まぁ、感謝してもらえるなら助けた甲斐はあったって事かしらね」
「……ハナミちゃ…ぃゃ、ハナミさんは凄ぇな」
唐突な言葉に意味がわからず、エリィは首を傾げた。
「俺よりもちっこいのにさ、一人で旅して、人助けなんかもしてさ。それに薬師なんだろ? ほんっと凄ぇよ」
「別に、そういう訳じゃ…」
持ち上げられても何も出せるものはないし、薬師でもないぞと、エリィは内心やや身構えるが、ケネスはそれに気づくことなく言葉を続ける。
「助けてもらってやっとほっとできたのにさ、もうこれからどうしよとか、俺なんかが助けられていいのかとかさ…悪ぃ、俺何言ってんだろうな」
「色々と考えられる余裕が出てきただけでしょ」
「……」
ケネスは唇をギュッと噛みしめて俯いた。
「ほんっと何やってんだかな…ハナミさんは恩人であって、友達でも何でもねぇのに、こんな弱音なんか……」
ケネスが持っている枝串にはまだ肉が残っている。食べながら凹んでいったと言うところだろう。
何も持っていないほうの手もグッと握りしめ、俯いている肩が微かに震えている。見れば足元の地面が不揃いな水玉模様を描いていた。
(諸々の感情が溢れて制御できない感じかしらね、暫く放っておくしかないか…ちょっと眠くなってきたんだけど、付き合うしかないわよね、これ…はぁ)
面倒くさがりが出張っている脳内とは別に、エリィは口元の表情も、態度も変えることなく聞き役に徹している。
遠く虫の声だろうか、リリリ…と懐かしい鈴虫のような声が聞こえる。
小屋周辺では聞いたことのなかった音色だ。
こちらの世界では季節に関係なく鳴くのだろうか、それとも生態そのものが違う? もしかしたら早春だというのが勘違いで今は秋なのかもしれない…等々、取り留めもない事を考えていると、ケネスが顔を上げてこちらを見ていた。
向けられている水色の瞳は潤んでいるものの、どこかすっきりとして見える。
「へへ…悪ぃな。ハナミさんてさ見た目はガキのくせに、雰囲気も声も落ち着いてるし、話したら年上って感じなんだもんな。何かズースさんみたいで、頼り甲斐があるっつうか…みっともねぇ所見せちまって」
へらりと照れ臭そうな笑顔を向けてくるケネスの言葉の何かが、エリィの脳裏に引っかかる。
(ぅん? 何か…ぁ…『ズースさん』か、それが引っ掛かったのね。確か死体の名前だったはず……つまりどういうこと? ケネスはズースに頼っていた? わかんね…死体の方も少しは調べておけば良かったかしら、ね)
気にはなるものの、ケネスから話すのならともかく、こちらから突っ込んで聞く話ではない。人様の機微に疎い自信がありまくりのエリィとしては、どこが地雷かわからないし、踏んで宥めるのはもっとゴメンだと、聞き流すことにした。
「問題ないわ。そろそろ寝ましょ。カーシュもその姿勢じゃ苦しいだろうし。使ってた方のテントで寝て。寝具とかはないから、毛皮で良ければ貸すわ」
エリィの言葉にぁっと小さく零して、ケネスは自分に凭れ掛かって寝息を立てているカーシュに顔を向けた。
「そうだな、このまんまじゃ休めねぇだろうし、ちゃんと寝かせるよ」
「そのほうがいいわ…ぁっ、と」
二人を就寝に促そうとしたところで、エリィは思い出したように手を伸ばした。
「明日には廃村に着く予定よ。警戒はしながら行くけど、一応大丈夫そうな場所みたいだから」
カーシュを抱きかかえ立ち上がろうとしていたケネスが動きを止めて頷く。
「……わかった…」
毛皮を数枚取り出し、ケネスの方へ近づいて渡すと、アレクとセラが待つテントの方へ身体の向きを変えた。
「それじゃおやすみなさい、また明日話すわ」
一夜明けて本日も晴天である。森の中だから薄暗いのは仕方ないが、雨が降られるのは辛いので、気分は上々だ。
カーシュとケネスはまだ眠っているようで、テントの方からは何も聞こえない。
その状態にほっと小さく息をついて、テントの中のアレクとセラに声をかける。
遮音がされているし、話声でケネスとカーシュが起きだしても面倒だと念話で声をかけた。
【二人とも、外に出て離れたところで待機してもらってもいい?】
【もちろん構へんで、先行したらええか?】
【承知した】
【全員朝食も摂らないといけないから、離れた場所でまず待機してて。で、先行はしなくていいわ、後ろから気づかれないようについてきて】
【了解や】
【とりあえず先に隠れてもらっていい? 話は念話でできるし】
【せやな】
エリィはテントの外、少し離れたところで門番よろしく仁王立ちしながら、背後のテントからアレクとセラが、足音を忍ばせ離れていくのを確認していた。
昨夜消した火を熾しなおし、拾った枝を短剣で整えて肉を刺しているとケネスがテントから出てきた。
「おはよ。昨夜と同じ肉串になっちゃうけどいいかしら? 手持ちの食材がこれとデッティの実くらいなのよ」
「おはよう。食わせてもらえるだけで助かってんだ。こっちこそお荷物になっちまってて悪ぃ」
居心地悪そうに苦笑気味に頭を掻いているケネスに、手を止めて手招きする。
「それじゃ手伝ってもらおうかしら。整えた枝に肉刺してってくれる? 刺せたら焼いてって」
エリィから手渡された枝を受け取り、ケネスが満面の笑顔を浮かべた。
「おう! 任せろ!」
肉が焼きあがる頃にカーシュも起きだしてきたので、デッティの実といくつかのポーションをケネスに渡し、エリィはさっさと座り直して肉を頬張り始める。
それを見てケネス達も食事をし始めた。
カーシュの顔色もマシになってきており、実を二つ平らげた後、仕上げとばかりに体力回復ポーションを飲んでいる。
まだ2等級に満たないエリィ作の物なので、味は大変宜しくないのだが、眉根をギュッと寄せて一気にあおるカーシュは、見ていて微笑ましい。
(元気が出てきたようで、何よりね)
エリィは、彼らが食後の休憩をそれなりにとったタイミングで、串用の枝を集めてきてくれないかと頼んだ。広げたままのテントをそのまま収納される場面は、あまり見られたくない為だ。
ケネスもカーシュも笑顔で頷き、その場を離れる。
その隙にテントを回収し、火を消しておく。焼けた数本の肉串を地面に刺したまま残して。
「おーい、こんなもんで足りるか?」
「頑、張って…拾って、きました」
(うん、子供は喧しくて苦手だけど、カーシュは良い子だし笑顔は可愛いわね)
等とあまり聞かせられない事を考えながら、エリィは枝を「ありがと」と受け取り背負い袋経由で収納へと放り込んだ後、立ち上がり二人に向き直る。
「それじゃ出発しましょうか」
エリィの言葉にケネスが火の跡周りに残された数本の肉串に目を向けた。
「ぁ、あれいいのか? そのまんまで」
残された肉串を指さすケネスに頷きを一つ。
「もし魔物が居ても、それの匂いに釣られてくれたら、少しは安全に移動できるでしょ? だから残して行くわ。さて、歩くわよ」
なるほどと納得してケネスとカーシュはエリィの後に続いた。
(荷車の事突っ込まれなくて良かったわあああぁぁぁ)
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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